共に成長し、幸福になること――『じっと見つめる君は堕天使』

今回取り上げるライトノベルはこちら、角川スニーカー文庫の新作です。



本作は男子高校生の荒波浩之(あらなみ ひろゆき)のところに、天界の天使学校を落第した天使候補生の美少女・サラサ落ちてきて始まる物語です。
「日常の中にある日突然現れる美少女」はまさに定番中の定番。空から落ちてきた少女と言えば『天空の城ラピュタ』のイメージが強いのですが、これまた定着したイメージの一つです。
今や、天上を突き破って美少女が落ちてくる……なんて、逆にベタに過ぎてあまり見ない、昔懐かしいようなイメージですが、ただ本作の場合、その後が問題です。
そもそもサラサは最初から天使になる気がなくて落第してきた少女、「人間を幸福にする」という天使の使命を放棄して、「ニートになる」と宣言します。

「ヒロを幸せにすると言ったな……あれは嘘だ……ヒロ、幸せは他人に与えられるものじゃない、自分で摑むものなんだ……甘ったれるな」
「手師の役目を全否定してんじゃねえよ!?」
「そういうわけで、私は誰かを幸せにするつもりなんてこれっぽっちもない……天人界に帰りたくないんだ……私はこの人間界で悠々自適に毎日を面白おかしく惰性を堕落に塗れて生きていきたいんだ……具体的に言うと、私はこの人間界でニートになりたい……」
「こいつ、清々しいくらいに最低なことをきっぱり宣言しやがった……」
 (にゃお『じっと見つめる君は堕天使』、2016、p. 33)


引きこもるだけのサラサを見かねて、外に連れ出す浩之。
突然現れた非日常の存在である美少女が一般人の主人公の生活を変えるどころか(まあ、部屋に居座っている時点で生活に影響はあるのですが)、逆に彼女を主人公が変えようとするという反転がポイント。
彼の友達との交流を経てサラサにも変化が見られ、やがて友達を助けるため動くに至ります。ここでドラえもんばりに便利な天使道具が活躍(サラサが冗談で「近所のガキ大将にでもいじめられたか、ヒロ太。天使道具でリベンジしたいのか」なんて言っている辺り、この辺の要素は自覚的なものなのでしょう)。

この辺の変化と成長が急ぎ足に過ぎる感があるのは事実で、今日日もっとロクでなしで駄目人間なヒロインが珍しくないだけに、なおさらそう感じられます。

また、主人公の友人たちがいい奴揃いなのはともかく――お陰で気持ちいい話が実現できているわけですから、悪いことではありません――、浩之の面倒見の良さといい、友人たちの人望といい、ハイスペックに過ぎる印象もあります。
たとえばいじめに関するエピソード。「表面化したらいじめている側にとって拙い」という前提に基づいて、割とあっさり事態を収束させることができるのですが、現実的には、学校がその手の問題に対して「厳しく取り締まるだけ」というのは、考えにくいことです。というのも、学校はいじめた側も含めて、子供たちを守り、育てる役目を担っており、だからこそ万引きのような犯罪を犯しても、ただちに生徒が警察に突き出されることはないのです。まして、嫌がらせのようなグレーゾーンの事態に関しては、なおさらです。
ただ、本作においてもいきなり「学校が厳罰を下す」とまでは言っていません。そこでモノを言うのが、浩之の友達であある高城智(たかじょう とも)が学校の女子グループの中心人物であるということ――つまりは生徒コミュニティにおける一種の権力です。主人公周りのハイスペックさに訴えて割とあっさり話を片付けているというのは、そういうことです。

