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帰還兵としての「魔法少女」――『魔法少女特殊戦あすか』

今回はこちらの漫画を取り上げさせていただきます。ただし手短に。



本作の世界は、謎の生物・地冥界(ディスアス)の侵攻によって危機に瀕していましたが、魔法少女たちの活躍によって地冥界のボス「冥獣王(ディスビスト)が打倒されて3年が経ちます
主人公は「冥獣王」と戦った5人の精鋭魔法少女の中でもエース格だった大鳥居(おおとりい)あすか
今はもう魔法少女を引退し、普通の女子高生として生きようとしている彼女ですが、世界は未だテロリストや地冥界の残党の「生物兵器」が横行し、平和には程遠い状態。彼女も望むと望まざるとに関わらず、大切な身近な人を守るため、新たな戦いに巻き込まれることになります。

魔法少女特殊戦あすか2
 (深見真/刻夜セイゴ『魔法少女特殊戦あすか 1』、スクウェア・エニックス、2015、p. 38)

本作の特徴は、まずそのミリタリー色の強さ。私は原作者の深見氏の作品をそれほど読んでいませんけれど、これが氏の持ち味の一つであるらしいことは分かります。
魔法少女の変身アイテムと武器もカランビット(ナイフ)や銃だったりしますし、何よりこの世界においては魔法少女も軍事機構に組み込まれて、軍の主力として戦うのです。

魔法少女特殊戦あすか1
 (同書、pp. 8-9)

それでいて、地冥界の魔物は瞬間移動と電子機器に対するステルス能力を持っているために通常兵器では敵わず、魔法少女に頼るしかないとか、変身中の魔法少女は認識阻害の魔法がかかっているので、公的に活躍しても正体は知られていないとか、この設定を可能にするための細部は色々と考えられています。

そして何より、あすかは戦いに従事した結果として敵に家族を殺された過去があり、今でも日常生活中に過酷で凄惨な戦いがフラッシュバックするなど、戦いの陰を背負い続けています。
その辺もいかにも「帰還兵」という感じで、真に迫った重みがあります。

ただ――
「ヒーローの戦後」というのは、すでに定番のテーマと言っていいものです。
戦いで負った傷や陰、戦いが終わっても平和にはならず新たな物語の始まり……それは良いのです。定番のテーマというのは、それだけの描き甲斐があるということ。料理の仕方次第でいくらでも可能性はあります。
ただし本作をそうして見ると、その「ヒーロー」が「魔法少女」でなければならない必然性はほとんど見当たらないというのも事実です。
本当に、外見だけ。

敵である「地冥界」の魔物の姿が魔法少女たちのマスコットキャラクターとよく似ていること、さらには敵側に「悪の魔法少女」が登場しているのを見ると、敵が同系統の存在という意味で「仮面ライダー」に近いものがあるかも知れません。

魔法少女特殊戦あすか3
 (同書、p. 127)

深見氏の作風としては、悪は分かりやすく悪としてクリアに描く方だと思われるので、これは魔法少女の内的構造の問題――魔法少女であることは必然的に悪に転ぶ可能性を含む、といった――に向かうわけではないのかも知れませんが。

 ~~~

さて、毎年何人もの作家が新人賞を受賞してデビューしていくわけですが、その背景にはその何倍、何十倍もの数の落選者がいます。
さらに、かつて時雨沢恵一氏は『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』の主人公に、そうして落選する「作家志望者」の背後には、さらなる数の、作家志望と言いつつ作品を書くにも至っていない「作家志望者志望者」がいる、と言わしめました。

しかし私は付け加えて言いたい――たとえば「プリキュアみたいな“魔法少女”が血腥い過酷な戦いに身を投じてベトナム帰還兵みたいに身も心もボロボロになったら」といった一言で要約できるレベルでのネタを駄弁りの中で思い付いて口にしている人間は、「作家志望者志望者」よりもさらに桁違いに多いのだ、と。
「歴史上の人物を萌え美少女化した戦記」とか、「冴えない主人公のもとにある日突然美少女がやって来ると思ったら筋肉ムキムキのアニキが付いてくる」とか、まあ何でもいいんですが。
そういうレベルのネタを思い付くだけなら、私のように創造性がない人間でも、ものを書こうなんて思わない人間でも、誰でもあります(同じネタを考えたことがあるというわけではありません、念のため)。

しかし、そのほとんどはそれを作品として形にするところまで行きません。物語として通すべき筋を用意できないからです。

そして、そんな素人でも到達できる点が、プロの作家の作品をにとって真に重要なポイントになるはずはありません、常識的に考えて。

「ダークな魔法少女物」「血腥い魔法少女物」といったキャッチフレーズはそういうレベル、一番表面的なことであって、そうやって作品の“特徴”を形容しても、実は何も言っていないに等しいのです。
そういうことが差別化のポイントになると思って、「魔法少女の裏面を描くけれど某有名作品と違って死者が出るわけではありません」などという方向で考え始めると、駄作を生む元になります。

だから私は、そういう安い形容や、ましてや「ファンシーな魔法少女のイメージと残酷さのギャップが~」などというのが「売り」になるかのような言い方はもうやめた方がいいと思っています。

さて本作『魔法少女特殊戦あすか』は、単に「魔法少女を軍事の過酷さの中に放り込んだ」というだけの安直さに留まらない「売り」を見せてくれるのか。
期待しています。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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