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和菓子と心温まる話――『薔薇十字叢書 ようかい菓子京極堂』

今回取り上げる小説はこちら、講談社X文庫ホワイトハートの新巻にして、「薔薇十字叢書」の新作です。



本作は『絡新婦の理』の主要登場人物の一人だった呉美由紀の視点から始まります。
夏休み、ある相談事のために古書店・京極堂を訪れた美由紀は、やはり京極堂を訪れようとしていた青年・粟池太郎(あわいけ たろう)と出会います。
何でも粟池青年の実家は京極堂の近所にあった和菓子屋なのですが、今は父が死んで店も畳んでしまった後。何とか店を再開したいので、その資金稼ぎのためにも京極堂の店先を借りて和菓子を売りたい、と(厚かましい)頼み事をしてくる粟池青年。
当然渋るも、結局協力してしまう京極堂。
美由紀も頻繁に通って手伝いをすることになります。

そうして描かれるのは、関口家に預けられた少年・宮井一雄を巡る小さな騒動、美由紀が京極堂を訪れたそもそもの理由である東京に転校してきてからできた友人・真実(まみ)との諍いと彼女の家庭事情を巡る物語、美由紀に(現代で言うところの)ストーカーが? という騒動、そして粟池青年の区切りを付けるエピソードの4編に、関口夫妻の割と平和な日々を描く閑話と最後のエピローグです。

まあそんなわけで、ほぼタイトルから予想される通りの女性向け(甘味・その他甘い話多め)の心温まるエピソード集、小さな事件があってもまさに日常の謎という感じでしたが、まあ悪くない出来だったと思います。
京極堂は子供が行方不明とかストーカーとかで周りが騒いでいる時にもつねに冷静で、的確に事態を判断し、そして厚かましい粟池青年に対しても不機嫌そうに顔を顰めつつ、実は相当な優しさを見せます。
榎木津は当然のごとく全てお見通し。
敦子と鳥口、益田と和寅に本島といった面々も登場。警察沙汰にはならないので、木場たち警察組は出番がありませんでしたが……

原作ならで蘊蓄と分析が来る場面でも、そういう要素はあまりありません。
たとえば、美由紀の友人・真実はやたらと占いにこだわる少女で、呪いの儀式などというものを通して陰惨な事件に巻き込まれた美由紀とはその点に関していささか距離があるのですが――

「占星術とタロットカードから総合的な判断よ」
 くるりと真実は傘を回す。横顔はふっくら丸みがあり、背の低い彼女を幼く見せている。星やカードが「今日のリボンは白」だなんて言わないと美由紀は思うけれど、真実はその手の「占い」の「お告げ」をかたくなに信奉している。
 (……)
「窮屈じゃない? 占いに従ってしか行動できないの」
「全然。服を着るのと同じだよ。だれも裸で外を歩かないでしょ? 占いは、よき方向に導いてくれる道しるべなんだから、窮屈とか、窮屈じゃないとか、そういう問題じゃないの……っと」
 (葵居ゆゆ『薔薇十字叢書 ようかい菓子京極堂』、講談社、2015、p. 70)


原作ならここで、それが本人にとって救いになるなら意味があるとか、実際に真実の言う通り、われわれは日常生活でも数々の「呪(しゅ)」に縛られているとか講釈が入るところ……と、つい期待してしまいますが、最初から作風が違うならばそこをとやかくは言いますまい。
京極堂の至極まともなアドバイスが暖かさを感じさせましたし。

個人的に気に入りのキャラである呉美由紀が登場するというのも気になる点でしたが、聡明で現実的なしっかり者の彼女の魅力は出ていたかと思います。
ただ、そもそも美由紀はエキセントリックにキャラが立っているタイプではない上に、原作で登場した時には(文体こそ三人称だったものの)全て視点人物、しかも閉ざされた女子校で起こる怪事件という文脈の中でした。
異なる文脈の中で、しかもしばしば彼女以外の視点で描かれると、違和感があるともないとも言えない微妙な感じがあります。

時々言ってきたことですけれど、京極堂や榎木津はとにかく記号的でエキセントリックな「キャラ立ち」をしているタイプですから、真似しやすい反面、逸れるとすぐに違和感が出ます。
他方で関口は一見すると凡庸で、そこまで分かりやすい形で「キャラが立って」はいませんが、もっと深いところで真に(病理的な意味で)まともでない部分を含む人物で、原作でも暴走したり壊れたりと色々やっているので、普段からすると「らしくない」ことをしても「彼ならあってもおかしくない」と思わせるものがあります。

