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共通感覚

笑う禅僧─ 「公案」と悟り (講談社現代新書)笑う禅僧─ 「公案」と悟り (講談社現代新書)
(2010/11/18)
安永 祖堂

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もっぱら禅の「公案」(俗に言う禅問答)を取り上げて解説した本ですね。
と言っても、言葉にできないとされるのが禅、「これが答えだ」というものが提示されるわけでは必ずしもありません。
著者は文学や西洋哲学など、色々な例を引いて話を結び付け、「禅の公案は何を問うているのか」ということを示していきます。

詳しくは実際に読んでいただくとして、中にこんな話が。『景徳伝灯録』にある以下のような公案です。

也太奇、也太奇、無情説法不思議、若将耳聴声不現、眼処聞声方得知。

すばらしいではないか、すばらしいではないか、天地自然の説く仏法の真理は思慮分別を超えている。もし耳で聞こうというのであれば音声としてはあらわれない。眼で音声を聞くくらいであってはじめて知ることができるだろう。
 (安永祖堂『笑う禅僧 「公案」と悟り』、講談社現代新書、2010、p.177)


著者は夏目漱石の『夢十夜』を引いてしばらく話を進めていますが、それはおいて、

 …その〔深い禅定に入って、五感の一つ一つが研ぎ澄まされた〕次の段階で修行者に発生するのが感覚間転移という現象だ。「眼処声を聞かば」(眼で音声を聞く)という世界である。
 桐山の言葉のように、異なる感覚系のあいだに相互影響がある現象を、一般に通様相(crossmoda)知覚という。
 アリストテレスは五官に共通的なもうひとつの感覚があって、これが個別の感覚器官に限定されない知覚を可能にしていると考え、これを「共通感覚」と呼んだ。

 …修行者の全人格が一箇の疑いのかたまり、大疑団に変じるということは、われわれの内界と外界に向けてのすべての感覚の入力刺激を認知する作用が人為的に遮断されることに等しい。これを大死一番という。
 眼耳鼻舌身のすべての感覚が一時的にせよ遮断されてしまうということは、感覚中枢がどれかひとつの特定の感覚に限定されて働かないことでもあり、逆に特定の感覚として働かないということは、極限にいたればすべての感覚を同時に、かつ平等に働かせるということに通じるのではないだろうか。
 あるいは、それを縦割り構造のソリッドな五感の液状化による融合と捉えてもよい。これが大活現前とも呼ばれて、感覚間転移が発生する瞬間だろう。
 そもそもは、われわれにそなわっている個々の五官は現象を認識するのにすぎず、むしろ「共通感覚」こそが本質を捉えるのかも知れない。
 (同書、pp.185-188)


この話を踏まえて、次に。

絵画をいかに味わうか絵画をいかに味わうか
(2010/11/24)
ヴィクトル・I.ストイキツア

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ルーマニア出身の気鋭の美術史家、ヴィクトル・I・ストイキツァによる講演集です。来日時の講演原稿を元にして、書き下ろしの「知的自伝」も収録された、日本語でしか存在しない本です。内容は学問的にきっちりとしたもので注釈も豊富、ただ扱っている作品がメジャーなものばかりでないこともあり、必ずしも取っ付き易くはないかも知れませんが。

しかし、実はまず触れたいのは岡田温司氏の「訳者あとがき」です。

 「絵画をいかに味わうか」。そう、絵画はたんに「見る」のでも、ましてや「読む」のでもなく、ずばり五感を総動員して「味わう」ものなのだ。このストレートな事実を、いつからかわたしたちはすっかり忘れてしまっていたのだが、ふたたびそのことに気づかせてくれたのが、ほかでもない、ストイキツァの本書である。
 (岡田温司「訳者あとがき」、ヴィクトル・I・ストイキツァ『絵画をいかに味わうか』、平凡社、2010、p.335)


まさしく本書中のいくつかの講演は、「絵画が視覚以外の感覚に訴えること」という問題を取り扱っています。

ただ、「この絵は触覚的である」とか「匂いが感じられるようだ」と言うだけでは、無論、学問にはなりません
いかにして学問的に筋の通った形で語ることができるか、これが常に問題です(そして美術研究のアプローチというのは本当に様々で、手頃な先行研究がアクセスできるところにあるとは限りません)。
そこでストイキツァも古代の文献を引いたり、色々と緻密な作業を行っています。

…さきほど読んでいた本に共通する話題があったので引っ張ってきただけですが、今日は以上で。
                           (芸術学3年T.Y.)

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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