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保存と保存修復――訳語の難しさ

唐突ですが、「科学技術立国」という時の「科学技術」は英語で何と言うのでしょうか。
「理系離れ進行で日本の科学技術立国が危ない」とかいうフレーズの、あれです。
正式の訳語があるのかどうかよく知りませんが…考えられるのは――

まず直訳するならこうでしょうか。

 science and technology (科学と技術)

しかしこんな言葉は聞かないような気がします。次に、

 scientific technology (科学的技術)

ですが、もしかすると、

 technology

一語でいいのではないでしょうか。techniqueでなくtechnologyを使った時点で、職人の手仕事の技術とかを含まないことは分かりますから。

第一、数えるほどの人が理論物理学でノーベル賞を取ったところで、「国が立」ったりはしないことははっきりしています。「国を立てる」のは「産業」であって、クォークが六種類だろうが何だろうが関係ありません。将来その理論が応用されるとしても、その時には「誰が発見したか」は大した問題ではないはずです。
結局「科学技術」と一括りにすると「science and technology」のことを言っているように聞こえますが、必要なのは「産業の技術」であり、「応用科学」あるいは「応用できる科学的発見」であって、何に応用できるのかすぐに分からない理論的研究などお呼びでないというのが本当のところでしょう。


さて、似たような言葉の問題は他にもあるものです。
例えば、博物館における「conservation」は「保存」なのか「保存修復」なのか

“保存”と“保存修復家の専門職”の二分法は、重大な誤解の核心にあることがある――とくに、厳密な分析をするつもりの時には。たとえば、アメリカ保存学会American Institute for Conservation(AIC)は「保存」を「未来のための文化遺産の保護に当てられた専門職」と定義、保存修復家以外の保存に関わるすべての人々を除外している。しかし、ワシントン保存の会Washington conservation Guild(WCG)は保存を「文化的に重要な対象の保護と維持」と定義している。この会の人達にとっては、保存は一般的な活動であり、異なる専門職から、多くの異なる人々が多くのレベルで関わっている。「保存」について語る時、WCGとAICはまったく異なるもののことを言っているのである。
 (…)
「保存」がある活動のことを言っているのか、それともある専門職のことを言っているのかがはっきりしたとしても、「保存」に言及する時には、もう一つの混乱の原因になりうるものが存在している。この用語は広い意味と狭い意味、両方で理解されうるからである。

・狭い意味の「保存」――「修復(restoration)」に対立するものとしての保存、すなわちマクギルヴレイ(McGilvray)によって保つ活動と記述されたもの。
・広い意味の「保存」――上の意味に加え、修復とその他関係するありとあらゆる活動を含む、諸々の活動の総体としての保存。

イタリア語、スペイン語、フランス語といったラテン系の言語では、広い意味の「保存」が〔「修復」を意味する〕「restauro」(イタリア語)、「restauración」(スペイン語)、あるいは「restauration」(フランス語)と訳されるため、混乱はいっそう強まっており、そのためにこれらの言語から英語への翻訳、またその逆も、しばしば不正確である。
 (サルバドール・ムニョス・ビニャス『現代の保存理論』、pp.13-15)


広い意味の「保存」は、日本語では「保存修復」としても良さそうなんですよね。
と言うか、このタイトルはやはり『現代の保存修復理論』としたいですね。

ちなみに「保存修復家」としたのはconservatorですが、この専門職も、傷ついた作品を直すだけでなく、普段からの維持に関わっている場合もあり、場所によって色々で…
その辺と関係して、どうも日本でも「コンサヴァター」という言葉が使われるようになっているらしく(英語の発音は「コンサーヴェイター」のはずですが、あまり気にしない)、我々がPLUS OPUSで取り上げた時もこの表記を使っています(まあ、森美術館の表記に合わせたのだったと思いますが)。


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(2004/12/14)
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                           (芸術学3年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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