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現代の「国盗り」――『羽月莉音の帝国』

ボヤキがしばらく続いてしまいましたが、程ほどにしておきましょうか。
目の前の相手がさっきまで話していた相手かどうかとっさに分からない、といった事態に気付くと、自分でも何なのか、とは思いますが。でも診断書が出るほどのものかと言うと、そうでもないのでしょう。
その辺について自己分析をやるのもたまにはいいんですが、ともすると「自分はこんな奴ですから…」という言い訳になってしまうそうで…

 ~~~

さて、またまたライトノベルです。
羽月莉音の帝国 (ガガガ文庫)羽月莉音の帝国 (ガガガ文庫)
(2010/02/18)
至道 流星

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本書は大真面目に、高校生が部活動で「革命」「建国」を目指す物語です。

主人公の羽月巳継(はづき みつぐ)はこの度高校に新入学の一年生。従姉の羽月莉音(はづき りおん)は一年上の二年生ですが、この一年の間に建国を目指す部活「革命部」を創立していたのでした。
しかし「建国」などと途方もないことを言われても入ってくる新入生はおらず……結局、巳継および、同学年で幼馴染みの折原沙織(おりはら さおり)春日恒太(かすが こうた)は幼馴染みのよしみ(もしくは力尽く)で革命部に入部させられることになります。他に一人だけ前年度から生き残った部員・三年生の泉堂柚(せんどう ゆず)さんがいて、五人で建国を目指して活動開始。
が、部室と称して学校の隣に家を借り、その他設備投資でいきなり300万円の借金。借金を返し建国資金を稼ぐため、ゴミ拾いから音楽教室、コスプレまで雑多に働くことに。しかも休日も休み無しというブラック企業っぷり(革命部はまもなく法人化して、部室に「出社」することになります)。

……ここまでは「“建国”と掲げてバカをやっているだけの集団」を描いたコメディみたいなんですが(そう言えば『涼宮ハルヒ』のSOS団と部員数も同じでした)、ここからが本領です。
一ヶ月(ページ数にして130ページとちょっと)で300万円完済、270ページで1000円から始まった部費は6億円を突破、1巻の最後で株式公開(東証上場二部)というハイペース展開。
ちなみに、現在最新刊である7巻ではロシアと全面対決(と言っても武力衝突ではありませんが)、ロシア首相(モデルはもちろんプーチン)と対峙するところで引きとなっています。

キャラ造形はいかにもライトノベル的な、平板でカリカチュアライズされたものですし、序盤はラブコメ的にヒロインの暴力で場面を終わらせたりしていることが多く、掴みは今ひとつかも知れませんが、ご都合主義も何のその、これぞエンターテインメント、と言うべきスケールの壮大さと展開の早さが最大の武器と言える作品ですね。
しかも正真正銘、魔法も超能力も登場しない現代世界を舞台にして、この空前のスケール展開。まれに見る快作にして怪作です。

そしてもう一つの魅力は、政治・経済・何よりビジネスに関する知識です。
建国にもまず資金が必要ということで、ビジネスがストーリーの主軸になっていますし、特に前半は株式市場を舞台に数々くの戦いを繰り広げていますが、これが圧倒的に面白いのです。また作中に登場する新ビジネスにも現実のモデルがあるようで、よくできています。
作者プロフィールは「会社経営者。ときどき作家。専門書からライトノベルの執筆まで何でもこなします」とあります。作家というのは一部の売れっ子以外なかなか食っていけないので、兼業はごく普通のことですが、(小企業であれ)経営者というのは珍しいのではないでしょうか。その知識をよく生かしています。

6巻あとがきでは作者自ら「三つのコンセプト」を語っていますが、これが的確、意図通りにできていることがよく分かります。

★人類史上最大のスケールにする
 単純明快、世界で発売されているあらゆるコンテンツの中で、最大のスケールにしようというものです。政治・経済・社会を包括し、表も裏も境界線を取り払い、地球の歴史の流れから俯瞰した現代社会を描いてみようという試みです。
★ぼくにしか書けないものを書く
 巷の小説やビジネス書の書き手には、決して書けないようなものを描こうというものです。大して取材しなくても大丈夫。いやでもまさか、このような場所で、自身の経験や知識が活きるとは、自分が一番びっくりです。
★きちんと意味のあるものを書く
 教科書よりも役に立ち、新聞よりも糧になり、ビジネス書よりも実際的な、そんな作品にしたいのです。何十ページとダラダラ続く会話劇も、重厚な文学的描写も一切不要。ワンアイデアを膨らませて一冊にすることもしない。限界いっぱい意味ある内容を詰め込んで、最小の巻数で描きたい。
 (至道流星『羽月莉音の帝国 6』、小学館、2011、p.388)


もっと文章力や人物造形が優れていても、それにページを割いたらネタの面白さを殺すことになったかも知れない…と考えると、「文学」を目指していては書けないものがあるのを見せ付けてくれる作品です。
                           (芸術学4年T.Y.)

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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