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「分からない」相手に触れる――『安達としまむら 5』

今回取り上げるライトノベルはこちら、入間人間氏の描く百合小説『安達としまむら』5巻目です。


 (前巻の記事

まず、今巻冒頭にWEB発表のif短編「もしみんな小さかったら」が収録されていて驚きました。これは彼女たちの幼稚園時代を描いていますが、あくまで安達としまむらが幼稚園時代に出会っていたら……というパラレルストーリー。こういうお遊びはWEBではしばしばありましたが、単行本に収録されるとは珍しい。まあ平行世界間を移動できる(らしい)宇宙人ヤシロにかかれば何でもありなのかも知れません。
(ちなみに、その後の本編冒頭部「頼まれなくたって会ってやる」も単行本の発売予定公表に先立ってWEB公開されています)

さて、本編は2年生の夏休みです。
夏休みをどうしまむらと過ごすか色々と考えて頭がいっぱいの安達、他方でしまむらは(3巻から登場の)旧友・樽見から誘いを受けます。樽見の方もかなりしまむらに執着が強いようで、多方面に(同性にのみ)モテるしまむらですが、まだ修羅場が表面化したりはしていませんでした、今までのところは(安達と樽見の邂逅はありましたが、お互いにしまむらとの関係は知りません)。
しかし今回、夏祭りで屋台のアルバイトをしていた安達は、ついに樽見と一緒に(ついでに妹とヤシロも連れて)遊びに来ていたしまむらの姿を目撃してしまいます。

しまむらへの想いや嫉妬……様々なものがついに暴発して、それをぶつけてしまう安達ですが、しまむらの反応は恐ろしいほどに冷淡なもの。
4ページを超える分量で切れ目なく延々と続く安達の一人語りと、対するしまむらのそっけなさで絶望的なまでの温度差が浮き彫りになる場面は一種の狂気すら感じさせますが、しかしそれはここに来て作風を切り替えたという単純な話ではありますまい。
日常と狂気は元より地続きなのです。だからこそ、ここまで描いてきたことの延長でこの展開もできるのです。
ことに愛は、古人も狂気に準えたことですし。

しかもここまでになっておきながら、これはケンカや断絶に発展することすらありません。
しまむらはどこまでも淡々としていて、それがなおさら怖くもあります。

口絵を含めて230ページ足らずの今巻の半ば近くまでを費やして二人それぞれの日常を描いてきた第一話は今までよりも小刻みに二人の視点が切り替わるのに対し、その第一話の最後で、安達が夏祭りでしまむらを目撃……となってからはしまむら視点が消え、安達視点のみになることで、安達にとってのしまむらの「分からなさ」がいっそう際立ち、読者にも共有されます。

しかし、では「相手のことが分からない」なら、もっと親密になるためにはより「分かる」ことが必要なのかというと、そうとも言えません。
今回も章間には日野と永藤、それにしまむらの妹とヤシロの日々を描いたショートストーリーが挿入されていますが、そちらを見るとどうでしょうか。たとえば永藤視点のパートで、

「なー、永藤」
「ウォウウォウウォウイェイ」
「なんなんだお前」
 日野に伝わるものはなかったらしい。残念である。
 すっごく今、機嫌いいよって表現したつもりなのに。
 (入間人間『安達としまむら 5』、KADOKAWA/アスキー・メディアワークス、2015、p. 197)


幼稚園時代からの付き合いでありながら、二人の間では(少なくとも言わんとする内容は)何も伝わっていませんし、日野は永藤が何を考えているか分からない、予想外のことをする、と常々思っています。
他方で永藤も、何度か日野家に行ったことがありながら、今更になって日野の家の事情を察したりしています(今までにも知ったことはあるものの忘れているだけかも知れませんが)。

にもかかわらず、お互いに相手を分からないことまで引っくるめて「そういうもの」として受け入れ、信頼して、その関係を安定したものと信じています。まさしく熟年夫婦のように。
以下は安達たちとの待ち合わせに遅れてきた場面ですが、

