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「喧嘩するほど仲が良い」の意味

回顧的に計られる“友情の深さ”に引き続いてライトノベル『僕は友達が少ない』の話で、他の作品の話も交えていきます。

今回はひとまず2人目のヒロイン・柏崎星奈の話から。
金髪で胸の大きな美人、学園理事長の娘で成績は学年トップ、スポーツ万能とパーフェクトな彼女ですが、やはり性格に問題あり。「あたしってほら、完璧じゃない」(『僕は友達が少ない』、p.76)とさらりと言ってしまう高慢さもさることながら、男は踏んだり靴を舐めさせたりすれば喜ぶものと思っている変態っぷり。
しかも女友達を求めてギャルゲーにはまり、さらにすさまじいことになります。

部室でエロゲーをプレイする上、真顔でゲームのキャラと友達になったときのことを心配しますし、はては「……ゲームの中に入れたらいいのに……」(p.103)と呟く始末です。
普通はオタクとしての度合いにかかわらず、この台詞を冗談抜きでは言いません

一連の「萌え」考(4.5)で示したように、「萌え」というのはあくまで一方的に鑑賞するような関係であり、「萌える」対象となるキャラクターは、現実にコミュニケーションを取る相手の代わりではないからというのが、その大きな理由です。
ただ、萌える人たちはコミュニケーションの相手――いわゆる「他者」――を必要としないのかと言えば、そんなことはありません。同好の士と語ったり、もっと切り詰められた形では「萌え」と宣言したりすることが、そうした他者を求めるコミュニケーションであるというのは、オタクのコミュニケーションとは?辺りで主張してきた通りです。


この辺りで別のライトノベルの話を挙げてみましょう。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
(2008/08/10)
伏見 つかさ

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『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の高坂桐乃(こうさか きりの)はモデルとしても活躍している美人中学生ですが、アニメやエロゲーという友達には言えない趣味を持っていました。しかし、ひょんなことから普段は仲の良くない兄・京介きょうすけ 本編の主人公です)にこの趣味を知られた桐乃は相談をもちかけ、「できる範囲でなら協力してやる」と言われると、京介にもゲームをプレイさせようとします
このように「隠さず趣味の話ができる相手が欲しい」というのは、ごく普通の態度であって、――どのくらい“人に言えない”趣味かという程度の差はありますが――作品を人に薦めて回るのは現実にも見られる場面です。
もっとも、京介にはオタク趣味はない上、桐乃の好きなギャルゲーは「妹もの」。「どだい本物の妹がいる人間に、仮想の妹を愛でるゲームを楽しめってのが酷な話」(『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、p.111)なのですが…

結局桐乃は、京介の勧めで、女子のみのオタク系SNSサイトのオフ会に参加することになります。最初は浮いてしまったり色々あったものの、二次会でハンドルネーム「黒猫」と激しい口論を始めます。

 今も俺の脇で桐乃と黒猫が、ベラベラベラベラ喧嘩ごしで、たぶんアニメの話をしているけどさ、それってカラオケボックスの一室で、女子高生どもが、夢中で憧れのカリスマアイドルの話してるのと、どう違う? 洒落たカフェの片隅で、セレブが恋愛小説の話してるのと、どう違うんだろうな?
 たぶんだけど……たいした違いはないと思うんだよ、俺は。違うかな?
 …(略)…
 だってちょっと見てみろよ、この桐乃と黒猫のギャーギャーうるせー言い争い。
 出合ったその日に、こんだけ本気で深い喧嘩ができるって、それはそれでスゲーと思わないか? で、さ。それって……こいつら二人の間に、強く通じ合う『大切なもの』があるってことだと思うんだ。
 …(略)…
 よかったな、桐乃。そんなバカでかい声で、遠慮なしに趣味の話ができるやつ、見付かったじゃん。おまえは絶対、『そんなことない』って否定すんだろうけどよ……
 それって友達っていうんだぜ?
 (同書、pp.176-180)


これだけ丁寧な解説に、そうそう付け加えることはないかと思いますが、1つ言っておくと、そもそも口論は「同時間帯に放映しているアニメのどちらを観ているか」から始まっているということです。つまり作品の好みが合わないどころか、お互い相手の好きな作品を観てもいないのですね。
それで構わないわけです。必要なのは「隠さず趣味の話をしても、正面から受け止めてくれる相手」だったのですから。


そこで『僕は友達が少ない』の星奈の話に戻ると、彼女は同好の士を求める様子もなく、ゲームのキャラを友達の代わりとしてそこそこ満足しているのですから、こちらの方がマトモではありません。
ですが、星奈にも現実の隣人部での関係はあります。
特に第1のヒロイン・夜空とは初対面のときから互いのすべてを罵り合うほど……で、たいていは狡智に長けた夜空に泣かされています。
夜空は星奈の趣味のギャルゲーなど一切認めていません。星奈がギャルゲーの話などをすれば「本気で気持ち悪そうに」しているだけです。普段は一緒に部室にいても夜空は文庫本を読み、星奈はゲームをやって、その他の部員も気ままに過ごしています(この辺が「友達が少ない人」の所以の1つ)。

しかし、ひとたび喧嘩をするとなれば話題を選ばず、何かやればしょっちゅう互いの足を引っ張り、カラオケボックスで違う部屋にいても喧嘩しています
これも桐乃と黒猫の関係の延長上にあることはお分かりでしょう。

話の内容の共通性ではなく、お互いの存在そのものを接点とできる関係――これこそを友情というのだと、読者には分かっています。
                           (芸術学3年T.Y.)

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Author:T.Y.
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