オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
量子力学とシュレディンガーの猫
量子力学においては、物質を構成する微粒子――素粒子は、粒子であると同時に波であるものとして扱われます。
これはたとえば光についても同様で、光は光子(こうし 英語でフォトン)という粒子であると同時に、波でもあります。
光の量を抑えていけば、一度に光子1個だけを放射することも可能です(これは技術的にも実際に可能です)。
しかし光子1個だけでも、波としては広がっていきます。

が、たとえば感光するフィルムのようなものを置いてこの光を捉えようとすると、光は粒子として捉えられ、1点だけが感光します。

感光する点がどこになるかは、どの辺りになる確率がどれくらい…と確率的にしか言えません。
波の状態を観測することはできず、捉えようとすれば必ず光子として収束してしまいます。
1つの光子が(波として)2つの穴を同時に通ることも可能で、それは光子が収束する確率のパターンが穴一つでは決して現れない形(干渉縞)になることから分かります。

きわめて大まかな説明でしたが、もっと詳しく知りたい方は朝永振一郎先生の著書でも参考にしてください。
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さて、ここで「シュレディンガーの猫」という有名な思考実験が登場します。
上のような量子力学の効果が現れる事例はたくさんありますが、シュレーディンガーの用いた例は原子核分裂でした。
核分裂もやはり量子力学の効果により、いつ分裂が起こるかは確率的にしか分かりません。そこで、ある放射性物質が1時間の内に崩壊して中性子を発する確率を2分の1としましょう。
上の例で、感光フィルムで位置を捉えるまでは光が波として広がっていたのと同様、ガイガーカウンターで中性子を検出し、“観測する”までは放射性物質は「崩壊していない状態と崩壊した状態の確率重ね合わせ」と考えられます。
さらに、この放射性物質にある装置を組み合わせて、ガイガーカウンターが中性子を検出したら装置が作動し、毒物の入ったビンを割るようにします。これら一連の装置と猫を一緒に箱に入れます。核分裂が起こって装置が作動すれば、毒物により猫は死にます。
そしてこの箱に蓋をします。1時間後、蓋を開けた時に猫が死んでいる可能性は2分の1。
この「シュレディンガーの猫」は一般に、「蓋を開けるまでは猫が生きているか死んでいるか、確定していない」という風に捉えられていることが多いようです。「シュレディンガーの○○」というパロディネタも非常にたくさんありますが、その捉え方に基づくものが多いですね。
しかし、本当にそうなのか、というのがシュレディンガーの問いでした。
※ こういう余計な知識に基づいて「シュレディンガーの○○」ネタにツッコミを入れると嫌われる恐れがあります。ご注意ください。
蓋を開けるまで猫が「生きている状態と死んでいる状態の確率重ね合わせ」などということが、果たしてあるのでしょうか?
そもそも、「観測する」ということは「蓋を開けて人間が見る」ということなのでしょうか?
箱の中で猫が見るのは「観測」にならないのでしょうか。箱の中にビデオカメラが設置してあったらどうでしょうか。それとも、ガイガーカウンターが中性子を検出した時点で「観測」になるのでしょうか。
あるいは、「確率重ね合わせからの収束」というもの自体、物事が確率的にしか現れないことを示すための記号であって、実際にそういう現象が起こるわけではないのでしょうか。
この点については様々な解釈があり、いまだ結論めいたものはありません。
ただ、一つの解釈として多世界解釈というのもあります。
形式的には、「生きた猫を見ている私と死んだ猫を見ている私の確率重ね合わせ」というものを想定しても、何も問題ないわけです。
そこで、実際に別の私が別の状態を見ている別の宇宙が無限に存在する、と考える――それが多世界解釈であり、「他の宇宙」は並行世界(パラレルワールド)と呼ばれます。
(おまけ)
余談ですがシュレディンガー氏はなかなかの男前です。

以下の著作は「シュレディンガーの猫」には関係なく、そもそも専門の物理学に関するものでもありませんが、統計物理学者としての視点から生物の特徴について論じたもので、ワトソンとクリックによるDNAの二重螺旋構造の発見にも大きな影響を与えています。シュレディンガーの明晰かつ数学的に厳密な思考がよく分かります。
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(芸術学4年T.Y.)
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