美由紀は少なくとも前者のタイプではなく、そしてもちろん関口のようなおかしいわけでもなく、本当にまともな普通の少女の範疇なので、文脈が変わっても見紛いようながない存在感を放つ、というわけにはいかないのです。

この辺はキャラクターデザインにも反映されている気がします。
薔薇十字叢書を通じて、京極堂と榎木津のデザインはほぼ全てのイラストレーターが志水アキ氏による漫画版のものに似せていましたが、他のキャラに関しては実に自由にデザインされています(まあもしかすると、漫画版の表紙しか見ていないイラストレーターがいたのかも知れませんが――表紙になっているのは京極堂と榎木津だけですし)。
本作の場合、1カットだけ登場した益田は割と漫画版に似ていましたが、表紙からして、美由紀(右側)と関口(中央)は別物です。関口に関しては、イケメンになっているのは少女漫画系の絵柄の影響としても、眼鏡になっていますし(そう言えば、『ヴァルプルギスの火祭』に登場する孫・辰哉も眼鏡でしたし、そういうイメージはあるのかも知れません)。
そもそも美由紀に関しては、本文からして「綺麗な長い黒髪」とあって、漫画版とは違うから仕方ない面もありますが――原作では本人主観でひょろ長く背が高いことが語られていたですから、どちらも間違いではありませんし。

まあ本文に矛盾しない限りにおいて、いずれのキャラクターデザインが正解という類の話ではありませんから、いいのですが。


以下はちょっとした余談。

余談1:ぬりかべは、水木しげる氏が漫画で描くまではローカルでマイナーな妖怪に過ぎなかったと思います。
まあ、粟池青年の父がよく話していたということですから、父あるいはもうちょっと前の先祖が九州出身だったとか、説明はいくらでも考えられるのですが。

余談2:章間にレシピが載っていますが、上新粉は白玉粉より水に馴染みにくいので、最初から一緒に混ぜるより、まず白玉粉を練ったところに水溶きした上新粉を加えた方がいいかと思います。それと、寒天は必ず完全に溶けてから砂糖を加えること。

余談3:本作の時系列ですが、美由紀が『絡新婦』の事件で東京の学校に転校した後なので、少なくとも昭和28年以降で、季節は学校が夏休みの8月です。京極堂の妻の千鶴子は毎年、祇園祭の季節には手伝いで実家の京都に帰っているのですが、彼女が在宅というのも(第一話では「出かけてる」とのみ言及で登場せず、第二話から登場)、祇園祭が7月中なので、ほぼ合致するでしょう。
そして、『百器徒然袋』の「鳴釜」がちょうど祇園祭で千鶴子不在の昭和28年7月で、その後の夏の内に『陰摩羅鬼の瑕』と「瓶長」が来るのですよね。
本作では本島がすでに「榎木津の下僕」として認知されてしょっちゅう京極堂や薔薇十字探偵社に出入りしている様子です。本島は「鳴釜」の時点では依頼人であって、「瓶長」以降で徐々に下僕認定されていった扱いである以上、少なくとも「瓶長」以降でなければならず、「瓶長」と「山颪」の間の時期であっても、すでにこの扱いかどうかは少々微妙なくらいです。
さらにエピローグで、本作の間は事件がなかったと言っているので、もしこれが昭和28年だとしたら第一話の時点で「瓶長」の後としか考えられません(少なくとも第四話では、すでに『陰摩羅鬼』の後らしい言及があり)。

原作にどれだけ時期を特定できる記述があったか、今すぐに確認できないのですが(※)、8月初頭までの間に『陰摩羅鬼』と「瓶長」を詰め込めるか――と考えると、昭和29年以降の方がしっくり来るかも知れません。
美由紀は昭和28年初頭の時点で中学2年生でしたから、その4月には3年生に進級したはずであり、昭和29年なら高校に進学している計算になりますが、現在通っている学校にすいて詳しい言及が一切ないので、そう考えて特に矛盾はありません。
結構な寄付金を払ってお嬢様学校に通っていたくらいですから、高校進学は当然と思われますし。

※ とりあえず手元にある漫画版を見たところ、『瓶長』の冒頭に「夏が終わる頃」とあり、これが原作通りならば本作は昭和29年以降で確実です。

万一、原作で美由紀が再登場したら……という問題に加え、昭和29年の8月に事件がなかったと言い切ってしまうのも同様の懸念を引き起こすかも知れませんが、まああまり気にしないようにしましょう。そもそも原作が出てこその心配ですし。

 ―――

さて、「薔薇十字叢書」の公式ウェブサイトを見ても、次作の予定はなし。
7冊で打ち止めでしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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