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『キャラクター精神分析』

買ってあったはず(記憶では)の本がどこに行ったのやら。
数百円の単行本程度だと、ダブって買ってしまうこともままありますが、どこかにあるはずと分かっていながらまた買うのも…散らかっているようでいて、こういうことは比較的少なかったのですが。

さて、今日は気分を変えまして、前々から何度か触れていた本の話です。
キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人(双書Zero)キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人(双書Zero)
(2011/03/24)
斎藤 環

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著者の斎藤環氏はひきこもり研究を専門とする精神科医で、若者研究やオタク文化への言及でも知られた人物ですね。
本書は文字通り、現代日本の様々な場面において使われる「キャラクター」「キャラ」について研究した著作です。

第1章は「『キャラ』化する若者たち」で、割り当てられた「キャラ」を演じることを求められる若者の人間関系への言及から始まります。こうした「キャラ」は「スクールカースト」やひいては「いじめ」との結びつきも指摘されているところで、本書でもそうした研究は引用されていますが、ただマイナス面のみが扱われるわけではありません。
第2章は「『キャラ』の精神医学」で、以前にも少し引用した通り、精神医学における「乖離」との関係で「キャラ」について語られます。
第3章は「『キャラ』の記号論」で、パース流の記号論的な「キャラ」の位置付けですね。

この1~3章でもフィクションの登場人物としての「キャラ」は引き合いに出されますが、それをメインに論じているのは第4章「漫画におけるキャラクター論」、第5章「小説におけるキャラクター論」で、漫画評論家・伊藤剛による有名な「キャラ」と「キャラクター」の区別大塚英志・新城カズマ・西尾維新といった小説家たちの「キャラ(クター)」造形およびそれを用いた作劇作法に関する分析となります。
第6章「アートとキャラの関係性において」では村上隆らの現代アート、第7章「キャラの生成力」では初音ミクせんとくん等々のキャラクターを巡って生じた問題が扱われ、さらに広い場面に「キャラ」にまつわる問題が展開していきます。
第8章は「キャラ“萌え”の審級」でタイトル通り、第9章「虚構としてのキャラクター論」では東浩紀氏の「データベース理論」が扱われ、高く評価されながらも内在的な批判がなされ、データベース理論を「乗り越える」ことが目指されます。
第10章は「キャラクターとは何か」で、こうした広範な場面において用いられる「キャラ」が何を指しているのか、結論が出されます。「人間」と「キャラ」の関係も論じられ、ここでも東浩紀氏との対決姿勢が示されますね。

後半や「類似」や「同一性」をめぐる哲学的論議に入ってきますし、そもそも話題が広範囲に及ぶだけに、それぞれのテーマに関する専門的な観点からすればまだまだ論が足りないところもありそうですが、非常に興味深い1冊でした。
「この著者の言うことは自分も考えていた」みたいなことを言うのは格好悪いので軽く触れるにとどめますが、東浩紀氏の理論に関しては私もこのブログで何度か触れてきました。その私の視点からは共感するところ大であった、とのみ言っておきましょう。

他に、面白いのは――まあたくさんありますが――第6章における村上隆への言及ですね。
斎藤氏は村上を、国内では冷遇されている「不遇」なアーティストだと言います。

 しかし、その理由は単純だ。「村上はオタク文化の上澄みをかすめとり、西欧のオリエンタリズムに迎合して大金をせしめた文化的詐欺師」。この種の誤解がいまだにまかり通っているのだ。
 そう、僕はこの種の言説を典型的な「誤解」と考える。村上隆はオタク文化の上澄みをかすめ取ってなどいないし、むしろオタク文化の発展に寄与しているのだ。それも単に「海外に日本のオタク文化のすばらしさを啓蒙した」といったレベルの話ではない。
  (斎藤環『キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人』、筑摩書房、2011、p.148)


日本国内にどんな美術批評が存在しているのか、私もよくは知りませんが、村上隆をきちんと論じたものがあまりないのも、批判的な言説が多いのも事実なのでしょう。
そして、現代アートの世界的な潮流のどれかに村上を位置付ける、といったことにとどまらず、「村上隆に固有の特徴」を論じようと思ったら、「現代日本に特有の背景事情」を考えるのは多分、不可欠のことがらでしょう
本書でも村上に多くの言が費やされているわけではありませんが、少なくとも「キャラ文化」から村上を語るという視点を提供したという点で、本書は重要な文献となる可能性があります。全国の村上隆を研究しようという方(もしいれば)、押さえておいて損はない…かも知れません。
                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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