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プリーモ・レーヴィ『アウシュヴィッツは終わらない』

暖かな家で
何事もなく生きているきみたちよ
家に帰れば
熱い食事と友人の顔が見られるきみたちよ。

 これが人間か、考えてほしい
 泥にまみれて働き
 平和を知らず
 パンのかけらを争い
 他人がうなずくだけで死に追いやられるものが。
 これが女が考えてほしい
 髪は刈られ、名はなく
 すべてを忘れ
 目は虚ろ、体の芯は
 冬の蛙のように冷えきっているものが

考えてほしい、こうした事実があったことを。
これは命令だ。
心に刻んでいてほしい
家にいても、外に出ていても
目覚めていても、寝ていても。
そして子供たちに話してやってほしい。

 さもなくば、家は壊れ
 病が体を麻痺させ
 子供たちは顔をそむけるだろう。
  (プリーモ・レーヴィ『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』竹山博英訳、朝日選書、1980)


この本の原題は、冒頭に掲げられた上の詩から「Se questo è un uomo(これが人間か)」です。
イタリア語の se は英語の if に当たる接続詞で「もし~ならば」、「~かどうか」を表しますが、この場合は後者ですね。

しかし、答えはまさしく「これが人間だ」なのかも知れない――問題はそのことです。

 いまファシズムは敗北した。イタリアでも、ドイツでも、自ら望んだ戦争により、一掃された。二つの国は面目一新して廃墟から立ち上がり、困難な再建の道を歩んだ。そして全世界はアウシュヴィッツや、ダッハウや、マウトハウゼンや、ブーヒェンヴァルトに「死体製造工場」があったことを知り、信じられないという驚きと恐怖を味わった。そして同時に、ラーゲルは死んだ、ラーゲルはもう過去の怪物になった。痛ましいことは確かだが、もう二度と起こらない発作的行為だった、その罪はヒットラーという一人の男が負うべきで、そのヒットラーも死んでしまった。そして彼の血なまぐさい帝国も彼とともに崩壊してしまった、と考えて、胸をなでおろした。
 あれから四半世紀を経た今日、私たちは周囲を見回してみるが、安心するのは早すぎたのではないか、という危惧を抱いてします。いまではもちろん、ガス室や焼却炉はどこにもない。だが強制収容所は、ギリシア、ソ連、ヴェトナム、ブラジルに存在する。そしてほとんどあらゆる国に、監獄、少年院、精神病院といった、アウシュヴィッツと同様の、人間から名前、尊厳、希望を奪う施設が存在する。そして何よりもファシズムはまだ死に絶えていない。ある国ではより強化され、また別の国では虎視たんたんと復讐と狙っている。ファシズムはいまだ「新秩序」を約束するのを止めていない。ナチのラーゲル体制についても、しばしば、本当にあったことなのか、とうそぶきはしても、決して否定的な意見を述べようとしないほどだ。だから今日、この種の本は、過去の歴史の証言を研究するといった、穏やかな心境では読めないはずだ。ブレヒトもこう書いている。「この怪物を生み出した子宮はいまだ健在である」と。
 (同書、pp.iv-v)


後は、本文からもう少し。

(……)「家にいるんじゃないぞ(Vous n'êtes pas à la maison)」こは何度も繰り返して聞くことになった決まり文句だった。家にいるんじゃないぞ、ここは療養所じゃないぞ、ここからは煙突からしか出られないんだ(どういう意味だ? この意味はあとになって十分に学ぶことになった)。
 実際、その通りだ。渇きにせめられて、私は窓の外の、手の届く、大きなつららにねらいをつけ、窓を開けて、つららを折りとった。ところが外を巡回中の太った小男がすぐにやってきて、荒々しくつららを奪いとった。「なぜだ?(Warum?)」私は下手くそなドイツ語で尋ねた。「ここにはなぜなんて言葉はないんだ(Hier ist kein Warum)」男はこう答え、私を突きとばして中に押し込んだ。
 (同書、p.27)


もうこれ以上の説明は不要でしょう。

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                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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