オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
性的言語文化論
かの研究所で扱っている重要な実験動物の1つにホヤがあって、我々も解剖したりしました。
食用にもなるマボヤです。色は赤褐色。水から取り出すとぴゅーっと水を吹くので結構面白い。

これを見た女子学生から「かわいー」の声が。
いえ、その言葉を口にしていたのは1人だったと思いますが、「もっとキモイかと思ってたけど、これならOK」というのは割と同意されていたようですね。
さて――実はここからが本題ですが――後になって思うのは、今の女の子は実に色んなものに「かわいい」という形容詞を使うんだなあ、ということです。
また先日触れた漫画『放浪息子』から引いてみると、こんな場面もありました。

(7巻、p.80)
男の子の方は「か…わいくはないな」と思いす。で、同じマンドリルのストラップを貰って「あっ、イヤそうな顔した」「こんなんもらってもみたいな顔したじゃん」というやり取りがあったりする訳ですが、こういう場合、もっと(男の子基準で)「かわいい」ものを貰ったらもっと良いかというと、そうではないんですね。

(同、p.85)
志村氏の漫画にはこういう機微が絶妙に描かれています。
しかしここで、『放浪息子』の主人公・ニ鳥修一は「女の子になりたい男の子」であることに注目を。女の子が服を買う時にも傍らで見つつ、内心そういう「自分が着たい」と思っているんですね。
しかし、修一が女物の服やアクセサリを「かわいいなあ」と言う一方で、女の子の方は服を選ぶ時「全色並んでると全部よく見えてくるなー」と言った言い方をしますが、服に「かわいい」という形容詞は使わないんですね。この描写は偶然ではないと思います。言語文化の違いが巧みに描写されているのではないかと。
(別に現実の女の子がそういう風に「かわいい」という言葉を使う、という話では必ずしもありませんが。他の子が着ている服に「かわいい」と言うのはよく耳にしますが、着ていない服を選ぶ場面に私が居合わせることはまずありませんし…)
こういう話を単独でしてもあまり生産性はないのでして、これは言葉の使い方である以上、現代日本に限られた話に留まりますし、一単語のニュアンスを細かく使い分けても「言葉の豊かさ」という点ではどちらかと言うと瑣末なことですから。
ただ、こういう風に男女で言葉の用法が違っていて、それを論じる際にはほとんど無意識の内に「男性による用法」のみを対象にしているようなケースは、ままあるように思われるのです。「論者は男性であり、女性用法については語りようがない」と言うのであれば、それでも構わないのですが、そういう前提があることを頭の片隅に留めておいてもバチは当たらないのではないかと。
(芸術学3年T.Y.)
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