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『羽月莉音の帝国』――政治的武器としての「キャラ」

昨日の続きです)
登場人物の役割分担は物語の基本で、少人数で途方もなく大きなことを成し遂げる話となれば特にそうですね。
革命・建国を目指す話となれば、キャラ設定もぶっ飛んだものになってきます。

まず革命部部長・莉音は冒険家の父について世界中を旅し、見聞してきたという強者。ビジネスや政治・経済にも詳しく、大胆な思考と広い人脈を持って革命部の活動を率いるのはもちろんのこと、日新流柔術の免許皆伝で武器も扱える戦闘能力の持ち主で、これがしばしばドンパチをやる上で重要になります。
泉堂柚さんはおっとりして、常識的なことはあまり理解してなさそうな女の子ですが、実は国際数学オリンピックで世界唯一の満点金メダルという天才。ビジネスや兵器開発に当たってプログラミングで大活躍します。

しかし、そうしたいわゆる「天才」以上にある種驚くべきは、春日恒太のキャラ設定ですね。
恒太は全国有数の秀才で、放っておいても東大に行けるので高校を選ぶ必要もなく、巳継たちと同じ高校に進学しているのですが、その実態はトンチンカンな男です。中学時代は学校中のあらゆる部活に所属し、「エースとして君臨していた」と自称していますが、実際には何も活躍していません。それでいて、「俺の出るべき大会は世界大会だけだ」となぜか根拠不明の自信あり。
革命部でも、序盤は雑用しかしていない(と言うか、尊大な態度ゆえに対外交渉はさせられないので、それしか任せられる仕事がない)にも関わらず、「俺が指揮を執っていればこの成果は当然」と口だけは達者。
2巻ではさらに加速して、片目に赤いカラークンタクトを入れて「ついに真眼ギガスが目覚めてしまったようなのだ。財務諸表や株価のチャートを見ると、瞬間的にその企業の未来が見えてしまうのだよ……」(2巻、p.21)と得意気。要するに自作の設定に浸っている――スラングで言うと邪気眼症状だったようです。

が、物語の転機となる3巻では、恒太も初めて活躍を見せます。
日本最大の衣料チェーン・アクアスの買収に挑む革命部。資金は調達したものの、莉音が倒れて不在という状況で革命部は闘わねばならなくなります。戦いの舞台はマスコミを通した情報戦――つまりは記者会見
革命部社長として会見対策を進める巳継にとって最大の問題点は、前回の会見で思わず口走ってしまったある「とんでもない発言」ですが、恒太はそれを「撤回せず、押し切れ」と言います。

「いいか、それが巳継のキャラなんだ」
「俺のキャラって、何だ?」
「興奮すると、とほうもないデカい話をぶち上げてしまうホラ吹きキャラだ。良く言えば、おちゃめなヤツなんだよ」
「かなり嬉しくないな……」
 俺は顔をしかめた。
「嬉しいとか嬉しくないとか、そういう問題ではない。少なくとも、大半の視聴者はそう捉えている。そして、この反応は上々なんだ。これだけ発言が全国的な波紋を呼んでいるのは、俺たちにとって悪いことじゃない」
 (……)
 俺はイメージを喚起させるため、まぶたを閉じた。頭をフル回転させて、自分をマスコミの群れの前に立たせてみる。恥も外聞も振り払い、自分がホラ吹きキャラとして平然とデカイ話をぶち上げている姿を想像してみると……。
 ――まてよ……これは意外と……良いアドバイスなんじゃないか?
 (至道流星『羽月莉音の帝国 3』、小学館、2010、pp.99-100)


そう、恒太の役割は邪気眼、つまり「キャラを作ること」でした。
そして、政治でもビジネスでも、情報戦・イメージ戦略において「キャラ立ち」が重要な役割を果たしているのは、現実の世界でもよく見る通りです。そしてマスコミを通して有名になる人の多くは、ある程度計算尽くで「キャラを作って」いるはずなのです。
ただ、ライトノベルの登場人物は元々「キャラ」です。そこで「キャラを作るキャラ」を象徴的に表現するのが「邪気眼キャラ」というわけです。ライトノベル的キャラ造形と現実的な「キャラ作り」の戦略を結び付けた見事な表現だと感心しました。いや割と真剣に。

ちなみに、4巻の最後であるポストに就いた恒太は、マスコミで尊大かつ過激な発言を連発したり、クイズ番組に出演して博識ぶりを見せ付けたりで、一躍カリスマの座に上り詰めます
もちろん、実質は他の皆が運営している革命部のビジネスが顔役である恒太の功績になり、その知名度がビジネスの武器になる……という相乗効果が働いているわけですが、現代的視点で「“キャラ”が政治的武器になる」ということを描いているのは、かなり注目に値すると思いますね。
本当、冗談みたいですけど、真面目に。
                           (芸術学4年T.Y.)

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中身は変わっていないはずなのに…

(昨日の話の続きのようなものです) まずはライトノベル『羽月莉音の帝国』のキャラ、春日恒太の話は以前しました。彼もまた、「成長する/しない」という点から見て興味深い存在でした。 5巻の表紙の中心が...
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Author:T.Y.
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