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まどか☆マギカ――エントロピー

今日も名大にてフィンランド語の授業1コマのみ。
毎回授業でフィンランド語の文章(今までのところ全てニュースですね)が配られています。前文読解をやるわけではなく(授業内容は主に購読よりも文法ですので)、授業では大まかな内容および焦点となる文法事項の説明がなされるだけですが、帰ってから辞書と並べて読むとある程度は読めますね。しかしやはり辞書の貧弱さがネック。何とかしてフィンランド語-英語辞典辺りを手に入れねば。

 ~~~

さて、今回は再びアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」のお話を。
まだ続けるのかよ、という感もありますし、今回はさしてこのアニメの核心に迫るネタというわけでもないのですが(今までは迫っていたというのか…?)、まあいつも通り好き勝手に。

この作品に関する過去記事はまどか☆マギカ――魔女以前に(ネタバレあり)。
今回記事も以下ネタバレあり。






キュウべえことインキュベーダーが魔法少女を――ひいては魔女を生み出す理由は、「宇宙の寿命を延ばすため」でした。
曰く、この宇宙においてはエントロピーが増大するという法則があり、次第にエネルギーは目減りしていく。そこでキュウべえ(達)は感情をエネルギーに変換する技術を発明したけれど、キュウべえ自身は感情を持たなかったため、人間の感情を利用することにしたのだ、と。
「キミ達人類もいずれ宇宙に進出することになる。その時に枯れ果てた宇宙を渡されても困るだろう」等と、「宇宙のエネルギー」が種族を超えた公共財であるかのように平然と言うわけですが、果たしてそんな日が来るのか、それまで人類が永らえるのかどうかも分かりません。
その後、自分達と人類の関係を人間と家畜の関係に擬えている(「家畜に対するよりもずっと知的生命体を相手にするだけの敬意を持って接している」とのことですが)ことから言っても、上の話は疑わしいですね。
結局、“キュウべえの文明のために”エネルギーが必要だから人類を収奪している、というのが正しいのではないかと。

で、これに絡んで演出上の話も少々。
ソウルジェムがグリーフシードに変わる時に莫大なエネルギーが発生し、また、強い力を持った魔法少女→魔女であるほど、大きなエネルギーが得られる、という話でした。ほむらの過去篇で描かれた別の時間軸では、まどかが魔女になったところで「エネルギー回収ノルマは果たした。後はキミ達人類の問題だ」と言って地球を見捨てて去ろうとしていたこともあり、ソウルジェムがグリーフシードに転じて魔女を生んだ時点で、自動的にエネルギーは回収されるようですね。
が、それとは別に、ソウルジェムの穢れを浄化するのに使われて黒くなったグリーフシードを「回収」している場面もありました(背中の模様が取り入れ口になるようです)。
このことがいくつかの疑惑も生みます(ファンの間では周知の事実かと思いますが)。

第3話でマミ先輩を食い殺した魔女は、グリーフシードから“孵化”して出現しています。グリーフシードの孵化シーンはここの他にはソウルジェムから魔女が生まれる時だけで、何故? と。
魔女の結界に取り込まれてしまえば、この時点で魔法少女ではないまどか・さやかは脱出もできないわけで、「見張っておいてマミさんに知らせに行く」という演出のためとも考えられますが、このグリーフシードを撒いたのがそもそもキュウべえではないか、という疑惑ですね。
後から考えると、ここで一緒にいたキュウべえがグリーフシードを「回収」すれば済んだのではないかと思えるだけに、なおさらです(まあ、孵化寸前の臨界状態になってしまうと回収できないとか、理屈は付けようと思えば付けられますが)。
しかも、ほむらが「この魔女は今までとは違う」と警告しており、倒したかと思いきやイモムシ状に変形という能力の前にマミ先輩は敗れるわけですが、どういうわけで「違う」のかは結局よく分かりませんでした。まあそれに対する答えはいずれにせよありませんが、キュウべえが選りすぐりのグリーフシードを用意したのだと考えれば事情は理解可能です
何より、キュウべえは他の魔法少女を始末して、「ワルプルギスの夜」に対抗するためまどかが魔法少女にならざるを得ないよう仕向けていたという事実から、この疑惑の蓋然性は高いでしょう。

それはさておき、最終話、まどかにより魔女が存在しないようになった世界では、代わりに「魔獣」が出現しています(出所はソウルジェムではないものの)。魔獣を倒すとグリーフシードの代わりに立方体の結晶のようなものが得られ、やはりそれをキュウべえが回収しています。多分、それでソウルジェムの穢れを浄化しているのも相変わらずなのでしょう(詳しい説明は無し)。
ほむらから「まどか」の話を聞いたキュウべえは、もはやその話を証明する手段はないと言いつつ、その話を認めれば「なぜ浄化しきれなくなったソウルジェムが消滅してしまうのか説明できる」と認めます。そして、「魔女が存在すれば、エネルギー回収の事情も変わっていただろう」と…。(無論、その代わりに人類はキュウべえに「騙される」格好になり、両者の関係には様々な問題が生じるわけですが、キュウべえはそうした事態を理解しません)
