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リアルタイムで2年を経て、増すアクチュアリティ――『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』

さて、今月からライトノベル系(正確に言ってライトノベルなのかどうかという問いは脇に置きましょう)の新レーベル「ノベルゼロ」が刊行されました。

 NOVEL 0 Official Website

その創刊ラインナップの一つがこの作品『竜と正義 人魔調停局 捜査File. 01』なのですが……先に言っておきましょう、本作は2年余り前にMF文庫Jから刊行された新人賞作品『MONSTER DAYS』の改稿新版です。



 (旧版『MONSTER DAYS』の記事

本作も含め、このレーベルの創刊ラインナップはAMAZON限定のオリジナルポストカード付き版も同時発売です。
ショートストーリーならともかく、ポストカード1枚で別版を作られるのも微妙な気はしますが……



オリジナルポストカードはこんな感じ。描き下ろしです。

竜と正義 オリジナルポストカード

このレーベルは装丁もやや凝っていて、無地の表紙にイラスト付きの太い帯という形になっています。

竜と正義

竜と正義 帯外し

また、栞も半透明のプラスチック製「大人になった、男たちへ」というのはレーベルのキャッチコピーのようです。ここからレーベルの目指すところも分かります。まあそれを実現していると思うかどうかは各自の判断次第ですが。

ノベルゼロ 栞

さて、本作の内容については旧版で語った通りなので、新たに細々と言う必要もないでしょう。
中世から「魔物」と人間が共存してきて今に至る現代(年号から言うと近未来でしょうか)社会で、アメリカ的な他民族国家「クリアト連邦共和国」を舞台に、「人魔調停局」の戦いを描く物語です。
主人公のライルは魔物に比べれば肉体的に遙かに劣る人間でありながら、それでも魔法と銃器を組み合わせた技術を駆使して、ボロボロになりながら戦うところ、そして時には上層部から政治的圧力をかけられながらも「人間と魔物が笑って共存できる社会」という理想のため戦うところが、圧倒的に熱い作品です。
クリアトのモチーフはアメリカ的ながら、中世以来の歴史の持ち、歴史の重みと歪み、先人の理想を共に背負っているのも設定場のポイントですね。

注目は、文章の改訂具合です。
冒頭部を見てみましょう。

 車のクラクションの音は遠く、立て付けの悪い木窓から吹く隙間風は肌に温い。
 静かな春の夜だった。
「今、人類は危機に瀕している!」
 その静寂を砕いたのは、熱気を帯びた男の声。それに続く怒号だ。
 暗闇に包まれた郊外、朽ちた礼拝堂の中に彼等はいた。
 荒れ果てて床板が腐り、信徒席が取り除かれた礼拝堂の奥で静かに月光を透過させるステンドグラスには、聖女の悲しげな微笑みが描かれている。
 その神秘的な視線の下で蠢くのは、所属章のない迷彩服に身を包んだ十数人の男達。
 方々に設置された燭台や松明の灯りの中で、彼等が背負った旧式自動小銃や散弾銃が鈍く暴力的に輝いていた。
「かつて、この世界は異界からの侵略を受けた。奴等は生まれながらにして恐るべき力を持ち、指先一つで人の命を奪う災厄の権化どもである!」
 中央に設置された演壇で熱弁を振るっているのは、禿頭の首魁だ。名は、ハイン。
 (扇友太『MONSTER DAYS』、KADOKAWA/メディアファクトリー、2013、p. 11)


これが今回の新版では……

 車のクラクションの音は遠く、立て付けの悪い木窓から吹いてくる隙間風は肌に温い。
 静かな春の夜だった。
「今、人類は危機に瀕している!」
 静寂を砕ったのはアドレナリンの匂いすらしそうな男の声、それに続く怒号。
 床板が腐り、信徒席も取り除かれた光輪境界。信徒や光輪教に見放されて久しい郊外の礼拝堂の上部では、ステンドグラスに描かれた聖女の微笑みが月明かりをうっすらと透過させている。
 その神秘的な視線の下で蠢くのは、所属章のない迷彩服に身を包んだ十数人の男達。
 彼等は燭台の灯りの中で、背負った旧式自動小銃や散弾銃を鈍く暴力的に輝かせていた。
「かつて、この世界は異界からの侵略を受けた。奴等は生まれながらにして恐るべき力を持ち、指先一つで人の命を奪う災厄の権化どもである!」
 中央の演壇で熱弁を振るっているのは、禿頭の首魁だ。
 名は、ハイン・オゴット。いくつもの州で指名手配をされている重犯罪人は、狂信を血流にめぐらせて叫んでいた。
 (扇友太『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』、KADOKAWA、2016、p. 11)


「アドレナリンの匂いすらしそうな」といった形容の追加はやや冗長さを感じさせないでもありませんが、この後で分かるようにこれは潜入している主人公ライルの一人称語りなので、彼の主観のいささか呆れた感情を示す表現としては納得です。
それに「旧式自動小銃や散弾銃が鈍く暴力的に輝いていた」が、それを持っている「彼等」が「輝かせていた」になることで、その武器で暴挙を起こそうとする連中の能動性を強調、また首魁ハインについての説明も先に明確化させています。
このくらいの改訂は全編に及び、また若干改行が増えていることもあって、後述のようにイラストはなくなったにも関わらずページ数は1割増しです。

