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体制に踏みにじられた幸せを求めて、戦乱へ――『火輪を抱いた少女1 晴れのち地獄』

今回取り上げる小説はこちらです。



作者の七沢またり氏はWebサイト「小説家になろう」出身の作家で、本作は『死神を食べた少女』『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』に続き3作目の書籍化作品です。

本作の主人公はノエル、とある施設で人体実験の実験台として育てられ、軍事教練を受けてきた少女です。
結局、実験の仕上げとなる薬を飲んだ結果、彼女の同期の少年少女たちは一人を除いて倒れるのですが、倒れた中で彼女だけは、墓穴の中で息を吹き返し、人知れず自由になって去りました。
元々施設内では名前すら与えられておらず、「ノエル」というのも施設内での友達から受け継いだ絵本の主人公の猫の名前です。

生き延びて自由の身になって以降、彼女は山奥のゾイム村に流れ着いて狩人として暮らしていましたが、州の太守への反乱軍「赤輪軍」が村を訪れたことが大きく運命を動かします。
赤輪軍に徴兵されたノエルは、その力で戦局を大きく動かし、やがて大陸を統一するホルシード帝国を揺るがす内乱の主役となっていくのです。

ノエルは基本的に脳天気な世間知らずなのですが、桁違いに強く、また軍事の知識や戦場の動きを見抜く目も持っています。
そして炎を放つ不思議な二又槍を振るいます(ゾイム村に流れ着く以前に入手したもの)。この世界には基本的に魔法というのはないらしく、これは作中でも謎の品という扱いです。そして、ノエル以外には扱えません。
何より、どこまでも子供のように無邪気で、仲間は大切にするけれど、仲間以外に対してはためらいなく残酷になることもできます。
そんな彼女が周囲を驚かせる活躍をし、栄達していく様が痛快ですね。

そんなノエルの第一にして究極の目的は「幸せになること」
それは施設の過酷な暮らしの中で仲間たちと一緒に掲げた目標です。
出会う人には誰にでも「幸せになるにはどうしたらいい?」と聞いて全てをメモし、それが良さそうかどうかもチェックしているという徹底ぶり。男の子にアプローチされても、「既婚者のおばさんが結婚しても幸せじゃないと言ってたから」という理由で「結婚する」には斜線を引いて断るほど。

――というわけで、本作も戦記ものです。
『~~少女』というタイトルは全作品に共通していますが、ひたすら一つの欲望を追求する少女が活躍する戦記という点で、コンセプトは『死神を食べた少女』に近い感じです。

ただ、『死神を食べた少女』のシェラが敵なしの強さながら敗軍の将たることを予告されていたのに対し、本作の帝国内乱の結末は予告されていません。
そして、ノエルには同等以上の力を持つライバル――そう、あの施設で行われていた人体実験「黎明計画」唯一の成功例であり、ノエルの施設時代の仲間――がいて、いずれは彼との対決になることが示唆されています。

そもそも、「黎明計画」は何か高い能力を持った超人を作る計画だったらしいこと、さらにはこの計画の先の目標――皇帝の不老不死――まで示唆されてはいるのですが、詳細は分かりません。計画の成功例たる相手はどれほどの力を持っているのか分からないまま話は進み、それがどう転ぶか分からない緊張感を与えます。

それから、一介の村娘として生活していた彼女が軍で立身出世を果たしていく過程は、直属の部下を――ひいては仲間を得ていく過程でもあります。
たいてい仲間集めというのは面白いものですが、だからこそ、「仲間を集めてからミッションに挑む」のではなく、主人公の活躍と出世のストーリーが仲間集めと一体になっているのも良いところ。ノエルならではの破天荒な仲間作りも楽しませてくれます。

さて、「何よりも自分の幸せを追求する」と言って、しかも戦いで容赦なく敵を殺している――さっきまで仲間だって相手もひとたび敵に回れば容赦なしです――、自分のために他人を踏み台にするようなあり方を想像するかも知れませんが、ノエルの人物は必ずしもそうではありません。
彼女は施設時代から今に至るまで、仲間と約束は大切にしています。そもそも誰にでも「幸せになる方法」を聞くこと自体、まずは「相手が親切に教えてくれる」という信頼をもってかかっていることに他なりません。
彼女はむしろ、自分からは敵を作りません。

