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選ばれざる者の地道な、終わらない戦い――『ゴブリンスレイヤー』

今回取り上げるライトノベルはこちら、GA文庫の新作です。



作者は蝸牛くも氏。
プロフィールによると、第7回GA文庫大賞に応募したものの、投稿作品ではなくWEB上で書いていた別作品でデビューすることになり、それが本作……ということのようです。
しかもWEB版では、本作は「やる夫スレ」において、AA(アスキーアート)を用いて書かれていた話です。
それが文章作品に生まれ変わって出版とは、商業出版へのルートも多様になったものです。

 ゴブリンスレイヤー

本作の舞台はモンスターがいて、妖精(エルフ)鉱人(ドワーフ)といった様々な種族がいる、いわゆるRPG風ファンタジーの世界(モチーフはTRPGとのこと。種族名など多くの用語が「漢字にカタカナ語のルビ」表記になっているのも特徴です)。
その世界で、本作の主人公は上位の等級を与えられながら、最弱のモンスターであるゴブリンだけを狩り続ける男(通称がゴブリンスレイヤー、彼を含めほぼ全ての登場人物について固有名は出てきません)です。

特異な存在として彼を描くに当たってポイントとなるのは、世界観です。
ゴブリン「背丈は子供並。膂力も、知力も同様」(p. 11)と繰り返し強調されており、最弱のモンスターなのは事実です。
しかし、本作の世界は、腕の立つ冒険者と言えど、多人数に囲まれて攻撃されたら危ないという現実的なものです。一騎当千の戦士が無数の的を相手に無双、とは行きません。子供並と言えど、集団で武装し、罠まで張って襲ってくるゴブリンと戦うのは、実はかなりのリスクを伴うのです。
さらに本作の世界では、魔法も通常、1日数回が限度。多数の雑魚を相手にするのは、分が悪いのです。

そして、敗れた冒険者の末路は悲惨。
冒頭でいきなり、そんなゴブリンの恐ろしさを露知らぬ新人冒険者のパーティ血腥く凄惨な最期が描かれます。
100回ゴブリンと戦って99回勝てるとしても、出目が悪くて1回の負けになるかも知れない、どうせ出目が悪くて負けるなら、相手はドラゴンが良い……という章間で語られる冒険者の談話は、そんな地味な仕事を受けたがらない冒険者の心理をよく物語っています。

それでいて、世界にはもっと強力なモンスターが存在しますし、ゴブリン退治の依頼は被害を受ける農村からのもので、大した報酬は出せません。
熟練の冒険者は割に合わないから引き受けず、政府が動くには他にもっと重大な案件があり、そして新人冒険者でも、全滅したとしても、道連れにある程度の数のゴブリンを倒すことはできるので、使い捨てで新人を送り込んでおけばその内ゴブリンは何とかなるから、なおさら問題にならない……ゴブリン退治とは、そんな仕事です。
そんな中、主人公のゴブリンスレイヤーは、家族を含む村を滅ぼされた過去の恨みもあって、ただゴブリンを殺すためだけに戦い続けます(過去については断片的に語られるのみで、彼が無口なこともあり、情念についてそれほど明示的には描かれませんが)。
……雑魚退治ばかりの仕事ぶりとみすぼらしい格好(いつも兜を被っており顔も見せません)で、他の冒険者たちから蔑まれながらも。
「世界が滅びる前に、ゴブリンは村を滅ぼす」「世界の危機は、ゴブリンを見逃す理由にならん」(p. 147)という言葉が彼の信念を物語ります。

また、ゴブリンの悪意に対抗するべく、彼の戦い振りも非情かつ徹底したもので、火攻め水攻めも駆使し、ゴブリンは子供まで殺し尽くします。

ただそれでも、最初の冒険で仲間が全滅という状況から助けられた女神官は彼の仲間となって同行しますし、幼馴染みの牛飼娘は彼のことを身近で見守っています。ギルドの受付嬢も、人の嫌がる仕事を進んで引き受ける彼のことを高く買っています。
さらに、中盤からは妖精(エルフ)の弓手鉱人(ドワーフ)の道士、それに蜥蜴人(リザードマン)の僧侶という異種族混成パーティーが登場、ゴブリンスレイヤーを仲間に加えて冒険します(目的はやはりゴブリン退治ですが)。
元々全く文化の異なる異種族同士で、とりわけ妖精と鉱人は犬猿の仲。また鉱人道士は、「宝石も金属も、磨く前は全て石塊。物事を見た目で判断する鉱人は、この世におらぬ」と言って、ゴブリンスレイヤーの一見みすぼらしい装備の意義をただちに見抜きます。
異質な相手に慣れており、また相応の実力と見識を持っているからこそ、偏見を持たずにゴブリンスレイヤーを評価できるわけです。

そしてクライマックスでは、大きな危機を前にしての熱い展開も。
地道に戦ってきたゴブリンスレイヤーが人に認められるのは、熱く、感動的な展開です。

他方で興味深いのは、章間でさらっと「勇者」が描かれ、そしてその勇者が「魔神を倒して世界を救った」ことが伝聞で語られて済まされていること。
この様子を見る限り、勇者だってゴブリンを甘く見ていたという点では、殺された新人冒険者と大差ないように見えます。ただ、圧倒的な実力(もしかしたら運も?)故に、たとえ油断していても、圧勝してしまうのです。
ここには選ばれし者とそれ以外との埋めようのない差があります。

実際よく見ると、ゴブリンスレイヤーが武芸なり何なりでとりわけ優れているという記述はありません。
彼は確かに実力者と言っていい人物ですが、それは敵(ゴブリン)についての調査、戦術、武装の積み重ねの成果です。その成果も、その気になって彼に聞けば他人も学ぶことができるものです。
結果的に高い能力を発揮した者については、多くの場合、それが才能によるのか努力によるのかなど、判断のしようがありません。むしろ結果を出した以上、「才能があった」と言われることから逃げられないのです。
しかし、彼は決して特定の「能力が高い」わけではないからこそ、元々力があったわけではなく、地道な積み重ねで戦ってきたのだということが際立ちます。

かくして、選ばれし者の力を持たず、英雄譚の主役にはなれなくとも地道に戦う数多くの冒険者がいて、それには意味があることを描いてくれる――それが本作の見所です。


イラストも『ドラゴンクエスト』等のキャラクターAAに基づく登場人物をオリジナルデザインに改変しつつ、ちゃんとAAの面影を留めた容貌になっていて、感心させられます。



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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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