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さまざまな苦しみ――『天久鷹央の推理カルテIV 悲恋のシンドローム』

今回取り上げる小説はこちらです。


 (シリーズ前巻の記事

『天久鷹央』シリーズとしては第5巻になりますが、第4巻に当たる前巻が『事件カルテ』でナンバリング外になっていたので、タイトルは4巻となっています。
社会性を欠いた天才女医・天久鷹央と部下の小鳥遊優(空手が強い武闘派)が様々な事件を解決するシリーズです。
今回は『推理カルテ』シリーズの定型に戻って3編を収録した短編集となります。
「迷い込んだ呪い」は、原因不明の痛みを訴え、しかもそれが死んだ恋人の呪いではないかと言う女性患者の話。「ゴミに眠る宝」は、近隣のゴミ屋敷で一人の青年が消えた? という訴え。これは患者ではなく、鷹央の噂を聞いた街の人からの相談。今までにもこういう形で持ち込まれた事件はありましたが、とりわけ今回は医療との関わりは薄い話でした。そして最後の「瞬間移動した女」は、女性看護師が殺されたが、まるで死体が瞬間移動したかのようだ、という訴え。

最初の一件は、本人は明瞭な痛みで苦しんでいるのに原因不明という、現実にも時折見られる場面が主題。この患者はそれゆえに霊能者を頼ろうとします。打つ手がない苦しみというのはよく伝わりますが、そこに明らかに詐欺師と思われる人物が絡んでくるのが話を複雑にします。それでいて、この「霊能者」も、最後にどこか憎めないところを見せたりして、温かいオチになりますが。
後の二件は殺人(と思われる)事件に関わります。しかし、事件は一体いかなる形で起こったのか……最後のエピソードは二段落ちもあり、特殊な疾患による怪奇めいた事態と、人為による事件の絡め方が今回も絶妙です。

それから、最後のエピソードでは、小鳥遊が事件を解決する役割を担うのもポイント。
助手のようなポジションの人物が「探偵不在」で事件を解決するのは、作品の展開に新たな味を与える上でも、その人物の成長を見せる上でもキーとなる、大きな見せ場の一つです。
しかも小鳥遊はいつも鷹央に「説明してください」と言ってばかりの、いまいち荒事以外には役に立たないワトスン役だっただけに、彼がこの役を担うのは色々感慨もあります(彼はスポーツマンで元外科医なので、考えるより身体を使うタイプなのでしょう、多分)。
冒頭で山場を先取りして見せておくのも『推理カルテ』では毎回の構成ですが、そこで鷹央が「小鳥、お前が事件を解決するんだ」と言う場面を見せているのもポイント。

まあ他方で、疾患について正確なことは分からないとしても、オチは比較的読みやすいという面もありました。
判断材料は残りページ数とか登場人物のポジションとか色々ありますが、小鳥遊が色んな女性にアプローチしていても、ほぼそれは報われず、鷹央ルート以外は閉ざされているのが読者には見えている、という物語のフォーマット上のことも理由の一つです。
これは小鳥遊と鷹央をくっつけようとしている調子のいい女研修医・鴻ノ池が暗躍しているせい、という面もありますが。

ともあれ、楽しめるライトな医療ミステリです。
ちゃんと様々な患者の苦しみにスポットを当てながら、大手術のような難病の治療が山場にならないのも作品の特色ですね。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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