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真実の愛は人生を変えるのか?

しりあがり寿氏の漫画に『ヒゲのOL藪内笹子』という作品がありました。
結構あちこちの媒体に掲載され、単行本もいつかの版が出ているので、全部でどれくらいのエピソードがあるのか、詳しくは確認していません。
ビームコミックスから「完全版」が出ているようですが……









本作の主人公藪内笹子(やぶうち ささこ)はOLですが、タイトル通り、真実の愛を見付けるまではヒゲを剃らないと誓って、ヒゲを生やしています。
「ヒゲを剃らない願かけ」というのは時々ありますが(スポーツ選手などがやっているのを見ることも)、女性がそれをやっているのが実にシュールです。
彼女がそんな誓いをした理由そのものは一応語られますが、そもそも彼女の「女でありながらヒゲが生える体質」については、ツッコミすらほとんどありません。

展開としては、笹子は毎回様々な男性と巡り会い、「彼となら真実の愛を見付けられそうな気がする」と思うものの、ギャグmながのフォーマットに忠実にと言うべきか、結局は破局します。(私も、読んだのは結構以前のことでもあり、個々のエピソードについてはあまり詳しい記憶はないのですが)

とは言え、本作にはギャグとしてのバカバカしさが前面に出ているとも限らない、独特の雰囲気があります。何しろ、愛を求める笹子はどこまでも真剣ですし。
実際、中にはギャグらしくひどいオチがつくわけでもなく、普通に相手の男性と上手く行きかけた話もありました。その場合も結局、相手の男性が死んだりして笹子は独り身に戻り、愛を求める旅を続けるわけですが、それはシリーズを続けるための要請であるという気もします。
そして、さて相手が死んだとしても、少なくとも相手がいて生きていた一時には、「真実の愛を見つけた」とは、言えないものでしょうか。

しかし裏を返せばこのことは、たとえいい男性と巡り逢って上手く行っても、笹子の「真実の愛」を求める流浪は終わらないことを示唆してもいます。

いい相手と幸せになったとしても、それは一時的な状態の変化であり、そして全ての状態はまた変化するものだからです。

哲学者の永井均氏は、不幸な人生の末に「この人生を二度と幸や不幸ではかりません。人生には意味があるだけです」という境地に至った『自虐の詩』(業田良家)の主人公・森田幸江と笹子を比較して、こう書いています。

 だが、笹子の〔ヒゲを生やしているという〕このふざけた態度こそが、より深い絶望を感じさせるのである。笹子は、たとえ真実の愛を見つけてヒゲを剃ったときでも、人生には意味があるなどと言いだすことはないだろう。ただ、そのときの幸福感に酔いしれることができるだけだろう。
 (永井均『マンガは哲学する』、岩波現代文庫、2009、p. 184)


そういう状態をそもそも「真実の愛を見つけた」と言うのはどうか、意見が分かれるところかも知れません。
笹子自身、どうなれば「真実の愛を見つけた」と言えるのか分からないまま、流浪を続けているのでしょう(人生とはそういうものではありますまいか)。

ただ、「真実の愛」という言葉の重々しい字面からすると、何だかこれは人生の意味を決定的に変えるようなものが想像されるわけですが、本当にそうなのか、という疑問は、確かに投げかけられます。


たとえば先日取り上げた『いもーとらいふ』の主人公も、日々「愛ってなんだろう」という疑問を口にしていました。
そんな彼にとって、自分は妹への愛と他の愛を同列に比較した挙げ句、全てに妹を優先してしまう、妹が好きでたまらないだけの気持ち悪い男なんだ――というのは、たしかに彼自身の「真実」ではあったでしょう。ただ、その真実を見出した結果として彼は幸せになったのか、どうか。
何しろ、これは幸不幸の問題ではなく、ただ「そのようにしか生きられない」という業に近いものがありますから。
下巻において彼自身にとっての「真実」に変化が追加があるかどうか、まだ定かではなく、最終解答はその結果次第でしょうが。






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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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