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それぞれの王への道――『魔弾の王と戦姫』13~15巻

気が付けば12巻を最後にしばらく放置していましたが、今回は久々に、先月15巻まで発売されたライトノベル『魔弾の王と戦姫』を取り上げてみようかと思います。
何しろ最新15巻のあとがきで、ついに「あと2巻で完結」と明言されました。最新巻の展開を見ているとそれだけで終われるのか、と想うところもありますが、しかし大詰め間近なのは感じられます。






 (12巻の記事

12巻はザクスタンと決着した後、最後のわずか3行ほどで「月光の騎士軍〔主人公ティグルたちの率いるブリューヌ・ジスタート連合軍〕は敗れ、ティグルとエレンは行方不明となった」旨が書かれるという、衝撃の引きとなっていました。
敵はガヌロンの部下、グレアスト侯爵です。
かくして13巻は、捕らわれのエレンを救出するべく単身動くティグルの活躍とグレアスト軍との対決でした。

合戦よりも単身潜入してのゲリラ戦(ただし、ティグルの特技である弓の技を見せる場面は少なめ)ということによる見所も色々あったのですが、やはりポイントは、この巻においてついにティグルとエレンが結ばれたことでしょう。
捕虜や人質としてではなく自らの欲望のためにエレンを捕らえ、嬲りものにした(話としての都合というべきか、陵辱の本番には至っていなかったようですが)グレアストの変態ぶりも、それによってエレンが傷付くという道程が、ティグルと結ばれるために必要だったのでしょう。

――とはいうものの、二人の前には依然として社会的な問題が立ちはだかります。
ティグルはブリューヌの領土アルサスの領主、エレンはジスタートの戦姫として公国ライトメリッツの公主を務める立場で、どちらも相手のところに嫁や婿に行くわけにはいかないからです。
それどころか関係を取りざたされること自体、問題になります。
エレンは「自分が愛妾でもいい」等と言っていますが、愛妾というのは男が囲うもの、公国の公主という立場のある女性をそう扱うのも、無理があるでしょう。

そんな未解決問題を抱えたまま、14巻ではティグルが、侍女のティッタにも想いを告げます。
まあ彼女の方は愛妾で決まりのような扱いで、むしろ社会的問題は少ないのですが……
どちらかを選ぼうにも「選べない」というティグルの言い分は率直ですが、誠実であり、そしておそらく、それほど妙なことでもありますまい。
というのも、「愛される側」から見れば嫉妬と独占欲があるので、愛は自分に全て注がれるものであってほしい。しかし「愛する側」から見れば、「一度に愛することができる相手は一人だけ」と限る理由は、それほど明瞭ではないのです。それはやはり愛される側の願望ではないでしょうか。

とは言えもちろん、嫉妬は現実的な問題です。幸いなことに、エレンとティッタは仲も良く、お互いを受け入れているようですが……
こういう本作の状況は、「ハーレムを実現するには何が必要か」を示唆しています。

(1) 複数の女たちを「娶る」ための男の度量と、社会的ハードルのクリア
(2) 女たちが互いに仲が良く、嫉妬による争いを引き起こすどころか、ハーレムに協力的であること

この条件は、本作に限らずハーレムエンドを実現するような作品では多くの場合満たされていることであり、そして実はきわめて現実的なものです。
(1)の社会的ハードルというのは、一夫多妻が認められている社会でも存在します。
複数の妻を娶ることができるのは、やはり相応の社会的地位や財力etc.のある男に限られるでしょうし、そのような男であればこそ、その妻となる女性には様々な条件が求められます。誰を娶るも自由、とは行かないのです。
嫉妬も問題です。ハーレム内部での女たちの争いが大きな火種になることは少なくありません。

正妻と愛妾の区別も、別に「いずれが愛されているか」ではなく、まずもって社会的な区別――より正確に言えば、子供が生まれた時に後継ぎとして誰を優先するか、という問題なのです。(これは女系相続では起こりえない問題です。女にとって生まれた子が自分の子であることは疑いのない事実で、「どの男の子供か」を問題にする必要はないのですから)
まあこれは本作中でもしばしば言われていることで、貴族の結婚は政略結婚が重視されるから、本当に愛する女性を愛妾にするといった事例もあると、再三説明されていますが。

さらに、ティグルの進むべき道の示唆として、かつて三つの国に仕え、それぞれで爵位を賜った「北海男爵」なる人物の逸話が作中世界にあることが14巻で語られ、15巻ではティグル自身もそれを聞きます。
つまり、ブリューヌ貴族であると同時にジスタート貴族にもなれば、ジスタート貴族が戦姫と結ばれることに問題はない――という。
これが西洋中世封建社会の特徴で、「二君に仕える」のは不可能なことでも悪いことでもないのです。
……まあ問題は、一介の「貴族」で話が収まるのか、目指すべきものはその先にあるのか、でしょうけれど。

