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青春の“身も蓋もなさ”

色んな形で見たもの・読んだものの感想も書いてきましたが、次第に未見の方にも紹介するような形が中心になってきた気はします。やはり、(よほどメジャーなネタ以外)「特定の予備知識がある人」以外を排除するようなことなく、オープンに行きたいですし。特定作品を知っていることを前提にした話なら、ファンの集う場の方がしかるべき読者がいてふさわしいだろう、という思いもあります。

が、ある作品を鑑賞した時のいわく言い難い感慨を、何とか言葉にしてみたいと強く思うこともあります。

という訳で、題材は相変わらず『敷居の住人』、本編のネタバレあり(設定とストーリーは説明しますが)。文体も変えます。

いきなり個人的な想い入れになるが、『敷居の住人』の中でも、近藤ゆかの存在は、とりわけ甘酸っぱい想いを抱かせる。
近藤ゆか1
 (『敷居の住人』、4巻p.76/新装版3巻p.172)

ツインテールで、キツめの性格の女の子。主人公の千暁より1年下で、別の学校(聖カタリナ女学院)に通っている。
(通りすがりに撮られた写真が)雑誌に載ったりして女子の人気者になってしまった千暁と、たまたま知り合いになっていたことが原因で、「千暁とつきあっている」という噂が立ち、手ひどい嫌がらせ(イジメ)を受けることになる彼女。
もちろん泣き寝入りするような性格ではないが、学校のシスターも「みだりに隣人を疑ってはなりませんよ」と、犯人検挙にまでは乗り出してくれない(ゆかには犯人が誰か、よく分かっているのだが)

千暁と会って、ファーストキスまでしてしまうのは、嫌がらせをするヤツらを「挑発してやりたい」という思いからだったのは確か。

しかも「……してもいいけど、急にやめるとか言うなよ」と言ってしまう千暁。思いっきり「言われたことあるんだ」とバレてしまっている。
これはダサい
しかし、最近寸止めを喰らったばかりならば、言わずにはいられなかったことだろう。
近藤ゆか3
 (同書、4巻p.96/新装版3巻p.193)

すでにここで、思春期の「ヤリたい」思いに火を付けられる千暁と、その赤くなりっぷりに「実は私が好きだったとか?」と、どこか冷静に自惚れたことを考えているゆかとの温度差が、何か生々しく、そして可笑しい。
嫌がらせ対策に忙しいゆかに対し、千暁は悶々とした気持ちにかられている。

 電気が走る

 お前が俺のスイッチを押したんだ

 欲求不満で死にそう

  (同書、p.103-104/新装版3巻p.199-200)

しかし結局、ゆかも「お試し期間」として、付き合うことを決める。
とは言え、「ひとりで戦い続けるのって、すんごいエネルギー要るのよね」と言った理由を付けてはいても、これこそヤケでなかったと言えようか。

そして――
近藤ゆか2
 (同書、4巻p.140/新装版3巻p.236)

ゆかにとってショッキングだったのは、小学生並の嫌がらせしかできない「バカ」だと思っていた相手が、自分の本音を見透かしているように思えたこと。
「あてつけでつきあっている」
「好きでもないくせに」


 そりゃ ま 確かに あたしは自分の気持ちがまだよくわかってないよ? それのどこがいけないの
 どうしたらこの気持ちがホンモノだとかニセモノだとかわかるの
 みんなはそんな確かなものを持ってるっていうの
 たたかいても投げつけても絶対壊れないような頑丈なものをさ


そう思うゆかの理屈は正しい。しかし、どこか自己弁護めいてもいる。
その直後から、ゆかは「お試し期間中はしない」という前提をひるがえし、「セックスしようか」と持ちかけるようになる。そこには性への興味もあっただろう。だが同時に、間違いなく、行けるところまで事態を進めて確認してみたいという気持ち、さらに言うなら、「既成事実」を作って、自分の気持ちが「バカどもに見透かされた通りのものではない」と証明したい気持ちがあった。
そして、意識的に既成事実を作ろうとするその思いが、感情の――身体の裏切りに遭う。
誘っておいて、ゆかは直前で千暁を拒絶する

 おまえってさ
 俺を好きになったこと ある?


「気持ち悪い」とまで言われて拒絶された千暁の悲痛な気持ち……
(ここで、人生にYESで引用したシーンが)

何もかも破局したと思われたが、近藤ゆかは再登場する。髪を切って。
近藤ゆか4
 (同書、5巻p.75(ただしモノクロ)/新装版4巻p.123)

「グーで殴るのが得意なんです」といったモノローグやセリフで断片的に示されるだけだが、嫌がらせをしていたヤツらを殴ったことははっきりしている。
そう、「断固戦う」ために、当てつけで千暁とつきあったりするべきだったのか。そんなやり方の結果があの醜態ではないのか、ということに対する、彼女なりのケジメの付け方なのだろう。以降、ゆかに対する嫌がらせは(なくなったとも明言されてはいないが)描かれる様子はない。真っ向反撃してくる相手にこれ以上やるのはまずいと思われたのかも知れない。

その上でゆかは千暁のところに再び訪れる。ここに来て夜の観覧車デートをして、(千暁もあの後、謝ろうとしてきたゆかを蹴り飛ばしているので)お互い気まずそうに謝り、ラブホテルへと移行する。

今度は、失敗しない。

嫌がらせとの戦いは自分のところで片付け、当てつけなどという要素を取り除いたとき、ゆかに残っていたものは何だったか。未遂に終わらせてしまった行為を駆り立てるもう1つの理由、それは「性への興味」だったろう。
実際、後に改めて別れることになったとき、「好きじゃないなら、なんでホテルなんか行ったんだ」という千暁の問いに対して、ゆかは答える。「…したいと思ったから」
既成事実を急いで作ろうといった思考を取り除いて、ようやく自分の性欲と素直に向き合うことができたのだった。

近藤ゆか5
 (同書、5巻p.89/新装版4巻p.137)

何がカッコ悪いって、それだけのことに至るのに、こんな迂回路を経て、傷付いたりしなければならなかったことが
「『セックスしたい』という点に関しては利害が一致していた」なんて、つくづく身も蓋もない話だと思う。
しかし、この身も蓋もなさと、それゆえのぎこちなさこそが、青春の甘酸っぱさを形作っているのではあるまいか。千暁やゆかのような青春を送るにはほど遠くとも、なぜかそれは身近な事実であるように感じられる。

セックスする中になってから、千暁はゆかに改めて愛着を持ってきたようで、フラれたときには悲しむ。こうして見ると、随分ひどいことをやっているようだ。けれども、この「身も蓋もなさ」を両者とも自覚していたせいだろうか、その後の千暁は、ゆかに対してそれほどわだかまりはなさそうに見える。多分…
                           (芸術学3年T.Y.)

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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