「待たせたな、主に永藤のせいで」
「え、そうあの?」
 そうだよ、と日野が振り向いて念を押すと「うむそうかも」と永藤が納得する。
 なんというか、味のあるやり取りに思えた。永藤が日野を全面的に信用しているのが窺える。
 (同書、p. 206)


しまむらの妹とヤシロに関してはもっと極端で、ヤシロは正体不明で、ほとんどの常識を知らず、神出鬼没で、本人も「ドーホー」を見付けたらすぐに宇宙に帰ると言っています。――まあその同胞捜しにしても、「とりあえず三百年ほど探すつもりでしたが、暑いので三日にしました」(同書、p. 127)と言うなど、全てが無茶苦茶なのですが。
(他作品――もっぱら『電波女』と『虹色エイリアン』――の情報を合わせて考えるなら、数億年の寿命を持つヤシロ族(仮称)にとってはそんなタイムスケールなどどうでもいいことなのでしょうし、当の「ドーホー」たる星宮社のその後を見るに、少なくとも10年、ひょっとすると500年以上、彼女らが宇宙に帰る気配はない――つまり多分、それまで見付からないと思われる――のですが)

日野と永藤は幼少時からの付き合いで、しまむらの妹とヤシロは最近出会ったばかりですから、過去の付き合いの長さも、今後の関係の見通しも関係ありません。
私は『ぼっちーズ』文庫版の時に「日常会話というもののほとんどは限りなくコンテンツがありませんし、またそれを必要としません」と言いましたが、まさしくそれ、問題はコンテンツを超えたところで相手の存在に触れることに掛かっています。

とは言え、安達はしまむらにとっての「特別」になることを望み、「しまむらのことをもっと知りたい、手にしたい」という欲があるのに対し、しまむらは「特別」を望まず、同じ学校に通っているといった接点がなくなれば離れていく関係を当然だと思っている――つまりは「触れ方」に関する態度がまったく違うわけで、その限りでやはり両者が平行線なのは変わらないのですが。
しまむらの分からなさというのも、コンテンツのレベルで何を考えているのか分からないというよりも、コンテンツの分かる・分からないを括弧入れしたところで触れようとしても摑み所がない、ということに尽きるのではありますまいか。

他方で、しまむらの側としてはどうでしょうか。
時々言及されるのが、ヤシロがしまむらの子供の頃に似ているという話です。しまむらも子供の頃から今のように冷めていたわけではない模様(その辺の示唆として、上述のif短編の収録にも意味があったのかも知れません)。
そして、2巻ではブーメランにちょっとはまって、結局プレゼントにもそれを選んでしまうなど、今でも童心を見せることがないではありません。
「お互い、あんまり子供してないねえ」と苦笑したり、安達が子供として親に十分甘えることができなかった(だからこそ保護者的なものをしまむらに求めている)ことを示唆していたりと、本作において「子供」は重要なテーマになっています。
実際、子供のように無邪気になれば相手に触れるのも容易かも知れません。

とは言え、単純にしまむらが童心に還る――かと言うと、本作の様子から言っても、作者のこれまでの作風から言っても、そのように人生を可逆的に描くとは思えないところがまた、問題なのですが。
三つ子の魂百まで――人は単純に自らの内なる「子供」を捨て去って大人になるわけではないけれど、さりとて子供に「戻る」というわけにも行きません。

さてどうなるか――今巻は(今までどこで終わってもおかしくない区切りだった本作としては初めて)はっきりと「夏休み後半に続く」となっています。
後半ではしまむら視点が増える可能性もありますし、ここからの展開に期待しましょう。

 ~~~

さて、作者の入間氏は来月には、「しゅうまつがやってくる」のノベライズを刊行予定。文庫ではなく単行本です。
最近非常に多いボーカロイド曲のノベライズで、楽曲の制作者とは別の小説家がノベライズを手がけるのも先例はありましたが、入間氏もこういう企画に関わる日が来ようとは。
1月には『クロクロクロック(結)』も刊行予定で、久々に3ヶ月連続しての刊行、楽しみです(全6巻予定の『クロクロクロック』が3巻で完結することになったのは残念で、どうなるか不安もありますが)。






『終末シリーズ』メドレー版↓


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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