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不気味さと紙一重の師弟関係――『アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女』

今回取り上げるライトノベルはこちら、先月発売された富士見ファンタジア文庫の新作にして、第28回ファンタジア大賞の大賞受賞作になります。。



毎回、どこまで作品のネタバレをするかというのは難しいところで、かなり踏み込んで語りつつ、「ここまでネタバレをされてもまだ話としては楽しめる」と私が信じるラインで書いているのですが、今回はとりわけネタバレ寄りです。
本作のポイントを語るためにはこれが必要という判断ですが、ご了承ください。

本作の舞台は、巨大なガラス容器に入った都市「ランタンの中の世界(フランドール)の人類が押し込められ、その外の闇には「ランカンスロープ」(※)と呼ばれる怪物が跋扈している世界です。
ランカンスロープに対抗できるのは、「マナ」という魔法のような力を持つ人間のみ。
マナは通常血筋によって受け継がれ、マナ能力を持つ一族は貴族として民の上に立ち、また都市を守るべく戦う責務をも負います。

※ 「ライカンスロープ」ならば「狼人間」ですが、一字違いのこの単語の意味や語源はよく分かりません。まああまり気にしないことにしましょう。

しかし、問題なのは本作のヒロイン、メリダ=アンジェル(13歳)。
彼女は貴族の中でも最上位の「騎士公爵」アンジェル家本家の令嬢でありながら、マナ能力が一切発現せず、マナ能力者を養成する聖フリーデスウィーデ学園でも「無能才女」と蔑まれています。
本作の主人公クーファは、彼女の家庭教師として赴任することになります。ただし、彼の本業は暗殺者。実はこれも本業の「暗殺」込みの任務です。
というのも、メリダマナ能力を持たないことにより、彼女が本当はアンジェル家の子でないこと――つまり母親の不義が疑われているからです。つまり、名門の名を汚す不義の子ならば抹殺せよ、と……
いくら血筋が良くてもたまにはいる出来損ないではなく(至高の血筋たる騎士公爵家に限ってそういうことは“ない”というのがこの世界の法則とされています)、血のつながりに対する疑いというところまで話が発展するのが、本作の設定の一つのポイントです。

しかしクーファは、このままだとメリダにマナ能力が覚醒する可能性はないことを悟りつつ、本来の任務を踏み越え、メリダに力を授けようとします。
もちろん、これはクライアント本来の望みではないため、これは上司とクライアントをも欺く危険な橋です。
クーファは場合によってはメリダを殺すべき立場であると同時に、メリダの挙げる成果が彼の命を握ってもいる――そんな互いの命を握る、緊張感に満ちた師弟関係が、最大の見所でしょう。

そのような命を懸けた師弟関係というのは、生死を賭けて戦う術を伝える場――武の師弟においては、実際にありうることです。
そして、殺す-殺されるという関係における「教育」を描いた傑作として、漫画『暗殺教室』という事例もありました。

しかし、『暗殺教室』の殺せんせーが30人からの生徒を相手にする「教師」であるのに対して、本作のクーファとメリダは1対1の「師弟」です(もちろん、「学校教室もの」というのは、たくさんいる生徒の一人一人が順次先生と「1対1」の関係を築いていく、という面が当然あるのですが)。
いや、もっと言うと、彼らの関係は「師と弟子」をも踏み越えています。
平たく言えば、そのままメリダの「開花」を待っても望みはないがゆえに、クーファはメリダをいわば自分のコピーとして“改造する”のです。

ファンタジー作品においては、「魔法が使えるか否か」といった、明確な生まれ持った能力の差を客観的に評定できる世界観も可能です。
もちろん現実にも、できるかできないかが明らかなことというのはあります。たとえば、足のない人は走ることはできません。

が、そのことを受け入れた上で――たとえば、ヘレン・ケラーは「見えず」「聞こえず」のまま、それを点字を学んだりすることで補えるようにさせるのが教育というものであり、だからこそヘレン・ケラーの物語は感動を呼ぶのです(もちろん、それはヘレンに類い稀なる知力等々があればこそで、「見えず」「聞こえず」でなおかつそれを補うほどの知力もない子供も存在しうることを、忘れてはなりませんが)。
上述の漫画『暗殺教室』の場合も、「戦闘」の強さと「暗殺」は別であることを明示しています。だからこそ、「弱さ」も暗殺においては相手の隙を突く「強さ」になり得るのです。それゆえに、生徒それぞれをの長所を活かしつつ、ある時には長所を伸ばし、ある時には短所を埋める教育を描くことができているのです。

