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任侠道のバカ騒ぎ――『英雄都市のバカども ~女神と漢たちの祭り~』

今回取り上げるライトノベルはこちら、アサウラ氏の『英雄都市のバカども』第2巻です。


 (前巻の記事

繰り返しますが、本作は「ファンタジアBeyond」でWEB連載されているシリーズですが、第1巻は描き下ろし長編でした。
当初は「アルコ・ホール三番街の何でも屋」だったタイトルが「英雄都市のバカども」に変わっていたのは、主人公が何でも屋のモルトから街そのものに交代していく過程を物語っているようでもありますが……
今回はWEB連載分の単行本化となります。そういうわけで書かれたのは1巻より前になりますが、作中の時系列的には単行本の順番通り、1巻の後とのこと。

ただし……読んでみると、WEB連載の第1話は消えています。第1話はキャラ紹介的な色彩が強かったので、単行本としては第2巻ならばあえて収録する必要はない、ということなのでしょうか。
その代わり、――初出一覧は巻末にあるので、それを見れば分かることですが――冒頭に「第一話」として『ドラゴンマガジン』掲載の短編が収録され、その次に書き下ろしの「第二話」を挟んで、その後にWEB連載の第2~6話分を収録という構成となっています。

そんなわけで今回は長編でもなく、冴えない何でも屋モルト、それにリキュールという街の日常がメイン(といっても、つねに騒がしく常軌を逸した日常ですが、後半は年に一度の祭なので非日常寄りなのかも知れませんが)。
家賃を滞納してばかりのモルトは家賃と酒と女のため様々な仕事を請け負うものの、労多くして儲けはなし……というのが基本パターンですね。
依頼人も相当におかしいのですが。
何しろ冒頭から「おっぱいを揉みたいんです」と訴える少年の話ですし、第三話のペット探しもその「ペット」の実態というのが……まあ、オチは結構な確率で読めますけれど、それでも実にバカバカしくて笑ってしまうこと。

そして、今回の後半の山場は何と言っても、リキュール名物「漢祭り」
名前とここまでの内容、それに作者の方向性からして予想できることですが、当然、男の裸が乱舞します。
要するにこれ、男たちが褌一丁で魔獣の巣くうダンジョン(神殿)に挑む、という祭りなのです。

モルトも報奨金目当てで参加、食堂「安美亭」主人のグレーンと鋼の堅さのパンを焼くパン職人のピンガという名うての猛者たち(二人とも10年ほど前のこの祭りの覇者)と組むことになります。
ところが、モルトたちは神殿の奥で本当に女神と出会ってしまい……

とにかく、全編に渡ってくだらないバカ騒ぎばかりですが、そのくだらないことで屈強な男たちが真剣に戦っています。
街の皆がそんなノリで、しかも名前ありキャラにもかなりの強者が多く、モルトも相当に強いところを見せているのですが、あまり目立たなかったりします。
オチも冒頭から数十年後の未来オチとか実に野放図です。
そしてギャグのネタとしてエロネタ・下ネタが多いこと。

モルトの住むアパートの大家の娘・リッツはしょっちゅうエロい目に逢います。裸を見られたり胸を揉まれたり果てはパンツを被られたり……(しかし、モルトがパンツ単独で見て「リッツのパンツだ」と分かるということは、それだけ彼女が日常的にパンツを見せているということになります。モルト相手には踏みつけたりする場面もあるので分かりますが、この点では彼女がいきなりパンツ丸出しで逆さ吊りにされるWEB版第1話が収録されないのは惜しかったような……)
他方で、彼女はモルトのことを想っていて、それが報われて喜んでいることもあり、不憫さと健気さが相俟って可愛いヒロインです。

だから1巻の時に言ったでしょう、シリーズとしてのレギュラーヒロインはリッツだと。
「そう書いてあるからそうなのだ」という言い回しは、「文字通りに読むとおかしなことになる」という皮肉の意味で使われることもありますが、この場合、私は文字通りの意味で言っていました。

……それはそうと、本作の主人公モルトは、ライトノベルには珍しいくらいの「飲む・打つ・買う」主人公です。
いや、正確には女郎を買ったり博打を打ったりはしていませんが、「いい女に出会える」という触れ込みの怪しい品に散在していることがあったのですから、実質は似たようなものです。
彼が結果的にほとんど女をモノにできないのはもっぱら、「ある目的のために必死になったものの、労多くして功少なし」という定番のオチに沿った結果です。(ついでに言うと、リッツは幼すぎるし1巻のエンガディナは街に残ることができない事情があったものの、彼女たちはモルトに惚れていますから、全くモテないわけでもないんですよね)

「飲む・打つ・買う」を描くことに何か規制・禁止があるというわけではありません。ただ、ライトノベルの主人公はとりわけ就学率が高いので、そういう大人(※)の主人公は少数派なのです。
新人向けのアドバイスなどではしばしば、「最初からあまり自由な環境にいるのではなく、学生のいう制約の多いところから新しい世界に出発するのが面白いのだ」といった主旨のことが言われますが、その論がどこまで有効なのかは難しいところです。

※ 別に人格的に「大人」という意味ではなく。とりわけ本作は、性の話も含めて子供染みたくだらないノリが主なのは事実です。今回は最初が「おっぱいを揉みたい」少年の話だったりすることもありますし。しかし裏を返せば、この点に関して男というのは年を経たからとてそう代わり映えしないものだとも言えます。

ただ、本作はいつの間にか街全体が主役になっていたことからも分かるように、そこに10年住んで裏にも表にも関わっているはずのモルトにとってさえ新鮮な驚きに満ちているような、常軌を逸して楽しいリキュールという舞台設定があってこその話で、それはそれで筆力を要するのは確かです。

他方で、今回は前巻以上に異世界ファンタジーである意義は弱く感じられました。
何しろ祭りでは、街には屋台が並び、女たちは浴衣を着ていますし(異国から持ち込まれた衣装だという説明はありますが)、過度に――と言ってもいいでしょう――日本の祭りの風景を再現しています。
そして、――これは一応、この世界では特殊なことだと冒頭に断りがありますが――街は上下水道完備で公衆浴場があり、さらには「魔導具」と言いさえすれば現代的なテクノロジーも自在に出せます。結果として、(大人の玩具としての)バイブレーターとかそういう技術ばかり高度なものが出てくることに。
ファンタジーらしいポイントは、あくまで剣で戦う世界観であること、それに魔獣や女神が出てくることですが、しかしその程度ならストーリー上の代替物は何とでもなる気はします。それに女神くらいなら、異世界でなく現代日本を舞台にしたファンタジーでも登場しますし。

ただ、リキュールという街の熱さは、任侠道に通じるものを感じさせます(今回、しょうもない侠客が登場しますが、それはあまり関係なく、街全体が、です)。
一人の少女を守るため、街を挙げて国に対してすら戦った1巻の印象はとりわけそうでしたし、今回もそれに通じる街の団結力を随所に見せてくれます。「褌姿の荒くれ男たちの祭り」もそれと呼応するモチーフです。

そして、今やこうした任侠道めいた人情の世界は、現実の事柄としてはいかにも説得力を失い、異世界にこそ居場所を見出すモチーフになっているのかも知れません。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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