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憎しみと幸せと――『異世界拷問姫』

スマートフォン、データ使用量はいつでもチェックできるのですが、どうもアプリを使用するよりもアプリをインストールする方が明らかに使用量が多いのです。
それでいて、アプリを最新版に更新するよう定期的に要求してきたりしますし……これも業者の罠でしょうか。
そもそも、通信料が光熱費に匹敵するところからして疑問は持っています。
まあ便利ではあるのですが。雨雲の接近までいちいち教えてくれますし。

 ~~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちら、ファミ通文庫で『B.A.D.』『アリストクライシ』、『ヴィランズテイル』といった作品を刊行してきた綾里けいし氏、MF文庫Jに移っての新作となります。



ちなみに、綾里氏は一時期、新レーベル「Novel 0」(元MF文庫Jの編集長が立ち上げたレーベルで、MF文庫Jからの移籍組も多い)での執筆予定作家にも名前が入っていたのですが、結局こちらになったのでしょうか。

本作は異世界召喚もの、という体裁になっています。
主人公の瀬名櫂人(せな かいと)は父親に虐待され殺された少年。しかしなんの因果か、彼の魂は異世界の「拷問姫」エリザベート・レ・ファニュによって召喚され、新たな生を与えられて、執事(バトラー)として仕えさせられることになります。
エリザベートは無数の民を拷問にかけ虐殺した過去を持ち、現在は教会の命によって13体の悪魔を狩る身。そして、その命を遂げた後には、彼女自身も処刑される運命だというのですが……

まず第一のポイントは、当世流行りの異世界召喚(あるいは、死んでの召喚だけに転生との中間かもしれません)のフォーマットを採用しつつ、「残虐に凄惨に殺されし、罪なき魂」を呼び寄せていたエリザベートのもとに異世界の魂が紛れ込んでしまった、新たに与えられた肉体も作られたものだが魂に合わせて元の世界と同じ姿になっている(ただし、人間よりも不死身に近いので酷い目に遭っても大丈夫)など、独自のもっともらしい設定を与えていることでしょう。
大体、異世界召喚というと最初から向こうの人が「異世界人を呼ぼうとした」、転生ならば人の魂を司る神的存在の仕業か、さもなくば説明なし――といった設定の作品が多い中で、注目しても良いでしょう。

そして、異世界で新たな生を得たとあれば、どう異世界生活を謳歌するかが主題となるのが普通ですが、本作の主人公・櫂人には、元の世界での不幸な過去と父親への憎しみという問題が付きまといます。
父親への復讐を果たさせてやる、という誘惑を前にしたらどうするか――というのが一つの山場であり、まrたそこで、単純に新たな人間関係や幸せによって吹っ切るという綺麗な形にならないのが、作者らしさでもあります。

憎しみのような想いは確かに簡単には立ちがたいものですが、綾里氏の場合、復讐を果たしたからといってそれで決着して前に歩き出せるとも限らない、そのことによってますます破滅していくというのもパターンですし。その辺の情念の描き方はやはり一級品です。

そして、そんな過去の不幸と、新たな生への幸福の可能性に対応するように、櫂人を凄惨な戦いと殺戮のあるこの異世界へと呼び寄せたエリザベートはたしかに物語の軸となるヒロインですが、他方で彼に恋愛感情を向けるヒロインは別に、人形のヒナという娘がいるです。
ヒナはどこまでの献身的で、強く、ハイスペックで、しかもその櫂人への想いは恋人としての愛なのだとはっきりしています。
思えば、同作者の『B.A.D.』でも、物語の中心であり主人公と離れがたい関係にある繭墨あざかとは別に、恋愛面のヒロインとしては白雪がいましたし。その辺、「ヒロイン」を恋愛方向に傾ければいいわけではないという方針ははっきりしています(『B.A.D.』の場合、主人公の小田桐とあざかの関係が小田桐の孕む娘・雨香を挟んだ三者関係であるところが、さらに複雑なところなのですが)。

さらに本作の場合、エリザベートがなぜ殺戮を行う「拷問姫」となったか、という彼女の問題がもう一つの話の軸としてありますから、櫂人とエリザベートをW主人公と見ても良いでしょう。
また、櫂人の視点からエリザベートの個人的な過去や感情を描いて、両者の物語をセットで纏めているのも、上手いところですね。
主人公の視点で語られる物語において、主人公以外の内面を直接描くことはできない(視点を変えて書いたところで、それが主人公の直接伝わるわけではないので、「主人公にとって謎であった人物の背景を解明する」には不十分)わけで、ともすれば客観的で味気ない語りになりがちです。『B.A.D.』の場合、雨香の能力によって小田桐が他人の感情や記憶を見ることができるという設定が、ここで役立っていました。本作も、エリザベートと櫂人の繋がりが活きています。

他方で、悪魔との戦いに関してはかなり展開が速め。
戦闘描写もあっさり気味ですし。ついでに、エリザベートは拷問具を操って戦うのですが、ただ敵を殺戮するだけで、別に尋問するという意味での「拷問」ではないんですよね。
とはいえ、それでも描写は残虐で、精神的にえげつないエピソードも多いのですが、そもそも思い入れができる前にキャラが死んだりするので、一つ一つのエピソードはかなりあっさりしている感はあります。

そして、最後は最大の敵とも決着をつけてしまって終幕
14の悪魔なんて設定した以上、下級の悪魔を何人か倒して、トップは顔見せくらいで続く――というパターンの作品も多いのですが……あるいは『アリストクライシ』で、結局ラスボスとの決着が遠いままに未刊となった反動があるのかも知れません。
まあこの点に関しては、出し惜しみしない良さとも言えます。

ただ、だからといって「めでたしめでたし」では終わらないのが本作の設定。
何しろ、エリザベートは悪魔の討伐を終えれば、処刑されることになっています。そしてその時には、彼女の「所有物」である櫂人も……
しかし、そうした滅びへの道がはっきり用意されているからこそ、はてその結末を回避する道はないのか、回避出来ないとすれば彼等はどんな顔をして結末を迎えるのか、かえって気になるのも事実。

凄惨な描写の多い作品ではありますが、櫂人、エリザベート、ヒナの3人の日常シーンにはコミカルで楽しい場面もたくさんあって、彼等が一つの「幸せ」を摑めたのが確かに感じられるだけに、救われて欲しい思いもあり、行く末を見届けたくなるわけですが、はてさて、どうなるでしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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