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「強さのデフレ」の上手い使い方――『ワンパンマン 10』

なんとなく今までにも似たような話をした気はしますが、構わず言いましょう。
バトル物、とりわけ少年漫画においてしばしば問題視されることに「強さのインフレ」というのがあります。
次から次へと「もっと強い敵が出てきて……」というやつですね。

しかし、ここはあえて言わせていただきましょう。
作品のクオリティという観点で見た場合、問題なのは「強さのインフレ」ではなくむしろ「デフレ」である、と。
まず、「そんなに強い敵が今までどこにいたのか」という説明が下手、といった問題が見られる作品はしばしばありますが、それはその敵の由来に関する設定の問題であって、強さそのものの問題ではありません。

私が「強さのデフレ」と呼ぶものは、二種類あります。

(1) 実際に設定上、前より弱い敵が出てくる(しばしば合わせて味方も弱体化する)
(2) 設定上は前と同等以上の敵のはずだが、それを描ききれず、前より弱く見える

『ドラゴンボール』などは後者に該当します。
ナッパ(全42巻中の18巻で登場)が「軽いあいさつ」程度で指を立てただけで宇宙空間から見える2000kmくらいの閃光を発生させ、見渡す限りを平らにした時を上回る描写が、その後どれだけあったでしょうか。
確実にそうと言えるのは、フリーザが実際に惑星を1個破壊した(27巻)くらいでしょうか。次の惑星破壊はラスボスのブウを待たねばならず、それ以上はありませんでした。
まあそれでも『ドラゴンボール』は、面白さという点では、かなりマシな方です。

とにかく、強い相手のはずなのにそれが今一つ伝わらなかったら盛り上がりませんし、前よりもレベルが下がったところでもたついていたりしたら、フラストレーションが溜まります。

「デフレ」が上手かった漫画としては、たとえば青山剛昌氏(現在も『名探偵コナン』連載中)の『YAIBA』があります。
『YAIBA』の主人公は完全に強さが剣依存ですから、超常の剣を手にすれば惑星破壊できるくらい強くなりますが、それがなければ身体能力が少し超人的なくらいの剣士です。
地球と合体したかぐやに惑星破壊クラスの攻撃を放つという戦いの次は、ミクロ化して猫と戦うエピソードでした(しかも超能力を持つ猫とかいうのですらなく)。

『YAIBA』の場合、剣依存ということでインフレとデフレの理由説明が明瞭なだけでなく、描写も上手く、インフレしている時にはそのスケールの大きさがよく伝わりました。島を消し飛ばして日本列島と同じ大きさの爆発を起こしたり、日本列島そのものが一体の怪物になったり……
何より、展開のメリハリがあります。かぐや編は単行本何巻も費やした大長編だったのに対し、猫編は2話で終わりました。
猫との戦いに長編の尺を割いていたら、どんな読者でも退屈したはずです。

