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何も知らされてない少女の不安な視点から――『しゅうまつがやってくる! ―ラララ終末論I―』

今回取り上げる小説はこちら、入間人間氏の新作ですが、文庫より一回り大きいソフトカバーで、発売日も電撃文庫から1週遅れという独自の日付、そしてボーカロイド楽曲のノベライズです。



入間氏自身あとがきで触れていますが、ノベライズ作品を手がけるのは二度目、単行本出版作品としては初になります。
原作楽曲「しゅうまつがやってくる!」はsasakure.UK氏による作品で、「終末シリーズ」4部作の第1作という扱いです。本小説もサブタイトルに「I」と巻数がありますし、内容から見ても後続シリーズをもノベライズする予定と見て間違いないでしょう。



『終末シリーズ』全4曲のメドレー版はこちら↓



さらに、sasakure.UK氏のあとがきを見ると、「今回入間さんに文章をお願いするにあたって、自分の作品と再び向かい合って、綿密にプロットを纏め上げました」とあるので、――論理的には「自分で確認するためだけにプロットを纏めた」という可能性もありますが、普通それを「お願いするにあたって」とは言いますまいから――プロットまでは原作者の手によるもので、最終的な文章化が入間氏の担当と思われます。
楽曲の歌詞だけだと相当に謎の多い作品ですから、それが自然な形ではありましょう。ただ結果として、細部に関してはどちらの意図が強く出ているのか明瞭でないこともあり得ます。それを踏まえて行きましょう。

本作の主人公は女子中学生(2年生)の文崎双葉(あやさき ふたば)一陽(ひなた)という双子の弟がいます。
双葉には毎朝5分間だけ、通学路で一緒になる男の子がいます。その男の子に恋しつつ、1日5分間の関係からなかなか先に進めない彼女。
そんなある日突然、男の子は姿を見せなくなってしまいます。

他方で急に引っ越していったお隣さん、音信不通になった双葉の友達など、世の中には何か不穏なことが起こっており、章間では世界各地のさらに不穏な動きも描かれます。
起こっているのは戦争か、天災か――
しかし双葉の思うのはただあの男の子のことのみ。
毎週末に来る「コンニチハ、☆のひと!」という奇妙なメールの送り主に頼って、彼にメッセージを届けようとするのですが……

内容的には楽曲の歌詞を筋としてきっちり押さえているのはもちろんのこと、たとえば「点滅する信号機」のような歌詞中には言及がないものの動画に描かれている要素まで拾っていますし、また後続するシリーズで回収されるネタと思われるものも随所に見られます。
当然と言えば当然ですが、楽曲と比べてみるとそのストーリーとしてしっくり来る、丁寧な作りです。

そして、思春期の繊細な感情描写は入間氏ならでは。

 でも、まだ彼との電話番号の交換を言い出せていない。聞いてもいいかな? と思うのだけれどいざ、彼を前にすると当たり障りのない言葉ばかりで表面を固めて、肝心なことをひた隠しにしてしまう。もし電話番号の交換ができたら、彼との次巻は五分からせめて、十分に伸びるのだろうか。それはとても魅力的だけれど、でも、一緒に歩くこの通学路が特別なものに思えなくなるのには寂しさもあった。怖くもある。変化というのは、必ず良い方向に進むとは限らないから。
 自分では前に進んでいるつもりでも、道を逸れて下に真っ逆さま、ということもあり得る。
 そういうのを怖がって、私は五分の道を行ったり来たりの現状維持。
 同じ形の幸せを、飽きもしないで手のひらに集め続ける。
 (sasakure.UK/入間人間『しゅうまつがやってくる! ―ラララ終末論I―』、KADOKAWA、2015、p. 28)


本作の後半では電子機器が暴走、大規模な事故が起こるなど、かなりの異変が発生しますが、そんな中でも学校に通って授業を受けて、という日常生活は続きます。
どこか『最終兵器彼女』辺りを思い出す話ですが、戦争で空爆を受けているということは明白で、それでいてどこと戦争をしているのかも不明という奇異な状況だった『最終兵器彼女』と異なり、本作の場合は徹底して原因不明の怪現象、しかも電子機器の異常によりやがて情報網そのものが機能しなくなります。

