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オールスターの収束――『クロクロクロック 結』

さて、今回取り上げるライトノベルはこちら、入間人間氏の『クロクロクロック』、2年ぶりの新巻です。


 (前巻の記事

本シリーズは今巻で完結です。
巻数が1/6、2/6と来て、しかも最初に「全6巻予定」と公言してのこの結果、まあ打ち切りという他ありませんが、ともあれ、内容を見てみましょう。

拳銃を拾った留年中の大学6年生・岩谷カナは、そのせいで前巻の最後に誘拐されました。
殺し屋の木曽川は前巻で新城雅を仕留め損ね、今回は雅の兄・雅貴が反撃に出ます。
拳銃を所持する小学生・時本美鈴はそんな木曽川に同行することになります。二条オワリの犬が縁ですが、何かあったら「拳銃で撃てば良い」と暢気に考えて……
殺人を犯して逃亡中の高校生・首藤祐貴は拳銃の売人に拾われ、そして殺し屋・黒田雪路は恋人を殺された小泉明日香の依頼でその首藤を狙います。
探偵・花咲太郎は二条オワリから新たな依頼を受け、そして陶芸家・緑川円子は連日の騒ぎに巻き込まれつつマイペースに仕事中。

……と、何度も交錯してきた一同が一ヶ所に集まり、事件も収束を見せます。

予定外の急な畳みだったと思われますが、絡み合った依頼の実態、謎のトレジャーハンターの件など、大部分の伏線に関してはまずまず綺麗に畳んだのではないでしょうか。
展開としては、前巻までの「スーパー犯人大戦」で激突必至という流れからすると、もう少し本格的に殺し合いして新たに死人が出るのが期待された感もありますが、意外にも平和に収束してしまいました。
ただ、木曽川のとぼけたキャラや仕留め損ねてばかりいる黒田の甘さからしてこうなる気配もないではありませんでした。

そんな中での見所はやはり木曽川vs新城(兄)でしょうか。
二人とも他作品から出演の、鳴り物入りの殺し屋と殺人鬼だけに、オールスターの山場でした。まあ、その割にはあっさりしていた印象もありますが。
と言うか、前巻から木曽川の強さと存在感が突出していました。
彼が普段はとぼけていても殺し屋としては腕が立つこと、しかもナイフ一つを得物にして銃を持った相手とも渡り合えることは『探偵・花咲太郎』シリーズから分かっていたことですが、本シリーズでもそれを存分に見せ付けてくれます。彼の存在感が大きく物語を食っていたくらいに。

しかし……殺し屋は依頼が取り下げられればそれまでですし、どんな危険人物でも実際に犯罪を犯していなければ引き返せる可能性はありますが、殺人を犯した一般人である首藤祐貴だけはそうは行きません。
彼が――道徳的に反省するかどうかは別にして――罪を受け入れて逮捕され、復帰への道を歩み始めて、ついでにいくばくかの救いもあれば、それはドフトエフスキー『罪と罰』的な物語です。
あるいは満足して死んでいったりすれば、一種の美談になったかも知れません。
ただ、この点に関して入間氏はもっとシビアです。

シビアというのは、「しかじかのような人間は救われるべきではない」という“べきだ論”ではなく、事実問題として救われる人間と救われない人間の落差に対して、です(『罪と罰』のラスコーリニコフも道徳的に反省するわけではありません、念のため)。
2巻までで首藤がいかに救われる余地がないか、みっちり描いてきた以上、そこが反転する可能性はありませんでした。
予定より早い終幕であることを考えれば回顧的な見解に過ぎませんが、この締め括り方だと他の登場人物に比べて彼の方向性の違いが顕著なので、もっと「首藤の転落劇」に焦点を絞っても良かったのかも知れません。

当今、「人を殺してみたかった」と供述する犯罪者の多いことです。これも政治家の弁明と同じですっかりテンプレートになっているので、もはや真面目に受け取るにも限度がありますが、ただ「人を殺す」ことが世界を変えるような通過儀礼たることを期待しているのは窺えます。
しかし、そんなはずはありません。
人を殺すことで訪れる変化と言えばせいぜい、自棄になることだけでしょう。一人殺すも二人殺すも一緒だ、と――
だから、「人を殺す」ことに大仰な期待をしても無意味なのです。ただ、その自棄から後戻りしようもなく道を踏み外していくことは、確かにあるのですが。本作はそうした心理を見事に描いていました。