そう、一番大事なのは、相応しい重さで扱うことができるかどうかです。
デフレするならば相応に話の規模と尺も小さくしてくれないと、ちぐはぐに感じます。それが物語が勢いを失うということです。



 ~~~

さて、ここまでが前置きなのか、それとも本文だったのかよく分からなくなりましたが(私も話の尺と重さにはかなり問題があります)、ここからは先日発売の『ワンパンマン』の新巻について触れさせていただきます。



今回も特装版と同時発売、特装版はオリジナルアニメDVD同梱です。



 (前巻に触れている記事

今回も本編は、怪人に憧れ「ヒーロー狩り」を行う男・ガロウを巡るエピソードが続いています。

ワンパンマン10巻1
 (ONE/村田雄介『ワンパンマン 10』、集英社、2015、p. 10)

上位のヒーローも次々とガロウに敗れていく中、無敵の主人公・サイタマは相手が力任せに暴れるだけの怪人と違い「武術の使い手」だという話に興味を持ち、(ついでに賞金につられて)異種格闘技大会に替え玉で出場します。
そんな中、S級ヒーロー・金属バットはヒーロー協会役員の護衛という任務に駆り出され、そしてムカデ怪人の襲撃を受けます。

ワンパンマン10巻2
 (同書、p. 80)

ワンパンマン10巻3
 (同書、)

見た目はただの金属バットを持ったチンピラながら、きっちり強く、また少年漫画らしく熱くてカッコいいところも見せる金属バット。

さて、このままだと金属バットの戦っているところにガロウが現れそうな流れですが、とにかく今巻では複数の動きがいまだ合流しないままです。
毎巻番外編が多いのもありますね。今回も3本収録です。

さて、前半の話から見ると、そもそも本作『ワンパンマン』は最初から「主人公が圧倒的に強すぎる」というのが軸であって、それを超えるインフレはありません。
その範囲内で言うと、6~7巻で戦った宇宙人ボロスが今までで最強の敵でした。
現在の敵であるガロウは、サイタマ以外の上位ヒーローと比べてもそこまで圧倒的な強さではなく、S級ヒーローを蹂躙した深海王辺りにも劣るでしょう。

しかしだからこそ、そんなガロウの戦いぶりは駆け引きもあり、むしろ王道で魅せるものがあります。
そもそも主人公が戦えばワンパンチで終わってしまうがゆえに、途中過程として他のキャラの戦いで魅せるというのが本作の基本でもありました。
今回はむしろ敵の方が主役ですが、その路線上とも言えます。

他方で金属バットの戦いは、敵を倒すとその上位が登場……とまさに「強さのインフレ」をわずかなページ数でやってしまう仕様。
これもバトル物・ヒーロー物のパロディとしての『ワンパンマン』らしさです。

ガロウという敵のみに焦点を当てればデフレであって、ガロウの戦いばかりがずっと続けばダレるでしょうが、そこは色々な要素を絡めてメリハリを付けて魅せているのが分かります。

ただこの中で、ガロウを中心とした本筋に主人公がこれ以上どれだけ絡んでくるのかは微妙な問題ですが。
そもそも今巻でさらっと(ガロウ自身も何が起こったのか分からない内に)サイタマとガロウの邂逅とサイタマのワンパンKOはもう完了してしまっていますし。

それから、ガロウが(ヒーロー協会には怪人認定されているものの)あくまで「人間」であることも意味も、まだ十分に見えたとは言えません。
この世界では割と簡単に人間が怪人化してしまうようですが(理由はどうでもいいのでしょう、多分)、そんな中で彼が人間であり続けているのは、「怪人に憧れ、怪人を標榜してヒーローを狩る」というあり方の内にこそ、かえって人間性の一線が残っているのか……
これはやはりガロウ編を最後まで読んだ時に見えてくることなのでしょうか。


今巻の表紙はS級ヒーロー・タツマキ
ただし、作中での活躍は今回、番外編のみです。
仕事を頼まれると文句を言う癖に、仕事がなければ暇を持て余していて、無理にでもヒーローとしての仕事を探し始める彼女。

ワンパンマン10巻4
 (同書、p. 138)

ワンパンマン10巻5
 (同書、p. 143)

サイタマとの初対面時には「なんでB級の雑魚なんかが」と悪し様に言っていた彼女ですが、(明らかに悪意を持っていた連中と違って)こうも単純な子供っぽいワガママだと分かると、嫌味も感じなくなってきます。

それから番外編2はサイタマが「ベストヒーロースーツコンテスト」に出る話、そして番外編3はB級ヒーローを束ねて派閥を作っているフブキ(外見はこっちの方が大人なタツマキの妹)が組を動員してサイタマと勝負する話です。
まったく自由奔放な姉タツマキに対して、数字とか地位とか外面をとにかく気にする妹フブキ。どちらも難儀な対比はよく分かりました。
そして、この番外編3では天才少年のS級ヒーロー・童帝強さ(身体能力限定)を数値化する機械を作製。数値化して「こんなに強い」というのも強さのインフレのための道具立ての一つですが、これももちろん、数字だけだと説得力がなくなります。
そんな機械を登場させて、番外編1回であっさりとその限界を示し役目を終えさせるのも、本作らしいところ。

さらに特装版に同梱のアニメは、まだサイタマに髪の毛があった頃のエピソードで、彼がヒーローとして着用しているスーツの由来を描きます。
そしてこのアニメでは、人間がまさに怪人となるその瞬間が描かれます。
悪を極めると怪人になる……らしいのですが、むしろ深い考えなどなしに衝動に身を委ねた方が怪人に近い、という話にも見えます。

怪人と人間の分かれ目というのはガロウ編の主題にも関わっていることで……こうして見ると、本編から番外編、おまけまで全てが繋がっているように思えてくるから、巧みなものです。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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