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ゲームではなく、各自が自分で考えて生きている現実で――『お前みたいなヒロインがいてたまるか! 3』

またまたお久しぶりですが……
今回取り上げる小説はこちら、アリアンローズの『お前みたいなヒロインがいてたまるか!』3巻です。



 (前巻の記事

さて、本作のWEB版の方は、最近完結したようです(最終回となる148話が2016年10月22日更新。ただし第84~90話と第92話は1話が複数に分かれており、さらに第94.5話があるので、合計160話。また後日譚となる番外編は12月現在も連載中)。
単行本版は2巻が第46話までの収録だったので、この調子だとまだまだ長いかと思いきや、今回3巻はなんと一気に第96話までを収録。
内容的には、ちょうど中等部編3年間を丸々収録した形になります。むしろ内容的にもそれがキリがいいから、ということでこうなったのしょうか。
もちろん、WEB連載1回の字数は特に決まっていないので、話数と字数は必ずしも比例しないのですが、やはりかなりの改稿と圧縮があった模様。この調子だと残り50話ほど――高等部編――が4巻で完結でしょうか。

3巻目にして今更説明する必要もないかと思いますが、本作は今や「小説家になろう」の女性向け作品では定番となった「乙女ゲームの悪役令嬢に転生した」主人公の話であり、しかも作品世界はファンタジーではなく、やはり現代日本の世界です。歴史とか基の世界とどれくらい一致しているのか、細かいことを考え出すと色々気にはなりますが……
とにかく、もはや「悪役令嬢転生もの」としてジャンル名すら確立されている世界ですが、その中で何に注目するかは様々(もちろん、こういうヴァリエーションの付け方がある意味で限られた世界での差別化であることは事実ですが)。
本作の場合、やはりポイントはゲームと現実の違い、でしょう。

ゲームの登場人物は(モノによっては膨大な数の登場人物が設定されていることもありますが)数に限りがありますし、いつどこでどんなイベントが起こるかも決まっています。それに対して、本作の舞台は登場人物や設定がいかにゲームに近かろうと現実の世界であり、プレイヤーとNPCの区別もなく、そこにいる人間たちは皆自分で考えて生きています。

何しろ、本作の主人公・椿がゲームだと死ぬはずだった母親を救うと、その母親が再婚してしまいます。
再婚相手の朝比奈薫やその一族など、ゲームには登場しません。
さらに再婚で従姉妹となった八雲杏奈(義父となった朝比奈薫の妹の娘)は椿と同じ転生者であり、はとこでドイツ人のレオン・グロスクロイツ(薫の母がドイツ人で、その一族)は小学生時代に椿に惚れて、さかんにアプローチを繰り返してきます。
ここは現実の世界、相手の男はゲームでの攻略キャラに限ることはないのだ、と言わんばかりに。

ちなみに、今回3巻では新たにゲームでの攻略キャラも2人登場、ある程度の役割は果たしますが、どちらかというと影は薄め。
ゲームの攻略キャラだからといって重要な役割だとは限らない、製作者によってあらかじめ役割を与えられているゲームとは違うのです。

そんな「生きた人間たち」の中であえて悪役を演じたりすることで上手く人間関係を操作して、自分の地位を築いていくのが主人公たる椿の戦いとなります。
その点、彼女は前世がアラサーのOLだけに経験値が段違い、ある種のチートです。

対して、ゲームでのヒロインでありやはり転生者の立花美緒は、その辺が分かっていません。
すでにゲームとは違っている点があることも、必ずゲーム通りにイベントが起きるわけでないことも理解しておらず、しかも自分にはヒロイン補正があると信じています。

そんな美緒が中等部から入学、どんなにすげなく扱われても恭介が自分に惚れるものと信じてアタックを繰り返してきます。
女性に対して強く出られない恭介の性格も災いすることに。