それでも彼女を敵に回して殺されていく人間は後を絶ちません。もちろん戦争で否応なく敵味方に分かれるというのもあるのですが、彼女をわざわざ敵に回してしまう人間は多くの場合、欲を掻いた人間です。
欲を掻いて人を踏み台にしようとするから、敵に回すべきでない者まで敵に回してしまうのです。

現在(1巻)時点では彼女になびくのかどうか微妙な立ち位置の人物もいて、どう転ぶのか、目が離せません。

ただ、――もちろん「面白い相手だから」と気に入ったりと好き嫌いはあるのですが――基本的に誰でもまずは無邪気に信用して接する彼女が唯一、会う以前に憎んでいる相手が帝国の皇帝です。
それは施設時代のしごきがあるからです。

 一番うんざりするのは、先生たちのありがたいお言葉を聞くときだ。先生たちは“教育”と“訓練”が終わった後はいつも同じことを繰り返すのだ。
『偉大なるベフナム陛下に最大の敬意と心よりの感謝を捧げよ』
『祖国に絶対の忠誠を誓え』
『太陽の御旗に決して逆らうな』
『ホルシード帝国に逆らう者には死を。我々はそのための剣となり、盾となる』
 一体何を感謝しなければいけないのだろうか。どうして忠誠を誓わなければならないのだろうか。命を捧げるほどの恩義など、一度も受けた覚えがない。だから剣になどなりたくない。身代わりの盾になるなどもってのほかだ。少女はそうする理由がさっぱり分からなかったので、先生に正直に訪ねてみた。
「建国の祖、ベルギス帝の血を受け継ぐベフナム陛下は、この世で最も尊きお方だ。陛下がおられるからこそ、我々は幸福と安寧を享受することができる。故に、我々は陛下に絶対の忠誠を誓い、その恩に全力で報いなければならないのだ」
 少女は今の暮らしが幸せだとは全然思っていないので、やっぱり意味が分からなかった。(……)
 七沢またり『火輪を抱いた少女1 晴れのち地獄』、エンターブレイン、2015、pp. 8-9


 こんな暮らしを繰り返しているうちに、少女は“陛下”のことを憎むようになった。敬うどころか殺してやりたいと思うまでに。
 (同書、p. 11)


当たり前のようですけれど、人が何かのために命を捧げられるのは、「それに生かしてもらった」と思えばこそです。
それはその「何か」が個人でも、国家のような大きなものでも、あるいはその代表たる「皇帝」であっても変わりません。
生かしてもらっていない相手のために死ぬ義理はありません。
しかし上に立つ側はすぐに踏みつけにされている者のことを忘れて、「みんな恩義を受けているはずだ」と思い込みがちです。
反体制の原点は理屈ではない、「現体制に生かしてもらった覚えはない」という実感です。

だいたい七沢またり氏の作品の主人公の「少女」たちは、体制に虐げられた者たちでした。
『死神を食べた少女』のシェラは、現王国を打倒しより良い体制を作るという大義名分を掲げた反乱軍によって村を蹂躙され、食べ物を奪われました。
『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』の勇者は、そのあまりの強さゆえに化け物と恐れられ、魔王を倒して世界を救いながら、かつての仲間たちに封印されました(その仲間が現体制の設立者です)。
彼女たちの存在そのものが体制に対する問い質しです。

上に立つ者は、自分が何を踏みつけたかなどとっくに忘れていることでしょう。
しかし、堅固な体制も蟻の一穴から、ということもあります。
戦記ストーリーを通して体制が大きく揺らぐこともあれば、『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』のように大きな体制には影響が少ない話のこともありますが、作者の描くストーリーの根幹は、いつもそういう物語です。


さて、同作者の過去2作は上下2巻構成で上下巻同時発売でしたが、本作は「I」と巻数が付いているところから上下2冊ではなく全3巻になりそうです。Webで完結済みなのは過去2作と同じですが、『死神を食べた少女』が全37話(単行本未収録の外伝を除くと全34話)、『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』が全39話(やはり単行本未収録話を除くと全37話)に比べ、全48話とやや分量が多いせいでしょうか。
しかも同時発売ではなく、2巻は2016年2月発売予定とのこと。……つまり2~3ヶ月後。いやはや、待ち遠しい作品です。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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