男の子はそんな異変に関わる何かのために去っていったことが示唆されていますが、いずれにせよ本作は――少なくとも今回の1冊は――何も知らされてない少女の視点から描かれています。

はっきりとは分からないけれど、とにかく世の中に何か不穏なことが起こっている、でも大切なことは身近な、単純なことだけ。
大きな異変にまったく無関心というわけではない、少なくともそれが自分の大切なこと――彼の行方――に関わる限りでは。
けれど知りたくても、何が起こっているのか分からない。
そんな不安な様子には、現代の空気に呼応するものもありありと感じられます。

章間のパートを見ても、起こっているのは普通の戦争ではなさそうですし。
もっと深くコミットしている人間にとってすら、これは未だかつてない事態である可能性が高そうです。
だから、判断し難い。どう態度を決していいのか分からない――すぐれて現代的だと思います。

それから、本作の世界ではアンドロイドが実用化されているのですが、各家庭に便利な家電製品として備えているお手伝いロボットといった扱いで、ロボットが市民権を得るとかいった世界には程遠い模様。
しかし杓子定規なお隣さんのアンドロイドと双葉のやりとりは、『おともだちロボ チョコ』の友香とチョコを思い起こさせる味があります。

「花が咲くと人間にはどういった効能があるのでしょう」
 顔を上げて難しい質問をしてくる。声や態度も中途半端に、戸惑う。
「見ると、綺麗だねって」
「それは視覚に花弁の色彩を刺激として取り込むことで一時的な心の高揚を得る、という解釈でよろしいでしょうか」
「え……ど、どうでしょう、ねぇ?」
 ガチガチ真四角な植物観賞の定義に、笑おうにも頬まで硬くなる。合っている、のかな。
 まだ咲いてもいない花を間に挟むようにして問答するのは、せっかちに思う。
「一助の快楽を求めて生命を育む……なるほど」
 理解しました、と真っ直ぐ言い放ってくる。変な解釈をされた気がする。快楽って、お花と並べて使う言葉いしてはなんだか生々しいというか、ちょっとほら、ねぇ、と目が泳ぎそうになる。
 でもこのまま納得して帰って変な知識を披露したら、不憫だ。そして責任も感じる。
「あの、理解するのはちょっと待って。もう少し考えて見るから」
 (pp. 104-105)


人間に近付くことがロボットにとっての幸福とは限らない、というテーゼも『おともだちロボ チョコ』と共通するものですし。
しかもその一方で、お隣さんのアンドロイドは、市販品のアンドロイドの枠を超えた心を持っていそうな気配もあり――楽曲の展開からすると彼女はシリーズ終盤の重要キャラになると思われるので、何が起こっていてどうなっていくのか、楽しみです。

――とまあ、各部分や雰囲気は原作と小説家の味がそれぞれ出ていて良い作品だと思うのですが、設定の多くは未だ謎のままです。
続編で回収されていくのだと思われますから、早く続きが出ることを望むばかりです。


なお、1週先に発売されていた『電撃文庫MAGAZINE』には「男の子」視点の短編「しゅうまつがくるまえに!」が掲載されていました。
こちらを先に読んでいると、彼も決して「ミステリアス」な存在ではなかったことが分かります。
それどころか、お互いに相手も自分のことを……とは知らぬまま相手を想い、毎朝の出会いを楽しみにしていた微笑ましい関係であったのが分かります。

しかし同時に、切ないすれ違いもいっそう浮き彫りになります。
男の子は好きな女の子のために戦うと迷わず決断する、けれど女の子は、彼に戦うことなんて望んでいない、それよりも側にいて欲しかった――

楽曲の内容から考えると、次巻以降は視点が変わって、「戦い」に向かった者達の様子が描かれるのではないかと思われるのですが、しかしそもそも「終末」を――すなわち滅亡を描く作品なわけで、このすれ違いは埋め合わせがたいまま破滅に向かっていく気配がするのですが、さてどうなることでしょうか。


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