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熱く温かい素晴らしき街――『英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~』

SUGOI JAPANなる企画、去年は気に留めつつも年末の忙しさで投票しないまま終えてしまったのですが、2年目となる今年も開催するとの報を見て、初めて毎年開催予定なのだと気付きました。

 SUGOI JAPAN

「マンガ」「アニメ」「ラノベ」「エンタメ小説」の4部門においてそれぞれノミネート作品についてWeb投票を行うのですが、しかしノミネート対象作品がその年の作品に限るというわけでもないのに、年一度の開催というのも不思議な気がします。
新作を対象にした人気投票ばかりでは「水物」たる性格をますます後押しするばかりで、そればかりが良いと思うわけでもないのですが、ただ往年の名作まで対象にしてのノミネート作品のラインナップを毎年維持できるものだろうか、という疑問も。

 ~~~

それはそうと、今回取り上げるライトノベルはこちら。
富士見ファンタジア文庫から刊行の新作です。



先に書誌情報を確認しておきますと、作者のアサウラ氏は集英社から『ベン・トー』、『ファング・オブ・アンダードッグ』、オーバーラップから『デスニードラウンド』、『生ポアニキ』などの作品があり、この度の『このライトノベルがすごい! 2016』でも『生ポアニキ』は38位にランクインを果たした作家です。
そして本作は――あとがきで作者も説明していますが――「富士見Beyond」にてWeb小説として「アルコ・ホール三番街の何でも屋」として連載されていたシリーズ(現在は連載の方も「英雄都市のバカども ~アルコ・ホール三番街の何でも屋~」と改題)ですが、今回刊行の『英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~』はWeb連載とは別の書き下ろしとなります。
思えば、まず雑誌発表で作品紹介というのは伝統的なスタイルだったかも知れません。かの『涼宮ハルヒ』も『憂鬱』の刊行に先立って短編(野球編)を雑誌掲載していますし。

さて、本作は異世界ファンタジー作品と言っていいでしょう。
舞台はロテとオードビーという二大国の国境線にあって、かつての大戦でも自衛を貫いた英雄たちの子孫が住み、そして今でも流通の拠点として栄えている街リキュール
主人公はリキュールの中心街アルコ・ホールに住む何でも屋モルト。腕っぷしは強いのですが貧乏、仕事にありついて稼いだかと思えば酒と女に釣られて浪費してしまい、下宿の家賃を滞納しては家主の娘リッツ(12歳)にどやされている日々です。

今回はそんなモルトがディナと名乗る少女を助けます。
他方でその頃、リキュールの街はヌストルテ帝国軍によって封鎖されていました。帝国軍は人を捜しているとのことなのですが……
まあ、読者にはすでにタイトルでディナの正体は察せられますし、帝国軍の追っている捜し人がディナであるということは、モルトたちも比較的早々に察しています。
ただ、ここでごく自然に情に篤く、そしてバカなのがリキュールという街の住人。英雄の街の人間として帝国軍などに屈さず、一人の少女くらい守ってみせようという任侠的な意気を見せます。

設定としては一つの国の命運を揺るがすような政争に関わって、街ぐるみの大規模な戦いに発展し得るような状況であり、実際シリアスな展開もあるのですが、街の住人たちの熱く、バカな気性のお陰で、本気の戦いも終始ドタバタとしてふざけたノリを崩さず、楽しく読めます。
鋼の重武装でも敵わない筋肉を持つ裁縫屋の嫁、鋼の高度を持つパンを焼くパン職人、安く早く手抜きの工事で知られた石積み職人……とろくでもない住人たちの怪技能が全てちゃんと活きてくる構成も見事なものです。
それでいて、そんな楽しく、かつ温かい情に満ちたリキュールという街の良さ――とりわけ、厳しい人生を送ってきた余所者であるディナにとっての暖かさ――がよく伝わってきて、時にほろりとさせてくれるのも心憎いところ。

酒場の親父とパン職人がそれぞれフライパンとバゲットで打ち合って衝撃波を発する、といったふざけた場面も、スーパーの半額弁当を巡る戦いで過剰に派手な描写(カートに跳ねられた女子高生が数十メートル吹っ飛ぶなど)を描いてみせた作者ならでは。そのノリを維持しつつも、ちゃんと迫力と爽快感ある戦闘も見せてくれます。


そして、生活感ですね。
本作の基本世界観として、馬以上の移動手段と遠隔通信の手段は無し、戦いは剣や槍と弓矢で行っているというのは、物語のためには外せない部分です。
