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インティマシーとインテリジビリティ

リアリティとインティマシーの続きです)

「セカイ系」の定義については「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」というのが流布し、また代表的な作品は新海誠のアニメ『ほしのこえ』、高橋しんのマンガ『最終兵器彼女』、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』等と言われるのですが、実際にはこの3作品にしてから既に、上記の「セカイ系」の定義の全ては当てはまらない、ということを前島氏は指摘します。
例えば『ほしのこえ』では遠くで宇宙人と戦っているだけで「世界の危機」には程遠く、『イリヤ』では「中間項」たる社会や大人達がしっかり描かれている、というように。

にもかかわらず、この3作がセカイ系の代表作であるとする議論は、比較的広範囲に受け入れられている。そしてまたこれらの作品が何かを排除しているという認識でも共通しているようだ。では、この3作品は、本当は何を排除していたのか?
すでに、ご理解いただいているかも知れないが、それは社会や中間項ではない。これらの作品で排除されたのは「世界設定」なのである。
 (『セカイ系とは何か』、p.101)


『最終兵器彼女』で、戦争や最終兵器に関する説明がなかったという前回の話を思い起こせば十分でしょう。

ここで前島氏の議論は大塚英志氏の「物語消費論」に入ります。
ここで言う「物語」とは、大塚氏が「大きな物語」と呼んだもので、つまりは「世界設定」のことです。
大塚氏が最初に挙げていた例は「ビックリマンチョコ」だったと思いますが、これはチョコレートのおまけとして772種類のキャラクターシールがついてくるものですね。それぞれのカードの裏に書いてある、そのキャラに関する断片的な情報を集めると、「ビックリマン」世界の壮大な物語が見えて来る、という仕掛けでした。(後に『ビックリマン』はアニメ化もされましたが、元々は本当にチョコのおまけのシールだけでした)
大塚氏によれば、この作中では直接描かれない(描けない)「世界設定=大きな物語」を売る、という構図は「ビックリマン」に限らず言えることで、例えば『機動戦士ガンダム』の場合、アムロなりシャアなりを主人公にしてアニメの中で描かれている物語(この通常の意味での「物語」は「小さな物語」とされます)ではなく、「主人公たちの生きている時代、場所、国家間の関係、歴史、生活風俗、登場人物それぞれの個人史、彼らの人間関係の秩序、あるいはロボットにしても、そのデザインなり機能なりをこの時代の科学力にてらしあわせた場合の整合性」といった世界設定こそ、オタク達の消費するものだ、という訳です。
(まあ、小さな物語“ではなく”、という辺りは行き過ぎ感のある論ですが)

さて、ここからまた私の論議です。
「世界設定にリアリティがある」という場合、それは前回の「親しさ」とは別のリアリティです。
こちらを指すのに「リアリティ」という言葉を残しておいても良いのですが、あえて用語の一新を計るならば「知解可能性」(intelligibility)ではないでしょうか。つまり、知性をもって理屈で考えて理解できるか、ということです(じゃあ理解可能性と言った方がまだ分かりやすいのでは、と思われるかも知れませんが、「理解」という言葉がすでに広い意味を含み得るのと、後はまあ、馴染みのない言葉で注意を換気しようという魂胆です)。
親しさは感性に、知解可能性は知性に訴えるものですから、これらが別方向を向いているのは当然です。知解可能性を欠いていても親しさに訴える例は上の「セカイ系」と言われる作品群で見ましたし、逆に高度な知解可能性を備えている、つまり整合性のある設定が作り込まれていても親しさがない、つまり、およそ共感できない作品も容易に想像できます。

大塚氏の言う「物語消費」とはつまり、知解可能性に訴えることに特化した作品を消費することであり、これが「80年代から90年代前半において全盛を誇っていた」(『セカイ系とは何か』、p.105)とするならば、「セカイ系」の出現とは「親しさに訴える方向へのシフト」であり、その転機はまさに『新世紀エヴァンゲリオン』前半と後半の境目と、ひとまず言っても良いのではないでしょうか。
(多分、続きます)
                           (芸術学3年T.Y.)

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親しさに訴えるギミック

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