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ラブコメは正義か――早矢塚かつや『これからの正義の話をしよっ☆』

立て続けですがライトノベルいきます。

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作者の早矢塚かつや氏は前作も『名門校の女子生徒会長がアブドゥル=アルハザードのネクロノミコンを読んだら』という『もしドラ』(略称)のもじりのようなタイトルを書いていましたが…
今回ばかりは本の裏表紙のあらすじを引用させていただきます。その方が分かるでしょう。

学園の新たな正義について日々探求する少女、叶祈里。
その風変わりな振る舞いと言動に興味を抱いた守川剣司は、彼女が主催する《正義同好会》へと入部することになった。
迫り来るゾンビの群れから一人の犠牲で三人を助けることは社会的に正しいのか?
そんなことを話している日常に舞い込んでくる「バレンタイン中止のお知らせ」。
先導するのは剣司の幼なじみにして初恋の相手、生徒会長の鷲座つばさ。


もう少し続きますが、これで十分でしょう。
タイトルだけかと思いきや、ネタまでサンデルでした
「一人の犠牲で五人を助けることは正しいのか?」というのは、マイケル・サンデルがハーバードでの講義の最初の方で例として扱っていたネタです(『これからの正義の話をしよう』、p.32-)。
この叶祈里(かのう いのり)というヒロイン、大真面目にこの話をしています。

そして、学園ラブコメです。
「剣司の幼なじみにして初恋の相手」であり「生徒会長」の鷲座(わしくら)つばさが生徒会で「バレンタイン中止」(ということは、2月14日にチョコレートを受け渡したりするのを取り締まるのでしょう)なる決議を通そうとしてくるので、「学校でバレンタインをやるのは正義に適うのか?」といった議論をし、この決議を否決させるべく活動する、というストーリーです。
ラブコメの定番たるバレンタインの出来事――告白する女子の思惑やら、チョコレートを貰えない男子の恨みやら――を「正義論」の観点から扱う、という目の付け所は、なかなか面白いものです。
が、何せ作中人物が正面切って「正義とは何か?」を論ずるスタイルだけに、その議論の甘さに気付くと二言三言言ってみたくもなります。
たとえば、同性愛は是か否か、という問いについて。

 いまの社会には目的はない。それが祈里の持論で、それによると、正義に認められるか認められないかなんて話は、できない。だから、
「あくまで仮定の話ってことでいい?」
 佐藤さんは、首を縦に振る。
「もしもね、今のまま結婚と出産で世代を重ねていく社会で、そのうえで持続可能を社会の正義とした場合……二人の関係は推奨されない可能性が大きいと思う」
 (早矢塚かつや『これからの正義の話をしよっ☆』、一迅社、2011、p.109)


もちろん同性愛者を差別しようという話ではなく、「社会の正義をこのようなものと仮定すれば、そうなる」という話です。
しかしそれなら、別の仮定をすれば、同性愛が正義になる可能性もあるのではないでしょうか。そして、特定の仮定を選ぶ理由は何でしょうか。

さらなる問題は、なぜ「社会」が基準となるのか、という問題です。
序盤で、学校を「社会に出るための準備をする場所」と考えることについて、剣司と祈里は合意しています。これはもっともなようですが、常に社会が正義の基準となるのなら、社会そのものが悪をなすことはないのでしょうか

とは言え、この論議はなかなか興味深いものを含みます。
同性愛でも、お互いが好きなら「個人の自由」ではないか、という剣司の意見に対し、祈里はこう答えるのです。

「もちろんそういう考え方もある。でもそれってちょっと危なくてさ……例えば、一夫多妻なんかも、本人たちが認めればOKってことになる」
 (……)
「一夫多妻を認めて円満解決になるのなら良いけどね、自分一人が我慢してみんなが笑顔になれるならって真理ちゃんがムリを始めちゃうかも知れないし、もしくはハーレムをもくろんだ田ノ原くんに脅かされて、無理矢理OKと言わされちゃうかもしれない」
 (……)
「本人たちの勝手とは言うけれど、それと本当に本人たちが勝手に振る舞えるかって言うのはまったく別問題なんだよ。本人の勝手にできるって言うことは、それだけ他者からの操作も受けやすいって事でさ。誰もスリルを味わうためにパンを盗むわけじゃあないんだよ」
 (同書、pp.110-111)


