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メタ物語の宿命(?)――『俺がヒロインを助け過ぎて世界がリトル黙示録!?』

自分でもいつの間に書評ブログに転身したのかと思いますが、以前の『涼宮ハルヒ』に関する考察()の補完に役立ちそうな作品があったので、紹介してみます。

俺がヒロインを助け過ぎて世界がリトル黙示録!? (HJ文庫)俺がヒロインを助け過ぎて世界がリトル黙示録!? (HJ文庫)
(2011/06/01)
なめこ印

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主人公・波乱烈火(なみだれ れっか)は高校の入学式の日(そして16歳の誕生日)、未来からやって来たという少女・アールにとんでもない事実を告げられます。
何でも、これから烈火はたくさんの「ヒロイン」を助け、「フラグを立てる」のですが、一つも回収しなかったため、ヒロイン達が烈火を巡って「全ての戦争(オールオブウォー)」を始め、未来世界は滅茶苦茶になってしまった、アールはそれを防いで世界を救うために来た…と言うのです。
父も昨夜、波乱家の男は16歳になると「物語に巻き込まれやすい体質」が開花するなどと妙なことを言っていましたが…

実際、その日の内に烈火は、実は魔法使いだった幼馴染み、宇宙人のお嬢様、異世界の魔法使いを立て続けに助ける羽目になってしまいます。
とは言え、役割上は主人公として物語に巻き込まれても、あくまで平凡な高校生の烈火は、他のヒロインとの出会いで得たアイテムや技能を駆使して戦うことになります。

そう、作中でも明言されている通り、烈火は複数のヒロインの物語に同時に巻き込まれているがゆえに、その物語のルールに従う必要がないのです。だから、魔法の効かない魔王を宇宙人のレーザー銃で焼き払ったり、宇宙人の隕石攻撃を撃退するのに魔法使いの力を利用したりできるのです。
もうこれだけの説明で十分なくらいですが、本作がメタ小説たることを追求していることは、烈火の父が「波乱家の血筋」について説明する箇所を読んでもよく分かるでしょう。

「『その特殊な体質』っていうのは、烈火ちゃんがマンガやラノベの主人公みたいになっちゃうことなんだよ」
 (……)
(……)そうだね、マンガでもラノベでもいいけど、たとえば魔王にさらわれたお姫様を王子様が助ける『物語』を想像してみて?」
「『物語』?」
「そう。で、もし仮にその『物語』の中で王子様が魔王に負けちゃったら? あるいははじめから王子様なんていなかったら? 烈火ちゃんはその『物語』はどうなると思う?」
「……まあ、バッドエンドになるんじゃねーの? フツーに考えたら」
「そう――そんな時、失われた主人公の代わりにその『物語』に巻き込まれるのが、俺ッチたち波乱家の人間ってわけ。まぁたとえ話になっちゃったけど、要するに『物語』っていうのは、俺ッチたちが関わることになった事件や不可思議のことさ」
 (なめこ印『俺がヒロインを助け過ぎて世界がリトル黙示録!?』、ホビージャパン、2011、pp.25-26)


ところで前島賢氏によれば、こうしたメタ言及性の強い「現代学園異能」は減少しているとのことだったので(残念ながら、私の持つ情報量では検証不可能ですが)、もしかしたらその方向で期待できる作品になるかも知れません。

 つまり『ブギーポップは笑わない』や『涼宮ハルヒの憂鬱』のような変身ヒーローや宇宙人といった存在のありえなさをあらかじめ指摘した上で、なおかつ変身ヒーローや宇宙人の物語を描く物語は退潮している。
 現代のライトノベルは、『灼眼のシャナ』や『とある魔術の禁書目録』のような「オタク文化的お約束にのとった超常現象は起こるが、オタク文化への言及がない作品」と『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』のような「オタク文化への言及がなされるが、オタク文化的超常現象が起こらない作品」に鋭く分化し始めている。
 (前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』、ソフトバンク新書、2010、p.237)


こうしたメタ言及性、何よりも「別の世界観から来たようなキャラ達が一つ所に集まる」という点で、本作が『涼宮ハルヒ』を意識していることは、「宇宙人とか未来人とか超能力者とかと知り合いやすくなる」といった台詞を見ても明らかでしょう。