 これ以上、罪を重ねるつもりなのかと、理性のようななにかが冷たい声で問う。
 だけど、と祐貴は思う。
 罪って、重なるものなんだろうかと。
 人を殺したことと、物を盗んだことが同一視されることはない。
 人を一人殺しても、二人子としたではない。
 一人を殺してから、また一人殺した。
 それは足して二ではなく、一と一なのだ。
 積み上がらないというのなら、それなら。
 祐貴の心に、不思議と抵抗が薄くなる。
 妙な納得である。祐貴もそれは自覚している。
 しかし、言い訳は必要だった。
 (入間人間『クロクロクロック 結』、アスキー・メディアワークス、2016、p. 71)


――とは言え、オールスター作品としての本作の売りは、彼一人の転落劇とはまた別なのは承知の上であって、その面でもそれなりに楽しませてはいただきましたが。


さて、大筋においては規定に収束した本作ですが、細部に未解明の点は残りました。
そもそも、6丁の拳銃の内のどれがモデルガンだったのか――という発端の問題とか。
1巻に1丁ずつ発砲していく予定だったのかと思われますが、結局多くが撃たれずじまいでしから。
そもそも、登場人物の内には拳銃販売サイドの人間もいたので、登場した6丁が販売された6丁だったのかもやや不鮮明さは残ります。
結果として、6丁の拳銃そのものがマクガフィンに終始した感じはありました。
(ただし、拳銃販売サイドの人間も含め登場した6丁が当該の6丁だと仮定して、玄人連中なら実銃とモデルガンの区別は付くだろう、と考えるならば、どれがモデルガンであったかを自ずと絞り込むことはできますが)

それから、本筋とは別のファンサービス的な部分では、2巻で二条オワリと大江湯女の出会いが描かれたものの、その後湯女の登場はなし。湯女は後に二条オワリ付きのピアニストとしてコンビを組むことになっていますし、犬好きという要素も改めて描かれていたので、オワリが捜索中の犬を取り戻したところで再登場して、犬を接点にコンビ結成かと思っていたのですが……
それから、みーくんが巻ごとに別の女の子と一緒に登場していたのですが、全3巻だったために伏見柚々の登場はなしとか(引きこもりの恋日先生はそもそも名古屋まで出てくるか疑問なので、いずれにも登場しなかったかも知れませんが)。


さて、当初の予定から見ると中途で畳んだことが明らかなだけに残念さもありますが、ひとまず本作は完結しました。
最近の入間氏にはシリーズ中途のまま続きが出ていない作品も多いだけに、完結した分だけ良しという面もあります(まあ、ライトノベルには完結巻を書かせてもらうことなく中途のまま打ち切りという作品も多いので、氏の未完結作品に関しても実情は定かでないものもありますが)。
そもそも単巻でまとめてしまうと続編が書きにくいのか、またシリーズで成功させたいという思いが強いのか、シリーズ前提で「つづく」としたままというケースが多いのですが、しかし氏は細部に関しては繊細な感性を持つ一方で大局の見通しにはかなりの雑さがあり、「シリーズの序章」としても半端な作品に繋がっている感があります。

編集者もこの見通しの甘さは何をしているのやら、確かに「能率」という概念は労力を少なく成果を大きくすることを含意しますが、だからといって「やり手自慢」とは決して「仕事をしないことの自慢」ではありますまいに。

ともあれ、こういう形で一つの作品を完結させることになったのは一つの転機ではありますまいか。
ライトノベルは水物ですが、水物相応の仕事をしているとますます重みがなくなります。
半端な作品の量産はむしろ負の積み重ねになっているのではないか、という気がします。

ひとまず『安達としまむら』に関しては6巻の予定も決まっているようですし、終末シリーズという(おそらく)着地点のはっきりしている原作付きの新シリーズも始まったことですから、これらの作品の続きを早めにきっちり書いて、改めて地歩を固めてくれることを願います。







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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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