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英雄とハーレム目指して少年は行く――『竜峰の麓に僕らは住んでいます 1』

今回取り上げるライトノベルはこちら、またもヒーロー文庫の新作です。



ヒーロー文庫の通例通り、これも「小説家になろう」出身作品です。

 竜峰の麓に僕らは住んでいます

本作は人間の他に魔族、竜人族、神族などの様々な種族が共存する世界を舞台にしたファンタジーです。
主人公のエルネアは、人間の国アームアード王国の王都に住む14歳の少年。
15歳になると1年間旅をしなければならない、というこの王国の古い習慣により、来年から旅立つべく、学校で鍛錬中です(この世界には庶民から王族まで分け隔てなく通う学校があります)。

まあ旅と行っても、隣町で日雇いの仕事をしていてもいいのですが、エルネアの同期には王国に伝わる「聖剣」を受け継いだ「勇者」リステアがいるため、それに憧れて本格的な冒険の旅を志願する少年少女が多め。
ちなみにリステアは、王国の第四王女であるセリースを筆頭にすでに将来の妻候補が3人(今巻の途中で4人に)おり、また嫁候補の女史たちを初めとする彼の仲間の強者揃いで、「彼らで敵わなければ軍隊の出番」というくらいに頼りにされています。

エルネアもそんなリステアに憧れ、そして彼のように「おっぱいの大きいお嫁さんがほしい」と思っていますが、戦う力は乏しいひ弱な少年。
しかしある日、森に迷い込んで、森を守る巨竜のスレイグスタに出会ったことで、彼の人生は転機を迎えます。
神話の時代から生きるスレイグスタ翁に神話の真相を聞かされ、また「竜脈」の力を操る術と剣舞を習って、少しずつ力を付けていくエルネア。
しかも、竜人族の少女ミストラル(エルネアより年上の17歳)という「嫁」まで紹介されてしまい……

他方で魔族の不穏な動きなども示唆されており、おそらくは世界の真相や命運にまで関わる壮大な物語の中で、少年の地道な成長を描く……ということになりそうです。

ポイントはまず第一に、エルネアが目標であり皆の憧れであるリステアと非常に良好な友人関係を築いていること。
相手が大物であり、また物語上はライバルたり得る人物であっても、お互いに敵意や嫌味がないだけでなく、フランクな友人として付き合っているというのは、比較的珍しい設定ではないかと思われます。

そしてもう一つのポイントは、やはりハーレムですね。
本作はエルネアの一人称語りですが、彼の一人称は「僕」で、語尾が「~ね」「~よ」と子供っぽい感じ、顔立ちも幼さが残るとという可愛らしい感じ。
ですがリステアが羨ましい、お嫁さんが欲しいという望みがあるだけでなく、女の子の好意に鈍感でもありませんし、おまけにミストラルの他にも戦巫女のルイセイネという、すでに彼に少なからぬ好意を持っているヒロイン候補がいます。
それでいて、いざ女の子の方から近付いてくると、演習で「いっしょに行こう」とも言えない情けなさ。

 なにか少し、含みのある視線を僕に向けるルイセイネ。
 な、なんでしょうか。ルイセイネは僕に何かを期待しているのでしょうか……。
 いや、なんとなくわかるんだけど。わかるんだけど、何も言えない。
 こういうところが、リステアとは違い、弱いんだろうね。というか、僕にはミストラルさんがいるし! ああ、でもミストラルさんとのことはスレイグスタ老が勝手に行っているだけだし、どうなるんだろう。僕としては少しずつ惹かれ始めていて、できればお願いshたいところなんだけど。
「エルネア君、どうしたんですか。笑ったり落ち込んだり、表情がころころと変わっていますよ」
「あっ、何でもないよ」
 慌てて笑顔をつくる僕。つまり僕は、強引に勧められているけど可能性の低いミストラルさんと、気のせいかもしれないけど好意を寄せてくれているルイセイネを天秤にかけることなんてできない、ということです。
 (寺原るるる『竜峰の麓に僕らは住んでいます 1』、主婦の友社、2016、p. 225)