しかし本作において、メリダに対しては、「騎士公爵家アンジェルの血を引いており、跡継ぎに相応しいことを示せる唯一の力」を求める外圧が働いており、それ以外の「個性」を活かした成長など、認められません。これは言うなれば、サリヴァン先生が目と耳をヘレンに移植するような、かなりおぞましい話です。
いや、これもまったく不十分な喩えで、本作の場合「移植」の提供者の方で何かが減るわけではありませんし、目や耳の働きは本質的には万人において同質――と、見なされている――なので、「相手の自分のコピーに改造する」という事態をよく伝えてはいないのですが。

最近のライトノベルにおいて、主人公が教官あるいは師としてヒロインを育成するタイプの作品はよくあります。
そして、弟子を育てることが何にも代え難い喜びであり、教える側も得ることは多く、場合によっては自分が生きた証にさえなりうること、それは私もよく分かります。そして、なおかつその弟子が美少女であれば……というのも、良しとしましょう。
しかし、師は決して弟子に「自分と同じになれ」とは言いませんし、言えません。
そこを踏み越えているのが本作の設定の不気味さです。

まあ、周囲から蔑まれながらも前向きで真っ直ぐなメリダのキャラで健全な育成物語の外見を作っていますし、さらにクーファの側に「そこまではコピーさせない部分」を用意することで、もう一捻り加えているという事実もありますが。

しかし、この不気味さと紙一重の――いや、もうその一重の紙がほとんど破れている――同一化こそ、「クーファがメリダに過去の自分を投影し、彼女を通して自分を救う」という構造をいっそう際立たせてもいます。
本作の難点として、メリダに情が移って、クーファが仕事を踏み外すに至る心理描写が弱いというのは、ほとんど誰でも思うことでしょう。ただ、そこの背景をあえて読み込むならば、自分との重ね合わせがあるのでしょう。

興味深いことに、メリダの従姉妹であるエリーゼ――本家と分家の政争という問題が絡んでおり、クーファもエリーゼの家庭教師であるロゼッティをライバル視しているので、ライバル候補とも言えるでしょう――は順当にアンジェル家の血筋としてのマナ能力を発現しているのですが、仲間との連携という点では問題を抱えています。
彼女の家庭教師のロゼッティからして、仲間と組んで戦った経験に乏しくチームプレイは苦手なのですが、こともあろうにエリーゼの家には「スタンドプレイで力を見せ付けて、アンジェル家の跡取りに相応しいことをアピールせよ」などと煽ってくる輩がいる始末。
そういう、「本当に学ぶべきことは何か」を顧みない、目先のポイント稼ぎの圧力に抗って、師も弟子も苦手とすることを共に学んでいく――そんな可能性を示したロゼッティとエリーゼの方が、よほど「教育の場」らしいものを見せているように思われます。
対照項としての彼女たちをどう活かすかが、続編におけるカギとなってくるでしょう。

それはそうと、クーファとメリダの関係のおぞましさに関しては、作者も無自覚ではないと思われます。

 たとえばクーファは、尻尾を持つ猫の感覚が理解出来ない。超音波で飛ぶ蝙蝠の真似事はできない。魚のようにエラがなければ、水中で呼吸することもできない。
 自分にない身体器官を持っているとすれば、それはもはや、自分とは別の生き物だ。
 メリダが今感じている苦悩も、それと似たようなものだろう。
 (天城ケイ『アサシンズプライド 暗殺教師と無能才女』、KADOKAWA、2016、p. 46)


かくして、マナ能力の有無とはまさに身体器官の有無のようなものであり、クーファがメリダに施した処置は無い器官を移植するような、それゆえに高い危険を伴う“改造”であることを、何度も明言しているのですから。

まあ、もし本作が病的な依存に発展しうる同一化の不気味さをもっと前面に出していたら、「大賞」という評価を得たかどうかは疑わしいとは思います。その意味で、そういう本作と作者が育つことを期待する人は、少ないと思います。私も、それを前面に出すのが作者の適性かどうかは分かりません。
ただ、この作品と作者が今後どちらの方向に開花していくかは、気になるところです。


ついでながら、世界観の面で気になるのは、本作の世界は空に太陽も月も星も輝かず「太陽の血(ネクタル)の灯火に守られた都市「フランドール」のみが人類の居場所、他はランカンスロープの跋扈する完全な闇だという設定です。
暗黒の中に聳える巨大なシャンデリアのような都市、という設定はヴィジュアル的に映えて幻想的ですが、ここまでのディストピアである意義がどれほどあったのかは、微妙なところです。
こちらも今後の展開次第でもっと深入りすることになり、活きてくるのかも知れませんが。



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Author:T.Y.
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