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大胆に逸脱するところ、それでも繰り返されるもの――『張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。 2』

今回取り上げる小説はこちら、アリアンローズから刊行の『張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。』第2巻です。

実は、前巻の記事を書いたことにより、作者の遠野九重氏から連絡をいただき、今回の2巻は献本もいただきました。ありがとうございます。



 (前巻の記事

本作は乙女ゲーム『ルーンナイトコンチェルト』の世界に悪役令嬢アルティリア・ウイスプとして転生した女性――前世の名は黒河透子――の物語です。
ゲームでは主人公を苛め、そして悲劇的な最期を迎える悪役令嬢に転生し、破滅を回避すべく奮闘する……というのは(今や「小説家になろう」系の女性向け作品にありふれた)悪役令嬢転生ものの王道設定ですが、本作の主人公はもはや、ゲームの舞台と大筋を辿りつつ自らの破滅に繋がるフラグを摘み取る、といった生き方をせず、もっと抜本的な回避を図ります。
今回、12歳になったアルティリアは、ゲームの舞台となる魔法学院行きを避けて、錬金術大国ルケミアへと海外留学してしまうのです。

これはゲーム知識をどう活かすかという考え方の問題でもあります。
ゲーム知識により、人物やこれから起こることについての予備知識があるならば、それを大きなアドバンテージとできるかも知れませんが、しかしまさに自分の振る舞いによってゲームの筋書きから遠ざかることによって、それも徐々に役立たなくなっていく可能性が高いでしょう。それに、細かいことを知って破滅フラグを回避しようとしても、大きなナガレには抗えない可能性もあるわけで、ならばいっそ最初から……という考えもあり得ます。
何より、本作のアルティリアは――前巻の時に引用したように――ゲームの主人公であるルトネと出会うことによって、意図せずともゲームと同じく彼女を苛めるように自分がなってしまうことを恐れています。
だから、大胆に舞台を離れるわけです。

結果として、1巻で登場した二人の攻略対象キャラ――エルスタットと「彷徨える伯爵」クリストフ・デュジェンヌも置いてけぼりで、今回はほとんど登場しないという暴走加減です(今後、また合流する布石はすでにありますが)。

そして、留学先のルケミアで彼女は、ゲームの攻略対象キャラの一人であった天才錬金術師フィルカ・ルイワス、それに転生して初めての友人といえる存在となる同年代の公爵家令嬢マレーネ・オルウィとも出会います。

とは言え、試練の神アスクラスアが陰謀を巡らせていることもあり、彼女の周りは相変わらずの波乱万丈。
ここでも国を揺るがす大騒動に巻き込まれます。

なお、WEB版とも九分九厘別物なので、もう細かく照応する余裕はありませんが、大まかにWEB版の第2部に対応している模様。

さて、本作の1巻はいきなり世界の最後に現れる終末竜の力でバトルするという少年漫画的な展開でした。
今回は敵がマスコミを使って情報戦を仕掛けてきたりと、謀略の色彩が強くなりますが、バトルアクションの要素が強いことに変わりはありません。

主人公は様々な男(彼女をこの世界に転生させた神を含む)にアプローチをかけられており、今回は記憶喪失という傷を抱えるフィルカとの交流もありますが、恋愛要素そのものは薄め。
それに、今回はアルティリアに友人が出来て、それが彼女の人形たちにも影響を与える展開もあるのですが、友人マレーネと交流する日常シーンも比較的あっさりしている印象を受けました。
まあこれは、同レーベルではそういう部分にもっと力を入れている作品を見てきたがゆえの相対的な評価という面もありますが。

かくして、一応ゲームのキャラは登場するものの、ゲームの舞台からは遠く離れてしまい、「これからゲームの設定・展開では……」等と考える展開もあまりなし(フィスカという人物個人に関しては「ゲームで登場した時にはこうなっていた」と「今後」のことを考えて接する場面がありますが)。
そもそも「乙女ゲーム」色が弱い……となると、本作は何なのか。

答えは私が聞きたいくらいですが、しかし示唆はありました。

 フィルカ・ルイワスは十二歳で錬金術の奥義に辿り着いている。
 しかしそこで目にした“何か”は人間の心にとって重すぎるものだったらしい。
「すべては繰り返されてるんだ! 抜け出さないといけないんだ!」
 彼は半年に渡って獣のように暴れ狂い――正気を取り戻した後、すべての記憶を失っていた。
 (遠野九重『張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました。 2』、フロンティアワークス、2016、pp. 96-97)


「すべては繰り返されてる」と言えば、ただちにタイムループが連想されます。
そもそも透子を転生させた神アスアも、現在の敵であるアスクラスアの2000年後の姿で、未来から干渉しているというタイムパラドックスの要素がすでにあるのですから、ループが入ってもそれほど不思議なことはありますまい。

さらにルイワスの推測によれば、精霊は人間の魂の行く末であるとのことですが、アルティリアの人形に宿る精霊たちは人間だった時の記憶を持っておらず、真相は謎のままです。
ただ、今回一人の人形精霊に不穏な動きがあり、それも何やら重大な真相に関わっている模様。
「行く末」というのは、それこそループが一巡した「先」であるとしたら――

思えば、「ゲームの世界に転生する」話は数あれど、なぜそうなるのか、詳しいことは説明されない作品が多い中で、本作においては、元々この世界は存在していたのであって、その情報が現代日本の人間に伝わってゲーム『ルーンナイトコンチェルト』のモデルになった――という説明がありました(1巻pp. 76-77)。
しかも1巻では、(黒河透子の転生ではない)原作ゲームにおけるアルティリアの辿った運命とその内面を描く断章まで挿入されていました(2巻にはありませんでしたが)。
これがあくまで「ゲームでのストーリー」と考えると、ゲームの登場人物を内面を持ったものとして一人称で描くのは違和感があるのですが、これが「実際にあった、別の歴史」であれば、話は別です。
そして「別の歴史」とはパラレルワールド等も考えられますが、ループの前巡ということも――

総括すると、本作は「乙女ゲーム」という媒体の性格や「ゲームと現実のギャップ」をあまり強調していません。
それは、問題点がむしろ「ゲームと現実」ではなく、(どちらも現実の)「異なる複数の歴史」の関係にこそあるから、ではないでしょうか。
だとすれば、原作ルートを大胆に離れる主人公の行動により、歴史はどう変わるのか、それでも反復されるものは何か、ということが、今後徐々に見えてくるはずでしょう。

そこでカギを握るのは、やはりアルティリアの使役する人形の精霊たち、ということになりそうですが……
人形たちは可愛いですし、今回それぞれに変化や新たな動向を見せましたし、ある意味では彼等の動きが一番気になる、と言っていいかも知れません。

中でもサボテンくんが癒し。

張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました2巻
 (同書、p. 2)

無口だったのが今回結構喋ったので、イメージが変わった部分もありますが……


果たして実情はどうなのか、これからの展開はどう転ぶのか、楽しみにさせていただきましょう。



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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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