実際、15巻でティグルはレギン王女から告白を受けます。
ブリューヌの王になってほしい、という要請と、一人の女性としての告白と、二段階で。
最初はそんなことは頭になかったティグルですが、次第に自分が王になったら何をしたいか、何ができるか、考え始めます。
まあそこでもまずは自領アルサスのこと、それに狩りのことが出てくるのが彼らしさで、まだいささかスケールが小さい感はありますが……彼が最終的に何を見出すのかは楽しみにしておきましょう。

今更のような話ではありますが、作者の川口士氏は筋金入りのハーレム作家です。
それも、「途中過程として主人公が複数の女性にモテる」だけではない、到達点としてのハーレムエンドを目指し、そのために上述のような社会的課題を描く作家です。
しかし、それは言うまでもなく、長い道のりです。
俗に「チート」と呼ばれる、反則的に強い能力を持つ主人公が活躍するタイプの話もありますが、社会的課題を「チート」でクリアするわけにもいきません(したとして、それで面白くなった先例を聞きません)。
男の度量を見せようと思ったら、成長プロセスも不可欠でしょう。
ですが、それだけの長い道のりを踏破するのは、それだけの間、読者と編集部に認められ付き合ってもらわねばできないことです。

実際、氏の作品でそれだけの長い道のりを経て円満完結に至った作品は、一迅社文庫の『千の魔剣と盾の乙女』(全15巻)だけです。
まあ、もっと短い巻数で終わった作品の事情も必ずしも一様ではありますまいが、たとえば『銀煌の騎士勲章』のような作品を見ても、ハーレム形成に向けてまだまだ長い道を行く構えはできていたように思えるのです。
ですから、(いささか気の早いことではありますが)『千の魔剣~』に続いて2作目で、それを上回る巻数で完結する大長編となることが見えてきた本作は、やはり祝福に値するものでしょう。


さて本作のストーリーに戻ると、大陸情勢も激動。13巻でグレアスト侯爵軍と戦っている時には同時に、「赤髭」クレイシュの率いるムオジネル軍15万が南からブリューヌへ進軍を始めていました。
14巻は全編、圧倒的多数を誇るムオジネル軍との合戦になりました。
今までは毎回どこかで魔物や竜との戦いがあり、戦姫の竜技、それに竜具とティグルの弓との合体技も使われる……というのがフォーマットでしたが、この巻ではもはやそれがありません。
今まで「恒例の魅せ場」として必ず入れていたものを外すのは、「それがなくてもこの作品は読ませられる」という信頼がここまでの巻で形成されていればこそ、でしょう。

かつてない大軍の侵攻を前にして、ブリューヌ軍は(ジスタート軍を合わせて)国中からかき集めて計6万。その他に装備や練度の低い民兵が4万という、数的には圧倒的劣勢です。
王都ニースは過酷な籠城戦を強いられます。籠城で兵たちが消耗していく描写はまことに厳しく、集団の合戦の中では今までと比べてもとりわけ厳しい戦いであることが伝わります。

もちろん、ただ王都に籠もって守りに入るのではなく、ティグルとしても逆転の策を練っているのですが、相手のクレイシュも名将と名高い人物。こちらの策が見破られていることも早い内に示唆され、いっそうの緊張感を煽ります。
最後はもう裏の掻きあいではなく、ティグルが矢の射程内に接近できるか、大軍を巧みに組織して距離を取るクレイシュが上回るかのせめぎ合いとなり、ティグルの弓のさらなる絶技が炸裂します。

それでもクレイシュを討つには至らず、もう一度攻められれば絶体絶命というところでの、向こうの国の事情による撤退。
魔物ではなく敵将ではここまでのところ唯一ティグルと再戦した相手にして、最後までティグルが完全に「勝利する」には至らなかった相手、という強烈な印象を残していきました。
とは言え、向こうの国の事情が事情だけに、どうやらこれで退場してくれそうではありますが……

そしてブリューヌに平和が戻った15巻では、ティグルが特使として、ふたたびジスタート王のもとに赴くことになります。
第3部では周辺国相手にブリューヌの厳しい戦争を続きましたが、アスヴァール、ザクスタン、ムオジネルといった周辺国についてはそれぞれ「当分ブリューヌに侵攻することはない」という状況に持ち込んだ上で、ようやく物語はジスタートに帰ってきた格好です(なおアスヴァール編は第2部でしたが、その時のティグルとタラードの縁が生きて、アスヴァールはザクスタンとの戦いに専念することになった形です)。