というわけで、ようやく比較に入ります。
まず、本作は『涼宮ハルヒ』と違って、かなりライトです。円盤形UFOに乗って来る宇宙人とか剣と魔法とドラゴンのファンタジー世界とか、作中で描かれる架空のイメージはいずれもステレオタイプなもので、あまり捻りはありません。あくまでもそれらが複数出会うところがミソというわけですね。文章も(これまた『涼宮ハルヒ』の饒舌さと比べると特に分かりやすいのですが)シンプルで、非常に早く読めます(これは一種の洗練でもありますが)。
が、やはり問題にしたいのは、本作はぐっと「世界の複数化」を進めている、ということです。
要するに、勇者の剣でしか破れないはずの結界に守られた城にワープ装置で侵入してレーザー銃で魔王を倒す、というように、その「物語」では明確に「不可能」とされていることを、別の物語でやってしまえるのです。

その点、『涼宮ハルヒ』シリーズにおいては基本的に、未来人の理論で不可能とされていることを宇宙人がやったり、宇宙人にとってありえないことが超能力者にできたりはしません(もちろん、なぜできるのか詳しいことは理解できないことは多い、というよりほとんどでしょうが)。
分かれるのは解釈だけで、裏を返せば、たとえばハルヒが世界を再創造しているのか、それとも元々だったものを発見しているのか、という点について解釈が分かれるとしても、ハルヒが映画撮影をすることを通じて人の目からビームが出たりハトが白くなったりする超常現象が起こっている、という事実については、皆が一致しているのです。

「その世界においては何ができないか」という不可能性によって、世界の限界が画定される、とでも言いましょうか。

ここで重要なのは、「ハルヒの一存次第で、物理法則も何もかも超越した現象が起こりうる」ということを皆が認めている、という点です。つまり、「“世界の限界”を認めない」という点で一致しているのです。だから、限界によって切り分けられた「異なる世界」が並立することはありません。
とすれば、ハルヒの存在は「複数化した世界を繋ぎ止める係留点」というよりも、「そこから全てを包括する(一つの)世界が広がっていく中心」と言えるのではないでしょうか

これに対し、『俺がヒロインを助け過ぎて~』は、はっきりと限界によって切り分けられた別々の世界が出現し、それが主人公の烈火という一点において接触してしまう話です。
ただ、これでどこまで話を続けることができるかは分かりません。アールによれば烈火は数百人のヒロインとフラグを立てたとのことなので、新しいヒロインおよび「物語」はいくらでも投入できますが、本当に数百人分書けるかと言えば無理でしょう。つまり、新しい「物語」の投入だけで続けるのには限界があります。それに、話が出てから作中時間で2時間にして魔王が倒されてしまうといった出オチ感も一つのキモでしたからねぇ(まあこの辺は、少しずつ方向性が変わっていく可能性もあり、何とも言えませんが)。
個人的には、世界を複数化させ続けるのは、なかなか難しいんじゃないかと思い続けていますが。

最後に、メタ小説としてのポイントをもう一つ触れておきましょうか。
未来人(正確には人じゃありませんが)のアールはあくまで「烈火が一人のヒロインを選ぶようにさせる」のが目的であって、自身は「攻略対象」ではないと主張していますが、やはりアールとの出会いで烈火は新たな物語に巻き込まれてしまっていたことが、最後に明らかになります。
言ってしまえば、その物語が本作です
つまり、「烈火が複数のヒロインの物語に巻き込まれる話」自体もまた、数ある「ヒロイン達の物語」と同列の物語の一つになってしまう、ということです。
メタ物語も結局、他の物語に超越しない諸々の物語の一つになってしまうというメタ審級の否定……これもやはり、必然的なのでしょうか。
                           (芸術学4年T.Y.)

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そう言えば、先日21日が私の誕生日でした。誕生日に院試を受けていたという… グリムスにケーキが出現していたのもそのせいですか。  ~~~ 「大学院に(滑り止めまで含めて)落ちたらどうします...
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