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真実を探る(=秘密を暴き立てる)仕事

ネタの出し方もマンネリ気味ながら、小説の引用から始めましょう。

京極夏彦『絡新婦の理』はいくつもの事件が絡み合った複雑なミステリで、説明するのは難しいのですが、以下の場面に関することのみ軽く触れておきましょう。名門女子中学校で少女売春と殺人事件が起こり、巻き込まれた少女・呉美由紀(くれ みゆき)は売春少女の一人と勘違いされ、裏取引をして事態を隠密裏に処理してやると言う男・海棠(かいとう)に尋問されています(しかし無論、美由紀は取引に応じようにも必要なことを知りません)。

「強情だなあ君も。もうすぐ学院(ここ)に、探偵が来る。いいか、探偵だよ。探偵というのは人の秘密を暴き立てて金を貰うと云う卑劣な商売だ。当事者でないのをいいことに、あることないこと、無責任に白日の下に曝していい気になっているような奴等だ」
 そんなに酷いものなのだろうか。美由紀は探偵小説を何冊か読んだが、そんなに酷い商売とは思わなかった。小説のように格好の良い探偵など居ないのだろうが、海棠の話を丸呑みにすればまるで極悪人だ。美由紀がそう云うと海棠は、そうさ、そうだよと一層力強く云った。
 (京極夏彦『絡新婦の理』、講談社ノベルス、1996、pp.460-461)


もっとも問題の探偵・榎木津礼二郎(えのきづ れいじろう)は、操作も推理も不要、ただ解決あるのみという、およそ誰も想像できないような破天荒な探偵なのですが…。
しかし一応、榎木津自信、探偵とは秘密を明らかにする仕事、と見なしていることは確かです。
(軽薄ではありますが)比較的常識人の探偵助手・益田は、「そこまでしてこの学院を潰したいのかあんた! 探偵が乗り込んで状況悪化させてどうする!」と怒鳴る海棠に答えます。

「探偵は状況を善くしたり悪くしたりするものではないですよ海棠さん。真実を探るものです」
 (同書、p.475)


実はこう言う益田は元々、警察官という、「真実を探る」だけに留まらない仕事をしていました。
そんな彼が、なぜ探偵に転身したか。

 警察は謎を解明すること自体を目的としない。社会秩序を回復し、治安を維持することが第一義である。法に則った社会正義を貫くことが肝要なのだ。
 だから、社会は揺るぎないものだ――と云う考え方が根幹になければ警察官は勤まらない。
 (……)
 だから益田は警察に幻滅したわけではない。己の世界認識に疑問を持ってしまったに過ぎない。
 一方、探偵は商売である。割り切れているからそう云う大義名分はない。ない筈である。
 (同書、p.221)


ただもちろん、生徒の売春などという「真実」が世間に知れれば学院の汚名ですし、無関係の多くの生徒達にも影響が及びかねません。
そこで海棠は裏取引で便宜を図ろうと言っているわけですが、どうもこの機に乗じて恐喝でもして儲けようとしていると推察されます。おまけに残念なことに、当の「真実」をまったく見誤ったまま、思い込みで動いているわけです。

一方、学院の学長達は生徒の売春などという事実を断固として認めません。

「待ってくださいよ。あんた方は何の証拠があってこんな娘の戯言を信じるんだ! 我が聖ベルナール学院内に売春組織などないッ!」
 学長が鹿爪らしい顔で怒鳴った。
「怒らんでくださいよ。ないって云い切ることはできないでしょう。(……)
 (同書、p.471-472)


学長達がこの上なく愚かな人物として描かれているのは、ただ真実に対し目を瞑ろうとしているからです。「売春などあるべきではない」という理想に事実の方が合わせてくれることを願い、調べられることそのものを拒みます。しかし、本当にやましいことがないのなら、調べられても困らないはずです。
結局、そうして現実から目を背けているがゆえに、目の前で起こっている殺人事件にすら対処できず、お化けなどいるはずがないとか(「黒い聖母」という学内の言い伝えにちなんだ名前が殺人犯の呼称として使われたというだけの理由で)、誰の責任だとかいうことばかり喚くことになるわけです。
つまり、「真実を知った上で、口外しないという選択もするし、真実によって不利益を被る人のケアもする」という“大人の対応”がまったくできていないのですね。

同様に、本音と建前の区別というのも、決して「自ら進んで都合の悪い本音から目をそらす」ということではないはずです。
だからここでの探偵のように「真実を探る」役割も必要になるのでしょう。皆で目を背けて良しとしているようでは、本当に末期症状と言わねばなりません。

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                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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