ところが、ジスタートでは心を病んで8年間も幽閉されていたルスラン王子の帰還により、新たな政変が始まろうとしていました。
エレンからの評価は低いものの、その治世の業績を見れば名君と言っていい現王ヴィクトールでしたが、最後に後継者問題で火種を残した格好です。
ルスラン王子を連れ帰ったのは、自ら女王になるという野望を抱く戦姫ヴァレンティナ
「黒幕」の彼女と対決ムードに入る一方、新たな戦姫フィグネリアも、エレンとの因縁により戦いは避けられない気配。
フィグネリアも元傭兵で、エレンの育ての親である傭兵ヴィッサリオンを斬った張本人でした。
とは言え、彼女たちの間には、たんに傭兵としての仕事で敵として相見えただけ――では済まない雰囲気があります。
やはり、――本人たちがお互いにその点を了解しているのではなさそうですが――両者ともヴィッサリオンの「自分の国を持つ」という大きな夢を受け継いでいる、という近しさが問題になりそうです。

傭兵ながら「国を持つ」という大きな夢を持っていたヴィッサリオンに育てられたエレンと、敵として狩りを斬りながら、密かにその夢を受け継いだフィグネリア。ヴァレンティナも独自に「王になる」野望に向けて動き、そしてティグルも王への道を考え始める――戦姫たちが王都に集い、互いに戦うことになりそうなこの展開は、それぞれの「王への道」の交差でもあります。

それから、今後の展開でただちに活躍があるかどうかはともかく、将来的に一つの鍵となりそうなのが、クレイシュの側近であったムオジネル人のダーマードです。
彼は第2部では密偵としてジスタートに潜入していた時にティグルと出会っており、そして14巻の戦いでは敗れて捕虜になりました。かつてのティグルのような立場となったわけですが(今度はティグルが捕虜を取る側)。
改めて本作の主人公ティグルの周りを見ると、ブリューヌの王女レギン、ジスタートの戦姫たちという両国の要人たちが彼に想いを寄せるヒロインとしていて、そんな立場にどう落としどころを見出すかが課題として突き付けられているわけです。
他方、本作はやはりまずもってブリューヌとジスタートの間に関わる物語で、その他の周辺国にまで同様のヒロインは、さすがにいません。
ただ、将来の国同士の関係と、そこにおけるティグルの存在の大きさを示唆するように、ティグルはアスヴァールの実質的なトップであるタラードとも知己を得ています。するとムオジネルに関しても、王弟クレイシュの側近として目をかけられていたダーマードが重要人物になってくるのではないかと。功績次第で彼が解放され、ムオジネルでの栄達ルートに復帰する可能性は残されているわけですから。
ついでに、彼がムオジネルで人気のある話として、「うっかり者」と言われながら臣下に恵まれ良き治世を築いた王の逸話を放しているのも、様々な「王」像を示しています。


――と、政治情勢とハーレムに絡む話をもっぱらしてきましたが、本作にはもう一つ、戦姫たちの竜具とティグルの黒弓、それに魔物たちに関わるファンタジー要素もあります。
黒弓に夜と闇と死を司る女神ティル=ナ=ファが関わっているのは前々から示されていましたが、14巻ではついに魔物たちの目的が「ティル=ナ=ファを降臨させる」ことだと明らかに。それが文字通り「世界を変える」ことであるのも、女神自身の口から語られました。15巻ではこの件について、ティグルと戦姫たちが文献調査に結構時間を割いているのも、地に足が着いた感じが出ていて良かったですね。

15巻では1巻から登場していた魔物のドレカヴァクがついに戦うところを見せ、それにより魔物たちも一気に退場していきました。死んでも蘇る能力を持ち、三度もティグルたちと戦ったヴォジャノーイもついに……
これ以上魔物の新キャラが現れなければ、残るは他の魔物たちとはいささか目的を異にしているらしいガヌロンだけです(もっとも、ドレカヴァクたちもまだ含みありげな退場ではありましたが)。

本作における人間の歴史と神話の関係は、未だに必ずしも明瞭ではありません。
過去にもこうして「世界を変える」ことを巡る闘争、あるいは実際に世界が変わったことがあったという示唆を考えると、神話から歴史へ、あるいはその逆、という一方通行の移行ではなさそうです。
とは言え、最後はやはり、ファンタジー要素に関わる話で締めるのでしょか。
後2巻、神話と政治とハーレムと、全てを綺麗に収束させてくれることを期待しています。

 ―――

『魔弾の王と戦姫』はコミカライズも10巻が今月発売予定。そろそろ原作第1部の大詰めです。
漫画版はこれで「完結」扱いのようで、極めて良質なコミカライズだけに残念なところですが……いつか連載再開で第2部も、とはいかないものでしょうか。



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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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