とにかく、やはり浄化に使われたグリーフシードを回収するのもエネルギー集めのためだったようです(ソウルジェムがグリーフシードに転ずる時の方が圧倒的に多くのエネルギーが得られるのでしょうが)。これが、「魔女の出現しない世界」になってもキュウべえが人類にコンタクトし、魔法少女を生み出し、変わらず歴史を紡がせるという展開に繋がっていたということで、細かいところまで行き届いていますね。

 ―――

ここで現実の物理学の話になります。
キュウべえが「エネルギーが目減りしていく」と言ったのは、正確ではありません。
「エネルギー保存則」というのがあって、基本的にエネルギーが増えたり減ったりはしません。
「エントロピー」というのはいわば、その質的変化に関する概念です。

例えば――局所的に熱が発生すれば、その熱でシリンダーの中の気体を膨張させてピストンを動かし仕事をさせたり、お湯を沸かしてタービンを回し発電したりできます。その熱の元となるエネルギーは、燃料の中に化学エネルギーとして、あるいは放射性物質の原子核の中にetc.という形で閉じ込められていたわけです。
しかしこの熱が広がって、あらゆるものが一様な温度を持っているだけ、となると、そのエネルギーはもう他の何にもなりません。かくして、仕事を終えたエネルギーは皆、一様な熱エネルギーとなっていきます(私が今使っているPCも、電気を消費して熱を発生させています)。
(大まかに言えば)より一様な状態は「エントロピーが大きい」のであり、エントロピーの増大過程が逆転不可能であることを「熱力学の第二法則」と言います(第一法則が「エネルギー保存則」です)。

つまり、ストーブが熱くヤカンが冷たいのは「エントロピーが小さい」状態であり、ストーブとヤカンの温度差が小さいのはそれだけ「エントロピーが大きい」状態です。エントロピーが小さい方に向かう、つまりストーブの上で自然とヤカンが冷たくなっていくことはありません

この物理法則は色々な思考の宝庫であり、本作のように人間の精神と結び付けられるのも先例と故のないことではありません。が、それはまた別の機会に。

もちろん、この記事の目的はアニメの物理的知識の不備を取り沙汰することではありません。
キュウべえの台詞は「エネルギー」の前に「利用可能な」と付ければ、何ら問題ないものになるでしょう

ここからは制作者の意図をも離れますが、ついつい深読みしてみたくなります。
実は、しかじかの物質のうちにある化学エネルギーとしかじかの熱エネルギーが「同じ」量だというのは、異なる種類のエネルギーに共通する単位をそのように取り決めたからです。なぜそのように取り決めたのかと言えば、「量的にはエネルギーが保存される」ことを前提しているからです。
つまり、エネルギーについて知ることでエネルギー保存則が発見されたというよりも、エネルギー保存則を前提することで「エネルギー」の概念が成立しているのです。

ここから考えると――キュウべえは「利用可能な(=エントロピーの小さい)エネルギー」の意味で「エネルギー」という言葉を用いているということは、キュウべえに「エネルギー保存則」という前提はないのかも知れません
「一なる全体」があるだけで「個体」はなく(個体化の原理と恐ろしいマスコット参照)、それゆえにほぼ不滅である存在にとっては、「自己の保存」の持つ意味合いも我々とはずいぶん異なったものとなるでしょう。そのことが、外界における「保存」の概念にも少なからず影響している、ということも、もしかしたら……

ついでにもう一つ、本作における魔法少女に共通する能力として「複製」があります。
マミ先輩は銃、さやかは剣といった固有の武器を大量に取り出して見せます。ほむらも元々は時間操作能力しか持っていませんでしたが、自作した爆弾や(時間停止により)ヤクザの事務所から盗んできた銃器を使えるようになります。そしてどうも、弾薬等を補充しなくても次々と出て来るようなのですね。
これが、

1. 材料まで、無から有を生み出している
2. (それこそ周囲の空気でも何でも)どこからから材料を取り寄せて、武器という形を与えている

のいずれか不明ですが、後者だとしたら正しく「エントロピーを下げる」作業に他なりません。複雑な構造の道具などはそれだけエントロピーの小さいものであり、放っておけば失われる(=エントロピーが大きくなる)方向に向かうものです。
こう考えると、なにやら辻褄が合ってしまうんですね。

※ 物理法則の話に深入りはしないと言いましたが少しだけ補足を。普通に人が複雑な道具を制作する場合はどうなのかと言うと、エントロピーの小さなものを生み出す代わり、別のところでそれ以上にエントロピーを増やさねばなりません。「全体としては」必ずエントロピーは増大することになります。
                           (芸術学4年T.Y.)

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テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

なんとも興味深くて面白い話ですね!
(*゚∀゚)=3

Re: No title

この長々とした考察を誰か読んでいるのかさえ心配していましたが、興味を持っていただけたようで何よりです。
今後とも宜しくお願いします。

> なんとも興味深くて面白い話ですね!
> (*゚∀゚)=3

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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