もう一つ、もっと気になったのは、やはりサラサの過去に関する話ですね。これが割とあっさり本人の口から語られていることです。
しかし、何度も言ってきたように、「自分はこんな辛い過去があって、それで屈折した」と自分で語れる時点で、その問題はかなりの部分解決済みなのです。そういう書き方は、あっさりしすぎている感が否めません。
とは言え、本作の多くの部分は浩之視点ですし、――後述のように、それ以外の記述も結構あるとは言え――何より、「浩之がちゃんとサラサの過去と事情を理解する」というのが物語の流れにとって重要です。比較的最近会ったばかりの人物について、そういう事情をどうやって伝えれば説得力があるのか……難しい問題ですが、しかしつねに考えておくべき事柄です。

とは言え、「お互いがお互いを変え、共に成長し、共に幸せになる」展開は、青春の王道と言うべき心地よさがありました。

サラサのキャラに関しては、「やる気のないジト目」と上の引用に見たようなボソボソした喋りが特徴のダウナー系ヒロインながら、かなりのお喋りで浩之を翻弄してばかり。いいキャラです。地の文が少し「ジト目」という記述を繰り返して強調し過ぎな面もありますが。
それから、サラサと浩之の間に恋愛感情はなく、浩之にとっての恋愛面でのヒロインは別にいて、サラサはその関係を見守る立ち位置なのもポイントです。
もっとも、これまた定番として、浩之は鈍感で、その相手の気持ちにまったく気付いていませんが。ただ、ここで本作が三人称で、割と浩之以外の視点も柔軟に入ってくる語り方であることが生きてきて、サラサがその辺を察して笑っていることがきっちり描かれています。

とは言え、サラサは浩之の部屋に居座り続けた挙げ句に「彼氏の部屋は自分色に染めたい主義なんだ」なんて言ってたりしますが。
いつの間に彼氏になったのやらという話ですが、しかし恋愛感情が絡まない分、惰性の事実として安定して続く関係になりそうな気配はあります。感情というのはどうしても、変動するものですから。

掛け合いは軽妙。
上の引用に「あれは嘘だ」という映画『コマンドー』のパロディがありましたが、これも含め、総じてパロディネタはネット上で定着しているものや有名なもの、あるいは必ずしも特定作品ネタではなくありがちなイメージなどが主体。後は、近世詩歌などのネタが比較的多いのがポイント。たとえば、空から落ちてきて天上に突き刺さっていた状態から腕が抜けたところで、

「おお、自由だ……羽ばたける、私はまだ遠くの空へと力強く羽ばたいてゆける。白鳥はかなしからずや空の青、海のあをにも染まずただよふ……そういうものに、私はなりたい」
 (同書、p. 14)


「日本のことは右も左も分かりませんが」と外国人を装って「嘘つけ! お前さっき若山牧水諳んじてたじゃねえか!」(同書、p. 42)とツッコまれるヒロインがいたでしょうか。
他にも三国志とか、この渋めのチョイスが何とも言えません。


ところで、本作は新人賞作品――第20回スニーカー大賞の「特別賞」受賞作品ですが、この作者は『魔人勇者(自称)サトゥン』という作品をすでに商業出版していました。しかも「小説家になろう」専用レーベルのモンスター文庫。





……というわけで調べてみると、間違いありません。
三文字のシンプルな名前なので、名前だけだと確証が持てなかったところですが、本作も「小説家になろう」作品で、『魔人勇者』と同一作者の作品であることを確認できました(なお、「小説家になろう」掲載時およびスニーカー大賞投稿時のタイトルは「天使」でした)。

 じっと見つめる君は駄天使

特に「なろう」系特有の色彩はなかったのですが、こんなところでも見かけるとは……
WEB版はこの1巻分で完結済みという扱いのようですが、書籍版は続きの可能性もありそうで、こういうパターンもあるのですね。

 ―――

さらに余談ながら、本作と同時発売の新人賞作品『うーちゃんの小箱』の表紙を見比べると、ヒロインの正面アップという同様の構図です。



ちなみに、去年の同レーベルの新人賞作品2つにも同様の現象が見られました。
何か意味があるのでしょうか。




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Author:T.Y.
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