しかし、それ以外の日常生活に関わる部分では、電球や冷蔵庫に相当する技術が「魔法」により実現されています(それどころかWeb連載分ではバイブレーターなども登場しましたし、衣装も浴衣が登場するなど自在です)。また、リキュールの街は古代に整備された上下水道完備です。

こうして「魔法」の一言で近代技術の代替物を取り込む設定は今のファンタジー作品では見慣れたものですし、それ自体が何かおかしいというわけではありません。
ただ、それが行きすぎて「なぜ“魔法”でそれだけのことができるのであれがないのか」という疑問を生じさせてしまうと、綻びの素になります。実際本作でも、「古代の魔導兵器」云々という言及がありましたが、なぜ今は魔法の兵器が使われている気配がないのか、という疑問はないではありません。

ただ、本作の場合はそういう要素を日常生活に関わる小規模なものに留めて違和感は少なく、そして作者の得意分野である食事の描写に活用する――新鮮な魚を届けるための冷蔵技術など――ことにある程度まで成功しています。
そして「美味いものを食って、皆で楽しく」という生活の味わいはリキュールという街の魅力を描く上でも不可欠の要素ですから、その点で功を奏していると言っていいでしょう。

現代的な生活感が出すぎるからこの作者はファンタジー世界を描くには向いていないんじゃないか、という印象は根本では今でも変わっていませんが、本作は比較的上手くやった事例と言えます。


文章でも、

 ――違う違う。――あの野郎をぶっ飛ばしてやろうとしたら自警団に止められてな。――うるせぇってやってたら……なぁ? ――あぁ、まさか自警団が俺達の方をちぎっては投げちぎっては投げってやり初めて……このザマさ。――揉めに揉めて、最後は面倒クセェから落ち着くまで入ってろって全員強制的にブタ箱入りだ。――しかし何故ワシまでぶち込まれたんかのぅ。何もしとりゃせんってのに。――アンタが両手に石材持ってたら勇者が剣抜いてんのと一緒だからな、そりゃぶっ飛ばれるわ!
 (アサウラ『英雄都市のバカども ~王女と封鎖された英雄都市~』、KADOAWA、2015、pp. 59-60)


と、群衆がガヤガヤと喋っているのを表現するのに改行なし、話者の交代をダッシュ(――)で示す表現が目立ちます。同様の表現は他作品にもあり、『デスニードラウンド』の3巻では数ページに渡り続いたこともありますが、仕様頻度では本作が際立っています。これまた、街の住人たちが親しげに(しばしばきわめてくだらない内容で)会話を交わしている様を伝えるのに一役買っています。


さて、上述の「富士見Beyond」で本作の煽りを見ると、「実は有能(?)なダメ男と家主の少女が繰り広げる<何でも屋>ファンタジー!」とあります。つまり連載における本シリーズのヒロインは「家主の少女」=リッツでした。
TV放送のアニメあるいはドラマに喩えると、Web連載の方がTVシリーズなのに対して、今回の『王女と封鎖された英雄都市』はゲストヒロインの登場する劇場版、という感じがあります。普段が短編連作なのに対して長編でより大規模なストーリー、という点でも。

ちなみにこのリッツ、Web連載を読んでいるとパンツ丸出しで逆さ吊りにされたり、風呂に乱入されて胸を揉まれたり、パンツを男たちに被られたりとしょちゅう散々なエロい目に遭っています。モルトのことを想っている健気ないい子なんですが。
そんなリッツの不憫さと健気な可愛さはゲストヒロインの登場する今回も健在ですが。

……が、しかし、今回の表紙で一番大きく描かれているのはリッツでもなく、ディナでもなく(ディナに至ってはカラー口絵にすら登場しません)、モルトの同業者の何でも屋で日本刀の使い手のサシャです。
サシャは女に見紛う美青年……ということになっていますが、まあその実態に関しては割と早々に示唆があります。
それだけなく、後半にはサシャの過去と正体に関する示唆も。

同時に、今回のヌストルテ帝国軍にはモルトの過去に関わりのあるらしき人物もいました(重要キャラで外見の印象も濃いという設定なのにイラストがないのが残念)。
その辺のレギュラーキャラの過去に関わる要素もこれから展開していくのか……これまた楽しみです。


本作は早くも1月には2巻刊行が予定されている模様。
Web連載の単行本化を期待したい思いもありますが……どうなるでしょうか。

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Author:T.Y.
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