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「萌え」考 3 ~『萌え経済学』~

「萌え」考 2の続きです)

今回は経済アナリスト森永卓郎氏の『萌え経済学』を取り上げてみたいと思います。
この本は(いかにもな「萌え絵」の表紙から受ける印象と違い)高度経済成長期のような大量生産とは根本的に異なる産業の形態として「萌えビジネス」を取り上げた真面目な本です。
その「経済学」論議の方はひとまず、今回は置いておいて、森永氏の考える「萌え」のの意味を見てみます。
森永氏は本田透氏の『電波男』の論議に依拠しつつ、恋愛弱者となった男たちが「アニメなどのキャラクターに恋をすること」として萌えを定義します。

……崖っぷちに追い詰められたイケメンでない男たちが気付いた究極の選択肢が、キャラクターに恋をすること。すなわち、萌えなのだ。
しかし、それはキャラクターで性的欲求を紛らわすという安易なレベルではない。血の滲むような努力が水泡に帰した後の選択だ。彼らは心からキャラクターを愛するように「解脱」をするのである。
私は、この解脱が理解できるかどうかが、萌えが分かるかどうかの決定的なポイントだと思っている。
 (森永卓郎『萌え経済学』、講談社、2005、p.55)


ただし、この「恋愛」は性的行為を目的とせず、女性の嫌がることもしません。

前にも述べたが、メイド喫茶のご主人様は、メイドさんに触ったり、スカートのなかを覗いたりしてはならない。じっと、しつこく眺め続けることさえ許されないのだ。もし、そんなことをしたら、メイドさんがメイドとして振る舞うこを中止してしまう。逆に言えば、メイド喫茶ではご主人様が性的行動には走らないという暗黙の了解があるからこそ、メイドさんは挑発的な服装を安心して身にまとうことができるのだ。
……
実は、この自己規制こそが「萌え」の最大の特徴なのだ。おとなしくて、社会に従順で、トラブルを好まない彼らは、性的欲求を一定レベル以下に抑制することによって、身の丈にあった恋愛を仮想世界のなかで楽しんでいる。
 (同書、pp.80-81)


この辺は「相手との双方向的な関係を求めない」という私の論ともある程度の一致が確認できると思われます。

ちなみに、森永氏によれば、「メイド喫茶、コスプレイベント、恋愛シミュレーションゲームなどの萌え市場」は「所詮は二次元だったキャラクターの欠点を補い、三次元化するためのあらゆる努力が凝縮され」たものとされます(同書、p.58)。
「萌えの対象は二次元」と限定されている訳ではないものの、「裏切らない」し「自分の好きなようにカスタマイズすることもできる」(同書、p.57)二次元のキャラクターを対象とした恋愛がベースということです。
また、女性において「萌え」に対応するものとして「韓流」ブームが挙げられています(同書、pp.95-97)。

ただ、どうもややこしいのは、「萌え産業」の話になると、例えば「食玩、トレーディングカード」といったものまで含めて扱っているということですね。これらは萌えというより「マニア向け産業」とでも言った方が良さそうなもので、特に後半はこちらの話が増えてきます。
森永氏は経済的な動きとしてこれらをひっくるめることができると考えているようで、消費者層の重なりやメディアの融合化を理由としています。ただ、経済の話として一括で語るのは良いとして、明らかに恋愛対象ではなさそうなものも含まれてしまうと、上の「萌えの定義」とは齟齬をきたすように思われますが。

なお、森永氏自身はそうして「解脱」して“萌える人”になることを「正直言って、私はできない」(p.202)と言っており、すると「萌えが分かってないのに何を言ってるんだ」と言い出す人もいますが、私はその点については何も言いません。あらゆる分野の消費者の気持ちを我がことして体験していなくても経済批評はできるというのはむしろ当然であって、自分で絵を描かなくても美術批評ができるのと同じでしょう。自分で萌えていても、上で指摘した程度のおかしなことは普通に言いますしね。

萌え経済学萌え経済学
(2005/10/30)
森永 卓郎

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                           (芸術学3年T.Y.)

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