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恐るべき敵の登場

いきなりですが、

いくら英語ができても、英語文献を読む上でぶつかる壁となり得るのは何でしょう?

色んな解答があり得るかも知れませんが、ここで言いたいのは「英語以外の言語からの引用」です。
これは英語以外の、例えばフランス語やドイツ語を相手にしていても同じですが、西欧語で書かれたものの場合、日本人が古典漢文を引用するのと同程度の感覚(たぶん)で、訳文なしで他の西欧語の文言を引用していることがあります。
(※ もちろん訳文があることもあります。筆者のスタイルや想定する読者層にもよるでしょう)

例えば…全然自分の専門と関係ないもので何ですが、ダーウィンの『種の起源』(The Origin of Species)の最初の章はそれまでの進化説についての概説です。ここでラマルクやジョフロワ・サン=ティレールといったフランスの学者の名前とともに、フランス語の原文が1~3行単位で引用されます。英訳なしで。

さらに対象とする分野によっては、ラテン語やギリシア語が登場します。西洋美術史でも18世紀以前の古典を扱うのであればどこかで出会うものと思っておいた方が良いでしょう。
美術史家の名前で言うとパノフスキー辺りが代表的で、訳文なしでラテン語・ギリシア語・イタリア語等が大量に引用されます。彼の代表的な著作である『イコノロジー研究』の翻訳には大家5人が名を連ねていて、その中には西洋古典学の専門家・塚田孝雄氏(※)がいる辺りから察してください。
※ 米原万里氏によると「古代ギリシャ語、ラテン語は言うに及ばず、英独仏伊などヨーロッパの主要言語を母語のように自在に読み解くだけでなく、漢文と各時代の古い日本語に通じておられる」(『パンツの面目ふんどしの沽券』、ちくま文庫、2008、p.292)とのこと。
イコノロジー研究〈上〉 (ちくま学芸文庫)イコノロジー研究〈上〉 (ちくま学芸文庫)
(2002/11)
エルヴィン パノフスキー

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まあ日本語に訳す場合、全てに日本語訳がついていなくてはどうにもならない訳でして、質の高い翻訳が出ていれば幸いです。

しかし、翻訳がない場合、さらなる難敵が存在することに気付きました。中国語です。
私が中国語は知らないから、と言ってしまえばそれまでなのですが、問題はそれだけではない気がします。西欧語の文中に出てくる中国語は基本的にアルファベット表記です。日本人にとって漢字なしの中国語がいかに辛いか、一度見れば分かります(具体例は続きに書いたので、読みたい人だけどうぞ)。

逆に言うと、中国や日本のことについて横文字で書かれた本で、巻末の人名リストに漢字表記が載っていたりすると、かなり内容的にも期待できそうな気がしてきますね。
                           (芸術学3年T.Y.) (例)

The protagonists are the sixth Tang emperor, Xuanzong(685-762; r.712-56), also known as Minghuang, and his beautiful favourite, the femme fatale Yang Guifei(719-56) or ‘Precious Consourt' Yang.
 (CHINESE ROMANCE FROM A JAPANISE BRUSH Kano Sansetsu's Chogonka Scrolls in the Chester Beatty Library, The Chester Beatty Library, Dublin, 2009, p.8)


引用文中にはありませんが、書名にあるChogonkaが『長恨歌』であることに気付けば(この引用文の前に『』)、内容から
Xuanzong = 玄宗
Yang Guifei = 楊貴妃

だと推察が付きます(ついでに少し下にはAn Lushan = 安禄山の名もありました)。年代まで書いてあるので確認は比較的容易です。

主人公は唐の第6代皇帝・玄宗(685~762、在位712~56)――またの名を明皇――と、彼の寵姫にして「宿命の女(ファム・ファタル)」たる楊貴妃(719~56)である。 (拙訳)


※ 書名は『ある日本の画家が描いた中国小説 チェスター・ビーティー図書館蔵・狩野山雪《長恨歌画巻》』といったところですね。

しかし別のページ(p.20)に楊貴妃と並ぶ「古代中国の四大美人」として出てくるXi Shi, Diao Chan, Wang Zhaojun 辺りはもっと難しくなります。調べてみたところ、
Xi Shi = 西施
Diao Chan = 貂蟬
Wang Zhaojun = 王昭君

のようです(ただし、「中国四大美人」の顔ぶれは何通りかあるようで、この組み合わせでは簡単には見付からないかも知れません)。

とは言え、固有名詞は日本語で解説が存在している可能性が高いので、調べればかなりの確率で分かります。が、顔料の名前なんかが中国語で書いてあると事態はきわめて困難になります。

(例)

xin tai bei: 不透明なチタニウムもしくはジンクホワイト。
 (Max Doerner, Malmaterial und seine Verwendung im Bilde, p.276)


チタニウムホワイトとジンクホワイトは別の顔料ですが、中国では一括して扱われていたのでしょうか?
いずれにせよ、ここで中国名が漢字で書かれていれば、たとえ初めて見る名称であろうと、「中国ではチタニウム/ジンクホワイトをそう呼ぶのね」と思えますが、これだと見事なほどに分かった気がしません

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Author:T.Y.
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