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食う-食われるの愛――『ラブと貪食の黒戮呪剣』

ちょうど帰省中に限って、献本やら学会誌やらを京都の住所の方に発送したというメールが立て続けに来ました。
学会誌の発送先は以前から学会名簿に登録してある住所ですし、献本の発送先も、実家の住所を指定すると今度は帰省中に確実に届くかどうか分からなかったので。
まあ、郵便受けに入り切らなくとも、郵便局が預かってくれている内に向こうに戻る予定ですが。

 ~~~

それはさておき、今回取り上げるライトノベルはこちら、宮澤伊織氏の新作です。
宮澤氏は角川スニーカー文庫の『僕の魔剣が、うるさい件について』(全4巻)でデビュー、一迅社文庫でも4作品を書いていますが(全て単巻)、今回はMF文庫Jに発登場となります。



本作は異世界ファンタジーです(私も「異世界」という言葉には色々疑問を唱えつつこの表現を便利に使ってしまうわけですが、この場合、「地理・政治などからして基本的には架空の、魔法や怪物といったものが普通に存在する世界を舞台にした作品」という意味で)。

主人公のジント盗賊の下っ端の少年。
ある時、いつものように旅人を襲うのですが、その旅人の持つ黒い魔剣によって仲間は全滅――しかも、斬られる端から身体が水晶のようになって砕け散るという奇妙な死に方をしました。そして、ジント自身も生き延びたものの、魔剣によって心臓を半分奪われてしまいます。
とは言え、その旅人――ティラニアという少女もその場で飢えて行き倒れ。ジントは彼女を助けてしまいます。
飢えてる奴に飯を食わせてやれ、というのは彼を育てた「師匠」の教えでもありますが、しかしこれは仲間を殺した「敵」を助けたことになるわけで、彼は盗賊団から追われる立場となり、ティラニアと一緒に(3人の妹弟も連れて)一緒に逃亡の旅をすることになります。

しかも、ティラニアの持つ魔剣「コルドリクス」は、人の魂を喰らう魔剣(なお、タイトルも「黒戮呪剣」に「コルドリクス」ろルビを振ります)。
心臓と共に魂の半分を喰われたジントは、魔法の力以外では死ねない身になっており、さらにコルドリクスは彼の残り半分の魂を執拗に狙ってきます。

『僕の魔剣~』、あるいは『不本意ながらも魔法使い』等の過去の作品からしても感じられたことですが、作者・宮澤氏のシリアス寄りの作品は展開や戦闘があっさりしていささか薄味な印象はあります。
これがパロディ・ギャグ寄り作品の場合、実にあっさりしたノリでとんでもない異変が起こったり殺戮が展開されたりするのがシュールな笑いをもたらすのですが。
ただ、精神論で突っ切る熱さがないのは、合理性の裏返しでもあります。そして相容れぬ者は相容れず、そして戦えば容赦なく死ぬという、そのドライさが味でもあります。

本作の場合も、コルドリクスは持ち主であるティラニアが好意を寄せる者の魂こそを欲するという特性があり、彼女は孤独な旅を強いられています。そして彼女自身、いい加減人を斬り慣れて、少なくとも特別な思い入れのない相手に関しては割と平気になっている、という状態です。
他方で、ジントは勘が鋭く攻撃を避けるのが上手いだけで、特別な戦闘能力はない少年。
互いに惹かれればこそ、殺し-殺されるという関係になってしまう――しかしそれこそが2人の絆でもあるのです。
また、ティラニア自身もコルドリクスを振るうとお腹が空くとかで、いつも空腹で倒れています。ジントはそれで行き倒れた彼女に食べ物を施したわけで、殺す-殺されるにして食う-食われるという関係が、2人の恋愛関係と重なります。かくしてタイトルの意味も明瞭でしょう。

「殺したいくらい愛している」という表現は決して新しいものではなく、エロスとタナトスの重なりも王道ですが、同時に食欲というもう一つの欲望を重ねているのが一つのポイントでしょう。

もっとも、今巻ではクライマックスでようやく2人がそうした名コンビにしてカップルを結成しており、途中のすれ違いも長いので、今後にも期待したいところですが。
カップルとしては、ティラニアの方が背が高いのもポイント。

また、人間を辞めて、それにより精神状態まで侵食されていく主人公という主題も、宮澤氏の作品においてはデビュー作以来――これはギャグ寄りでもシリアス寄りでも――繰り返し見られたものです。
もっとも、その辺の恐ろしい心理描写も、描写としては割とあっさりしたものですが。

さて、精神論で熱くならない合理性が作者の特色と言いましたが、自分が人間でなくなり、それによって心理や行動原理まで影響されていく過程というのは、まさに自分ではどうにもならない情念の如きものに支配されていく過程でもあります。
それは本作においても顕著です。何しろジントは、自分の命を奪う魔剣とその持ち主のそれぞれに引きつけられ、ともすれば魔剣に殺されたいとすら感じ始めるのですから。
思えば、魔剣という題材も『僕の魔剣~』以来のものであり、あちらの主人公もある種魔剣に魅入られていた風はありましたが、ただ彼は使い手としてであったのに対し、何しろ本作は獲物として魅入られるのですから、「自分が何か恐ろしい情念に突き動かされている」という感覚はいっそう際立ちます。

ただ、その情念こそ彼等を突き動かす力であり絆であり、そして理性の源にすらなります。
そもそも、人を行動へと駆り立てるものは感情であり、理性というのはまず行動するという前提があった上で、行動を定めるという規定的な働きをするものです。動く気力のない者に理性は無意味です。
ジントの場合、コルドリクスの呪いとティラニアへの想いにによって行動方針は決定された上で、その状況にどう対応して、判断するのか――それこそドライで合理的な判断を生み出す源であり、そんな彼の存在こそがティラニアの生にも新たな意味を与えます。
そのことは、「理性」と「情」が対置ではなく倒置されている以下の箇所が、雄弁に物語っているのではないでしょうか。

 故国を出てから、ティラニアは終わりのない悪夢を生きていた。いつ殺されるとも知れない流浪の身。誰かにすがることもできず、近付いてくる者は例外なくコルドリクスに殺された。(……)
 その果てしない悪夢に初めて現れたのが、ジントという例外だった。
 しかもジントは、ティラニアを殺さなかった。ティラニアの生きる理不尽な世界において、魔剣を手にして以来初めて巡り逢った、理性であり、情だったのが。
 (宮澤伊織『ラブと貪食の黒戮呪剣』、pp. 213-214)



なお、本作の冒頭は黒字に白抜き文字で印刷されています。
これは夜の闇と、そして舞台であるスナガラの地の黒い川を示しているのでしょうか。

ラブと貪食の黒戮呪剣1

そういう場面そのものはそこまで特異なものではないので、印刷仕様まで使った演出を行う理由としてはやや弱く思えるかも知れませんが、しかしティラニアが初めてその姿を見せるイラストが黒から白への移行の役割を果たしていて、見事ではあります(ただしイラストは、「鎧を着た」というティラニアの服装に関する記述はまったく反映していませんが)。

ラブと貪食の黒戮呪剣2


↓の意味はあとがきを読めば分かりますが、作者にとっての「魔剣」イメージのルーツのようで。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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