スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シンデレラのバトルレース――『シンデレラ・ダービー 騎士姫は最速タイムを叩き出す』

今回取り上げるライトノベルはこちら、今月の一迅社文庫の新作です。



作者の真野貴人(まの たかと)氏はこれが初の商業出版作品となる作家です。経歴情報なども見当たらず。
一迅社文庫は今月のもう1冊の新作も同様で、最近こういう「謎の新人」が多いのですが……事情は不明です。

さて、本作の舞台は魔法の存在する現代的世界、そのヨーロッパの一国であるアッシェンブルク王国です。
(やや安易にも)科学技術の代わりに類似の魔法技術が使われていたりしますが、その内実がスマートフォンならぬスマートミラーだったりドローンだったりしますから、文明・文化はほぼ現代――2010年代のイメージで見て良いでしょう。

そしてこの世界では、「シンデレラ・レース」というスポーツが盛んに行われています。
魔法で生み出したカボチャの馬車に乗り、魔法で生み出した武器(多くは長柄物)を振るって、互いを妨害しながら競うレースです。

本文冒頭の触れ込みによれば、「シンデレラになりたい、という少女の夢を叶えるスポーツ」とありますが……「シンデレラになる」ってどういう意味だったっけ、と思わずにはいられません。
あとがきによれば、シンデレラはどうやって帰ったのか、王子は当然追いかけたはずだ……という着想から生まれた設定とのことですが、まあその発想はありとして、「シンデレラになる」上で重要なのはそうやってカボチャの馬車を見事に駆ることではなく「王子に見初められる」ことの方でしょうが、と。
まあ、そういうバカバカしい設定で押し切るのが味噌、とも言えますが、しかしどちからというと、その後もふざけた設定が次々出てくる、というノリではなく、この設定に慣れてくると、むしろ大人しく思えてきます。

さて、本作の主人公は私立高校・キルクスアカデミー1年生の男子、ブレイズ・オボロマルディ
シンデレラ・レースの御者として中学時代にはそれなりに名を馳せたプレイヤーでしたが、事情があって引退していました。
しかし、コヨミ・エイクマンという少女に御者として組んでほしい、と求められます。
最初は難色を示していたブレイズですが、やがてコヨミの熱意に屈して現役復帰、そしてライバルや憧れの強者との対決……と、展開としてはスポーツ物の王道ですね。

作者は「いわゆるシンデレラストーリー」と言っていますが、コヨミの祖母もかつてのダービー覇者で、コヨミ自身まだ公式戦での実績こそないものの、実力者であることは学内では周知のこと。しかも“王子様に見初められる”というよりも積極的にブレイズを説き伏せて公式戦に挑んでいるわけですから、「シンデレラストーリー」という言葉のイメージとはいささか齟齬がある気はします。
まあ、ストーリー面では「シンデレラ」よりも「スポーツ物」のフォーマットを重視したのでしょう。

それに関して大きな問題はないのですが、どうにも一つ一つの過程はあっさりしている印象があります。
たとえば、レースにおいて馬になるのはブレイズの使い魔の喋る黒猫ロシナンテ(この名前はなぜかドン・キホーテの愛馬に由来していますが)が最初からいるので、ブレイズがコヨミの御者になることを受けた時点でメンバーは足りています。
用具にも問題はありませんし、学校の部員との関係も良好ですし、部の連中では練習相手として不足だ、ということになった時の別の練習場所も主人公の伝手ですぐさま容易できますし、「仲間や用具、練習環境」というスポーツを始める際の問題――そして、ここがしばしば面白い題材になり得る――を、実にあっさりとクリアしてしまっているのです。

本番での戦いはなかなか熱いものがあり、そこは魅せるものがありました。
土壇場で予想外の展開もありましたし。

主人公がレースを引退していた理由には過去のトラウマがあり、それが後半改めて問題になったりもするのですが、解決の仕方は実にあっさりしたものでした。
まあ、その軽さは持ち味の内としておきましょう。
全体に明るく、時にバカバカしく、爽やかなスポーツ物の雰囲気です。

キャラの魅力、ブレイズとコヨミの微笑ましいラブコメも、悪くありませんし。


以下は、本筋からは外れたところで若干気になる点です。
コヨミの母親はジャパニーズで、その名前もジャパン系なのですが、ただ彼女自身は実際にジャパンに行ったこともないため、その知識はあやふやなものです。
たとえば「ジャパニーズスシの最高傑作」としてカリフォルニアロールを食べているのですが、なぜ「カリフォルニア」という名前なのかと聞かれると、

「……うっ」
 コヨミは言葉に詰まった。
「母親がジャパニーズなら、ジャパンについても人より詳しいんだろ」
「それは……その……アレよ! ほら、ジャパンはアメリカに戦争で負けて、一時期占領されてたのよ。その時どこかの都市のニューカリフォルニアなんて名前がつけられたんじゃないかしら。そこで開発されたのがカリフォルニアロール……ってことじゃ?」
「なるほど、ニューヨークとかニューオーリンズとはと同じノリか。納得した」
 (真野貴人『シンデレラ・ダービー 騎士姫は最速タイムを叩き出す』、一迅社、2016、p. 38)


こういう間違った日本知識ネタ自体はいかにもありそうで面白いのですが、ただ、この世界の地理や歴史がどこまで現実世界と対応しているのか、という新たな疑問を生じさせます。
アッシェンブルク王国は名称からしてドイツをイメージしているようですが、名前も体制も架空の国です。しかし、それ以外の国はジャパンとかイギリスとか、ほぼ実在するものと同じで、ジャパンがアメリカと戦争して負けたとか三十年戦争とかの歴史まで同じである模様。
魔法が存在する世界の社会や歴史はどうなるのか、現実と同じようなものであり得るのか……というのはそれ自体興味深い思考実験ですが、まあ「同じようなものになる」という答えを採用するのも、仮にありとしましょう。
しかし、舞台となる国だけが架空という微妙な設定だけに、余計に気になってしまうのですね。


それから、本文にはスカートめくりとかのお色気サービスシーンに、ごつい男のシンデレラといった別の意味で強烈な面白いシーンが少なからずあるのですが、ほとんどイラスト化されていません。
イラストの大部分は、人物が大写し(顔から腰の下まで画面に入るくらい)になっている無難なものばかりです。
さらに、レースの出走者には中国、エジプト、ブラジル、ロシア系のシンデレラとか、ビジュアル的に面白そうな面々も多いのですが、これもイラストには登場せず。イラストに描かれているのはストーリーに深く絡むメインキャラだけです。
本文の記述と矛盾した絵を描くのに比べればマシですが、本文とイラストの連携が取れていないな、とは思います。

そもそも、ライトノベルのお色気描写というのは多くの場合、「裸だった」「下着が見えた」とさらっと書くだけの、割とあっさりしたものです。裸体や下着についてあまりにねっとりと描写を始められたりした日には、「官能小説じゃないんだから……」とかえって違和感を感じます。
これはある意味で、イラストが付くのを最初から期待しての表現技法です。
それがイラストが受け取ってくれないのでは、まるで味方へのパスをスルーされたようなものではありませんか。あるいは送球した先の塁にベースカバーがいなかったとか。





にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。