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危険物なしでは生きられないとしたら

先日の補足)

オウム真理教地下鉄サリン事件も1995年のことですから、かれこれ15年以上経ったことになります。もはや昔話かも知れませんが、当時は随分と論争を呼んだものです。

・曰く、理系の一流大学を出ていてもあんなインチキが見破れないで引っ掛かるとは、今の人はどうなっているのか。
・曰く、宗教はこの通り危険なものである。
・曰く、いや、薬物を使って信者を洗脳したりしていたというし、あんなものは正しい宗教ではない。

しかし、こういう問い方がどこまで有効か、どうか。
麻原彰晃の空中浮揚はもちろん、座禅を組んだ状態でジャンプしただけだった、と説明できるでしょう。
が、信者も尊師の空中浮揚だけで信者になったわけではないでしょう。
もちろん信者が何を体験しようが、そんなものは何の不思議もないこと、大したことのないことだと、説明は付けられます。
ですが、そもそも後から「合理的に考えれば、分かるはずだ」と言うのは、後知恵の感が拭えません。まず、「現場にいた人間に対し、それがどれほどの説得力を持っていたか」という点を抜きにしており、「人間はつねに合理的に考えるものではない」という現実を無視している点が弱いのです。
「引っ掛かった人たちは、よく考える能力が欠けていた」と言うのも、「なぜそういうことが起こるのか」という十分な説明とは言えません。

 古い思考習慣はなかなか消滅しない。終戦直後、アドルノの率いる研究者グループが『権威主義的パーソナリティ』と題した本を出版したが、これはその後何十年か、この種のテーマの研究と理論のお手本であった。……題名が示すとおり、著者たちはナチス支配とそれが生み出した惨劇を、ある特殊なタイプの個人の存在から説明しようとした。強者になびき、弱者に厳しく、残酷で、傲慢な態度をとる傾向のある人格から説明しようとした。ナチスの勝利はそうした人たちがふつう以上に多く集まった結果であった。なぜそうなったのか、著者たちは説明せず、説明を望まない。彼らは権威主義的パーソナリティを生み出した要因として、個人を超えるもの、また非個人的なものについては説明を避ける。もともと権威主義的パーソナリティをもたない人々に権威主義的態度をとらせた要因の可能性には、興味を示さない。アドルノと彼の同僚にとって、ナチズムが残酷だったのはナチスが残酷であったからだった。そして、ナチスが残酷だったのは、残酷な人間がナチスになる傾向が強かったからだ。
 (ジークムント・バウマン『近代とホロコースト』森田典正訳、大月書店、2006、pp.199-200)


「権威主義的パーソナリティ」を「カルトに嵌まりやすい人」に置き換えても、ほぼ同じことが言えます。

オウム真理教がインチキ宗教だったと主張するのも同様で、そう強調すればするほど、なぜそれに多くの人が嵌まったのか、分からなくなります。

では、宗教とは元々危険なものなのか。
そうでない、とは言えません。ですが――

肺を水で満たしたら死んでしまいますし、洪水があれば家が流され、多くの人が命を落とすこともあります。この場合、別に「水が間違っている」わけではありません。水が元々危険だというのは本当です。しかしだからと言って、水なしで生きていくことはできません
宗教が水のように必要不可欠なものだと思うかどうか――それは「宗教的なもの」の射程をどれほどのものと考えるかにかかっています(既製の競技化された宗教を考えれば足りるとは限りません)。しかし古今東西、宗教を持たない人類集団がなかった以上、「われわれは宗教と縁を切れる」と簡単に考えるのは、甘いお話のように思えます。

宗教という危険なものと付き合っていかざるを得ないということ、そしていかに付き合うべきか、ということ――もし宗教教育なるものが必要とされるとしたら、そういうことのためでしょう。
                           (芸術学3年T.Y.)

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