明示的に外圧を受けているわけではなくても、人は常に自由に振る舞えるわけではない、というのはリベラリズムの核心に踏み込む重要な指摘でしょう。
しかし、そこからただちに「ゆえに、正義の基準は個人ではなく(既存の)社会である」ということが導かれるかというと、疑問があります
もちろん祈里は本人たちの幸せを願い、「できたら二人を認める正義を作る」(p.111)と言うわけですが、では今の社会にない正義を「作る」のは何によるのか、という問いはありません。

この問題は奇しくも、コミュニタリアン(共同体主義者)のマイケル・サンデルとリベラリスト(自由主義者)の議論に対応するものがあります。
つまり、個人を超えて社会を道徳や正義の基準をするならば、全体主義の暴力を呼び込む可能性がある、ということです(サンデルの立場のそれに対する批判についてはまたの機会にしますが)。

本作においても、作中人物が議論するのはまず「学校はバレンタインをやることは正義か」ですが、「“バレンタインが必ずしも正義に適うことではない”としても、それを生徒会が強制し、バレンタインをやりたい者を圧殺するのは認められるか」と考えるなら、これは実は政治的暴力とそれに対する抵抗の問題です。
特に、鷲座つばさは鷲座グループが学校に持つ影響力と自らの財力を駆使して、議決権を持っている各委員会の委員長たちに、予算を上乗せすると言って買収するとか、大学への内部進学を取り消すと言って脅すとかいったやり方で臨んできているのですから。

実は、この視点もないわけではありません。
実のところ、バレンタインなんて「どうでもいい人にとっては、ホントどうでもいい」んじゃないか、という問いに、風紀委員長の風祭風花(かざまつり ふうか)は言います。

「そう、どうでもいいことだ。オレとしては、そこに予算の上乗せとか神学のこととかのっぴきならねぇことを持ち込んで来やがった鷲座のヤツが許せん」
 (同書、p.214)


もっとも、風花自身、風紀委員会においては独裁的な人物であるというのが――財力や政治的影響力を駆使するのではなく、慕われているがためとは言え――複雑ながら面白いところですが。
ちなみにこの風祭風花、女の子ですが一人称「オレ」、下品な発言を連発するものの気っ風が良く、科学部部長(定番で服装は白衣)でもありその諜報能力を活かして大活躍、となかなかいいキャラです。

ただ、これはラブコメです。
だいたい、カラー口絵で祈里とつばさが両側から剣司の腕を引っ張っているイラストを見た時点で、つばさがこんなことをやっている理由も予想がついてしまいます
とは言え、それも鷲座グループの跡取り娘という立場上、普通の恋愛をすることも許されないという彼女のおかれた状況から――つまり、彼女が横暴に権力を振るうのも、彼女自身がさらなる権力に圧迫されているから、ということで、権力構造というものの厄介さを思い起こさせる設定です。

さらには、委員長達を説得する中で何回もバレンタインの是非についても考え直されますし、また祈里もバレンタイン中止に反対するだけでなく、バレンタインをやりたくない生徒――もっぱらチョコレートを貰えない男子――のケアを考えたりと、バレンタインの「正義」だけを巡っても色々な観点が浮上します。

というわけで、「正義」の問題をかなり多角的に考える材料はちりばめられているのですが、なにぶん明示的に作中で議論する形を取っただけに、個々の議論が何やら物足りなく感じるところもあるのでした。

最後に一つ。
剣司にとって鷲座つばさは初恋の相手であり、子供の頃の「深窓のお嬢様を窓から連れ出してアバンチュール」という想い出の相手でもあるわけですが、そこに共感できない場合、自分一人のために全校規模の決定を(脅しや買収を駆使して)振り翳されるという剣司の立場は、ストーカー被害とでも言った方が適切なものになるでしょう。
(難しいことを考えないで)ラブコメとして楽しむつもりの場合、そこは覚悟しておいた方がよろしいかと。
                           (芸術学4年T.Y.)

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テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

再びお邪魔いたします

むしろその議論の前段階となっている、ロールズの「正義論」をモデルにしたラノベは誰か書かないのか、ですな。

基本的に今はやりのサンデルよりロールズ派なもんで。

わたしにはそんな畏れ多いことはできないというのも事実ですが。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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