また、【グロス十七】から【グロス17】と、武器名を初めとする数字表記の多くが漢数字からアラビア数字になり、「一角獣」が「ユニコーン」に改められるなどの表記の変更も一貫して、少なからぬ量に及びます。
旧版だとライルが「四等実働官」、相棒のアルミスは「五等実働官」という設定でしたが、新版では二人とも「下級実働官」という扱いになり、細かい等級設定はなくなりました。
その結果として、たとえばライルが地の文で自分の経歴を語る場面。

 そして件の【サンダーボウ】の実績と数々の事件解決に貢献した事になり、あっと言う間に四等実働官に昇進した、いわゆる期待の新人だ。
 (『MONSTER DAYS』、p. 33)


↑旧版 新版↓

 そしてこの二年間で数々の事件を解決し、今では下級官ながら指揮官代理という役目をいただいている。
 このままいけば、いずれ指揮官となり、自分のチームを任せてもらえるだろう。
 (『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』、p. 34)


もちろん基本のストーリーは同じですが、内容の変更箇所は、どちらかというと日常シーンに目立ちます。
たとえば第三章の冒頭、ライルが激戦から帰ってきたところで部長に叱られ、さらに徹夜で書類の作成と装備の整備をする羽目になる場面では、旧版だと相棒のアルミスも一緒にその仕事をして一緒に仮眠していたのですが、新版では手伝うと言っておいて帰って寝ていたことになっています。
(ユニコーンの習性として)乙女好きの変態で、ライルとは普段からいがみ合ってばかりのアルミスという相棒の厄介さをいっそう強調する結果となりましたが、それが対照によって戦闘時における二人の息の合った戦い振りをもいっそう浮き上がらせることになり、良かったのではないでしょうか。
なおこの変更の結果として、その後、同僚レアードの差し入れを食べながら会話する場面でもアルミスは登場せず。ついでに会話の話題は同じであるものの、順番も大きく変わり、レアードの差し入れからしてハンバーガーとポテトだったのがカレーになるなど、大きく変更されています。

その他にも、局員の皆がクーベルネを可愛がる場面で、旧版では皆でお菓子を与えていたのが新版では服で着せ替えをするなど、日常シーンはかなりの書き換えが目立ちます。
そして、ライルが若くして胃薬を常用しており、さらに旧版では同僚のイルオレア(キマイラの女性)が「でも、部長に関してはあれはあれでライルに期待しているんじゃないかにゃー」(p. 39)と言っていたのに対し、新版だと土蜘蛛タイチが「それだけ期待されてるってこそでしょ? いいことじゃないっスか」と言うのに対してイルオレアが「――どうかにゃー。単に苛め殺そうとしていると考える方が妥当だと思うけどにゃー」(p. 41)と言ってのけるなど、ライルの苦労の強調が目立つようにもなりました。

また、第三章の冒頭には敵キャラ視点の過去編が挿入されているのもポイントです。

他方で、戦闘シーンにはほとんど変更はありませんが、そんな中で第二章の戦闘の流れには少し変更がありました。
旧版だと、

 人化状態のまま回避を続けるアルミスの横顔に焦りが浮かぶ。一角獣の突進は強力だが、十分に加速できる距離が無ければ効果は薄い。
 (『MONSTER DAYS』、p. 92)


とあって、「俺が動きを止めるしかない」という流れだったのに対し、新版ではその少し前にまず、

 ユニコーンの突進は強力だが、速度を得るための助走距離がなければ大して戦えない。
 普通のユニコーンは、だが。
 (『竜と正義 人魔調停局 捜査File.01』、p. 105)


とあって、体術に人化状態と本来の姿の間での変身を組み合わせた格闘術で検討するアルミスの姿を描いておいて、

 人化状態のまま襲撃者の攻撃を躱し続けるアルミスの横顔には、焦りが浮かんでいた。
 アルミスの格闘術は、ランクを一つ二つ覆すほどだった。なのに、襲撃者は本性状態になることすらなく、彼女を打ち負かそうとしている。
 (同書、p. 106)


で、「俺が動きを止めるしかない」と続き、敵の強さがいっそう際だっています。

イラストについては、表紙(帯)が新規描き下ろし、カラー口絵は旧版と同じ(文面には変更あり)、本文イラストはなくなっています。

竜と正義 口絵

↑上が旧版です。
イラスト無しはレーベル方針のようですが、無ければ無いで構わないものの、あったものがなくなるのはやや残念なような……

それはそうと、デビュー作1作で消える作家はままいますが、2年以上経っての2冊目がデビュー作の改訂版というのは、よくあるとは言えない話です。
ノベルゼロの創刊経緯そのものが部外者には不明なので何とも言えませんが、何やら色々と疑いたくなるのは事実(ちなみに、出版社はMF文庫Jと同じKADOKAWA――というか、今やライトノベルの大部分はKADOKAWAグループなのですが――、創刊ラインナップの作家陣も6人中4人はMF文庫Jでの執筆歴がある顔ぶれです)。

まあいずれにせよ、現実の世界ではますます民族問題が激化し、各国で移民排斥を唱える右翼政党が躍進したりという現象が見られる当今、2年前と比べても本作のアクチュアリティはむしろ増しています。
内容的に不服はありません。この後に求めるものは、続巻のみです。


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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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