――とはいえ、裏を返せば美緒は幼稚な人物なので、「厄介なライバル」にはなり得ません。
そもそも、彼女にヒロイン補正があって恭介が一目惚れしたりするわけでもないと判明した時点で、――そして美緒のような強引なタイプは恭介の好みでもないので――恭介と美緒が結ばれて、避けたい事態(椿の母親に対抗心を持っている美緒の母親が水嶋家に権力を持ち、椿と母親が嫌がらせを受ける)に陥る可能性は、ほぼなくなっているわけです。

だから本作は「強敵と戦って窮状をどう乗り切るか」という流れにはなりません。
どちらかというと前巻(2巻)で、美緒の母親に対し椿が(子供の天然発言と見せかけて)痛烈な言葉を浴びせた場面の方が、「嫌な奴をやっつける」痛快さはあったかも知れません。

ただ、親の権力を笠に着て取り巻きを作っている美緒はしばしば他の女生徒に嫌がらせや脅しを働きます。
親の権力で勝っている椿自身は問題ないのですが、無関係の女生徒や椿の友人が被害を受ければ、さすがに放ってもおけず。今後のことまで計算に入れて、どう解決を図っていくか……それが今回椿の直面する主な問題になります。

加えて、ゲームと違って現実には「こうすればクリア」という決まりもありません。とりわけ、諦めない相手を諦めさせるくらい難しいことはありません。
その辺の先の見えなさが苦しいところではあります。

そんな中で良かったのは、恭介が意思表示を見せたことでしょうか。
前巻から、(家柄と容姿と…その他すべて揃っているために)女子たちにはよく付きまとわれて、強く出ることができないのであしらいきれず、困ったら従姉妹である椿のところに逃げてきている節のあった恭介。
こんなに頼りなくて大丈夫か、と思いましたが、それがようやく意思表示を…というのはそれなりの感慨があります。

さらに、終盤で椿が嫌がらせで実害を受けて、友人たち皆が集まって怒り、行動を起こす場面も胸が熱くなるものがあります。
人を見下す悪役を演じている椿と、他人に警戒心が強い恭介。どちらも友人は多くなく、しばしば「お前は友達少ないだろう」と喧嘩しては両者ともにダメージを受けている始末ですが、数よりも質で確かな友情を築いていたんだな、と実感させてくれます。

それから、上述のレオンとの関係。
レオンのアプローチは積極的で、さらには椿が恭介に「売られた」格好で無理矢理レオンと会うようセッティングされたりしていたのですが……椿としてもレオンは嫌いではないものの、恭介と美緒に関する問題を解決するまでは自分の恋愛をする気はなく、どう扱おうか困っていた状態。
そんな中、恭介と椿が表向き婚約者となっていることを知られて、一時関係が悪化……といった展開を経て、椿とレオンの関係も少しは進展した感あり、というべきでしょうか。
レオンはその諦めの悪さも含めてなかなかいいキャラをしている男の子なので、頑張ってもらいましょう。

結局、恭介が両想いとなって結ばれる相手が見つかれば一つの「落としどころ」になり、椿も自分の恋愛でも何でもできるはずです。
その「相手」の布石は少しだけ見えてきていますが……はてさて、次巻の高等部編ではどうなることやら。
そして、美緒との戦いはまだ続くのでしょうか。

ちょっと引っ掛かったのは、朝比奈家の使用人にして養護教諭で、学内における椿たちの警護の命を受けている護谷晃(もりや あきら)の存在ですね。
彼は、実は朝比奈の血を引く「お嬢様」たる杏奈にしか忠誠心はなく、連れ子である椿のことは警護対象とも思っていないという癖のある人物だったのですが、今回は終盤まであまり活躍はなく……少なくとも、なんだかんだで椿にとってマイナスになるような動きをしたりはしませんでした、今までのところ。
わざわざ番外編で朝比奈家使用人の不破佳澄が護谷晃に苦言を呈する話まで書かれただけに、これが今後も何か話に関わってくるのか、気になるところです。

上述の通り、次巻辺りで完結しそうな気もしますが、楽しみに待ちましょう。
皆いいキャラ揃いで、会話も楽しく、個人的には割と気に入りです。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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