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金のために何を懸けるか?――『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』

今回取り上げる小説はこちら、『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』です。
読書メーターの献本に当選して、いただいた1冊です。(余談ながら、今回の当選はまったく偶然ではあるものの、同時期に宝島社からの他の献本も重なり、宝島社の本を一気に4冊も献本をいただく結果となってしまいました)



第14回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作とありますが、この賞も『このライトノベルがすごい!』大賞と同じく、宝島社が刊行しているムックの名を冠した新人賞です。
なお投稿規定を見ると、募集対象は「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」とあります。この「広義の」が味噌であって、つまりはミステリ要素は限りなく希薄でも構わないようです。
本作もその例に漏れないように思われます。

本作のヒロインは、依頼人から元手を預かっての株式投資で莫大な金を稼ぎ出し「黒女神」と呼ばれている女性・二礼茜(にれい あかね)
主人公の百瀬良太(ももせ りょうた)は、銀行員から転進して石川県庁の金融相談員として働いていた人物ですが、兄の会社が資金調達のため茜を頼ったのがきっかけで、彼女の助手(といっても、金融取引の仕事そのものを手伝うわけではありませんが)として彼女の仕事に付き合うことになります。

プロローグでは繊維工場を経営する良太の兄、第1章では老舗和菓子屋の社長、第2章では死んだ大物歌手の父親……といった依頼人と、それに対する茜の仕事ぶりを通して、お金を巡る様々な人間模様が描かれます。
第3章では、政治家として立候補を目指す元官僚と、取り締まりが厳しくなる中で足を洗おうとするヤクザの話が交差。
第4章は東京に舞台を変えて、日本の産業の命運に関わる企業の買収問題に、茜自身の今後のことも関わってきます。

それぞれの依頼人の話を中心にした短編連作のようにして話を進めつつ、最後は茜自身のことに関わる……というのは構成としては王道でしょう。
なお、無許可で信託投資を行っている茜の正体と、彼女を「追っている」良太の上司・秀島……といった謎の要素も少しはあるのですが、答えはさらっと上から説明されており、謎解き要素は希薄です。

本書の巻末には4人の審査員による第14回『このミステリーがすごい!』大賞の選評も収録されていますが、やはり誰もが気にかけるのは、株式投資において圧倒的な勝率を誇る茜の超人ぶりでした。
実際、これはいささか非現実的ですし、それゆえに――終盤は不調でかなりミッションに苦戦するとは言え――緊迫感もそれほどありません。

ただ、これは「現実準拠、あるいはそれに近い世界において、超人すぎて現実離れしている」というだけの話なのかというと、それだけではないように思われます。
問題は、株式投資というのはギャンブル、儲かるか否かは確率の問題だということです。
たとえば現実の世界では、格闘技の達人と言えど、数人の素人に囲まれるとボコボコにされる、ということがあります。何十人と喧嘩して勝つ人が登場したら、それはやはり非現実的だと思うでしょう(しかし、現実にはまったくないとは言えないという話も。事実は小説より奇なり)。
ただ、私のような非力な人間とプロの格闘家が喧嘩をすれば格闘家が100%勝つ、これは力の大小の問題です。ですから、その程度差を現実的にあり得る範囲から延長しても、ある程度までならばまだありそうに思えます。
それに比べると、誰にも予測できない株の動きを見通すというのは、何か超能力めいたもの、常人とは質的な差異があるように感じられるのです。
もちろん、株価は単にランダムで動くわけではなく、人間の思惑が関わっているわけですし、茜も「株を通して人間を見ている」のだと強調していますが、それでも、です。
後半で説明される、彼女と言えどいつも勝てるわけではない、不調の時もあるという話も、かえって彼女の能力が何か説明したがい直感的なものであるという印象を強めます。

そんな問題はありますが、やはり本作の見所は、お金を必要とする人々の人間模様であって、その点では前半の方に味わいがありました。
前半は話の性質としては、人情物に属すると言えるでしょうか。

ポイントは、茜が依頼人の「大切なもの」を報酬として要求する、ということです。
欲を掻いて、お金に困ってはいないけれどもっと欲しい、という人間は、大切なものを手放せはしません。
人生において重要なことのためにどうしてもお金が必要である、という依頼人に対して、本当にその一歩を踏み出す覚悟があるのか、と茜は問うのです。
他の形でも、茜は依頼人の覚悟を問います。そもそも、彼女を信じて資金を托す時点でそうですし(当然ですが、黒女神の名を騙った詐欺もあったとか)、たとえば、株は十分に値上がりした、今売ってもかなりのお金は得られるという場面え、茜の「もっと上がる」という言葉を信じて売らずにいられるか――
これは他力行にも似た厳しさです。

浄土仏教の言葉である「他力本願」というのは、(誤って)他人頼みの怠惰な態度を指すと思われていることもありますが、これは実のところ「本当に任せておいて大丈夫なんだろうか」という不安や迷いを断ち、自己を放棄することを求めるという厳しさがあります。
任せつつ、「保険をかけて自力でも何とかしておこうか」などと考えてはいけません。

なぜこんな宗教的な用語を持ち出すのかというと、問題はたかが金だからです。
こう言うと「いや、お金は大事だ」と仰るかも知れませんが、私は私の価値観を言っているのではありません。
マネーを題材にしたドラマのほとんどは、ただ儲かるかどうかだけでなく、必要なだけのお金を確保できないと殺されるとか、今後の人生で再起することにも差し支えるとか、お金以外の危機をそこに絡めることで盛り上げてきます。
「金は命より重い」は『賭博黙示録カイジ』の登場人物・利根川の台詞ですが、しかし『カイジ』の大金を賭けたギャンブルが面白いのは、負けたら強制労働とか身体の欠損とか果ては死といった危機があるからです。「金は命より重い」は、命が金に懸かっていることを前提としています。
つまり、お金だけでは話を盛り上げるに不十分だというのは、何も私の見解ではなく、世のほとんどの作家・鑑賞者に共有されている見解です。

本作ももちろん、その例に漏れません。
人生の懸かった一場面において、人は何を賭けることができるのか――そんな、宗教的決断にも似た厳しい場面において、「人間」を描いているのが、本作の魅力です。



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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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