「天秤にかけることなんてできない」とか、取りようによってはあつかましいことも言っています。
(腕っ節ではなく女性関係の意味で)実力はまだなくとも夢は大きく……というのも少年らしいところでしょうか。

さて、ライトノベルで「ハーレム」と言っているのは多くの場合、「たんに(途中過程で)多くの女性キャラにモテている状態」のことであって、そこから実際にハーレムを形成する(物語の締め括りとしていわゆる「ハーレムエンド」)は多くありません。
そもそも、たとえ一夫多妻が可能な社会であったとしても、複数の女性を「娶ろう」と思えば、男としての度量とか社会的・政治的な力とかいった多くの問題と向き合わねばなりませんし、そんなものが流行る主題とも思われません。
その意味で、真の「ハーレム」は、――いかなる逆説でもなく――「ライトノベルでは流行らない主題」です。

さて本作の場合、まずリステアという先例が示しているように、一夫多妻は認められています。
そしてリステアの「嫁」候補たちは現状、お互いに仲が良く上手く行っていますが、巻末のリステア視点の付録を見ると、仲が良いながらに女の闘いもあり、彼女たちを上手くやりくりするにはリステアの度量も重要であることをすでに窺わせています。
そして、エルネアが「嫁」として紹介されたミストラルは、「竜姫」という竜人族でも最強の称号を持つ少女で、竜人族の世界では誰を彼女を娶るかが大問題になっているとのこと。だからこそエルネアと結婚してしまえ、という勧めなのですが、竜人族の全てがそれで納得するとは到底思われません。エルネアが竜人族の政争に巻き込まれる可能性は十分にあるでしょう。
ルイセイネも、実力ある戦巫女でなかなかの大物。

嫁を、さらにはハーレムを得るための社会的ハードルという題材にも十分期待できそうです。
そして、エルネアのように頼りない少年がその課題にどう挑むのか……彼の成長を楽しみにしておきましょう。

WEB版と比べるとプロローグから書き下ろしでエルネア12歳の時のエピソードを描いており、彼が竜と縁があったことを強調しています。
さらにWEB版冒頭のバトルシーンの手前に日常シーンもあって、加筆もなかなか丁寧です。
それでも、リステアの仲間たちには影が薄いというか、人物像があまり印象に残らないのもいましたが……


やや気になるのは、まず説明文。加筆の影響もありますが、世界観の説明文からしてやや重複があります。
また、ネイミーというキャラが登場する場面では毎回のように「ぼくっ娘のネイミー」と表記されていたり。これはおそらく、WEB連載という形態の影響でしょう。連載において話を区切った以上、そのまま前回から切れ目無く文章が続いているように書くことはできず、場合によってはそのつど説明が必要になることもあります。「ぼく」と発言しているキャラが少女であることなどは、「そのつど説明が必要なこと」の最たるものでしょう。

それから、人外の種族の描写です。
たとえば今のところ、竜人族というのがどんな種族特性を持っていてどの辺が竜なのか、よく分かりません。外見は人間と変わりないようですし。
まあ、それは追い追い描かれる機会があるかも知れませんから良しとしましょうか。

気になるのは、外見的には恐ろしげな種族の、どこか喋りすぎで威厳のない描写です。
スレイグスタとミストラルのやり取りなどコメディじみていますし……スレイグスタに関してはそういうキャラでいいとしても、巻末付録でリステアたちが(主人公の知らないところで)戦った強敵アンタールに至っては、喋りすぎで小物っぽくなっている感がありました。

そんな風に気になる点もありますが、なかなか楽しみな作品でした。
それにしてもエルネアがリステアを超える日はありそうでも、嫁のミストラルに勝てる日はイメージできないのですが……


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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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