スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

メタ時間を廃する

昨日の続きですが、まず多少の注意を。

別にタイムトラベル物を否定的に言っているわけではありません。
時間の外に時間があろうが、それが何段階も続こうが、どうなっていてもフィクションの設定としては何も問題ありません。面白ければ何でもやればいいんです(その前の可能世界の話についても然りです)。
ただ、それが当たり前だと思い込むのは、元々の想像力がよほど豊かでない限り、あまり発想を豊かにはしないだろうと思っていますが。


さて、話は『涼宮ハルヒ』に戻ります。
前回分類した類型に当てはめようと思えば、『ハルヒ』の場合、過去の改変が可能であるらしい旨を読み取ることもできますし、また並行世界に当たるものを見て取ることも可能でしょう(最新刊『驚愕』では、時間が分岐するという話も出て来ましたし)。
ただ、今回やりたいのはそういうことではありません。
むしろ、そういう解釈に前提とされる「メタ審級」を避けようとしている節が見て取れるのではないか――今回はそういう話です。

(以下、『涼宮ハルヒ』シリーズに関してネタバレあり)



シリーズ第7弾『陰謀』の冒頭では、『消失』(シリーズ第4弾)の後始末として、キョン達は過去に戻って一仕事します。
これについて、古泉の長い解説があるのです。

(……)十二月十八日の早朝……長門さんが世界改変を実行したこの時点をX時点と言い換えましょう。あなたが四年前の七夕からX時点に時間遡行したとき、そのX時点は元のX時点ではなかったはずです」
 どういうことだ? 同じ時間がいくつもあるはずはない。
「いいえ、そうとしか思えないんです。簡単な理屈ですよ。X時点での世界改変がなくなってしまえば、そもそも涼宮さんの消失も僕たちの一般人化もなかったわけです。そうしたら、あなたが過去に戻る理由もなくなってしまう」
 (谷川流『涼宮ハルヒの陰謀』、角川スニーカー文庫、2005、p.41)


ここまでがタイムパラッドクスそのものの説明です。ここから古泉は図を描いて説明を行います。長くなりますが、『消失』のおさらいも含みますし、引用してみましょう。

 (……)古泉は水性フェルトペンを手に取るとホワイトボードに歩み寄った。ボードの下から上へと向かう縦線を引きながら、
「この上向きの線から過去から未来へ向かう時間の流れだとします。そして――」
 と、ボード中央で線を止め、線の頭頂部に丸い点を付けてXと書き入れる。
「これが最初のX時点です。ここで長門さんは自分を含む世界を改変させ、あなたの記憶にある通りの時間が生まれます」
 古泉はペンを動きを再開させた。直線の動きではない。右に向かう急カーブを描いて、出発地点のXへと戻ってくる円を完成させる。朝顔の双葉から一枚の葉をむしり取ったみたいな図ができあがった。
「この円があなたの記憶にある十八日以降の歴史です。脱出プログラムで四年前の七夕に遡行し、そこから十八日未明にジャンプする。そこで長門さんを正常化できればよかったのですが、そうではなかったんでしたよね」
 朝倉涼子がいたからな。ただしそこにいたのは朝倉だけじゃない。未来から来た別の俺と長門と朝比奈さんもいて、ちゃんと世界をなんとかしてやった。今の俺からすれば一ヶ月ほど前のことだ。
「そうでしたね。あなたは自分自身を救ったわけです。それが――」
 点Xから動き出した古泉ペンは、今度は左向きの円を描き出した。
「――こちらの時間となります。今この世界に続いてる時間ですよ。僕や涼宮さんの記憶通り、十八日にあなたが階段落ちして気を失い、二十一日になるまで目覚めなかったというほうのね。そして今月、自分を救いに行ったというあなたの時間の動きでもあります」
 左に周回した円を描き終えても古泉は手を止めなかった。Xを通過する直線を動きをボードの上へと伸ばしていき、上限に達したところでペンを置いた。ボードから半歩下がって俺を眺め、俺はじっくりとその図形を見る。
 横に寝かせた8の字、ようは∞マークのど真ん中を縦線が貫いている様子を思い浮かべると話は早い。すべての線が重なり合っている中央の交点がX時点である。
 (同書、pp.42-43)


さらに、

「X時点は二つあることになります」
 古泉が答えを言った。
「世界改変を発生させたX時点と、改変された世界を再改変した――そうですねX'地点とでも言いますか」
 ぺンを置いた古泉は興味深げに自分の絵図を眺め、
「XをなかったことにしたらX'が発生しません。だから元のXは消去されているわけではない。おそらく、このX時点は時間的に重なっているのだと思われます。重ね撮り……そう、上書きされたんですよ。古いデータの上に新しいデータを重ねて記録するように、一周目のXとそこから派生した改変世界は、X'と二周目の時間軸によって覆い隠されているんです。しかし完全に消えてはいない。それはそこにあるんです」
 (同書、p.44)


時間を線として図に描いている限り、その図を描くホワイトボードというメタ審級を前提せざるを得ないというところはありますが(この後になされる「立体交差」といった喩えも然り)、それは便宜上のことと考えてみましょう。

この図は、複数の世界を並べて「改変前」と「改変後」と呼ぶようなメタ時間を求めません。
改変された「消失世界」は再改変で元に戻された世界よりも「前」というわけではありません。時間軸が円を描いてX時点に戻るという図式によって表されているのは、キョンが時間遡行してX時点に戻り、長門を元に戻して世界を再改変させるという操作、さらには同じ日付を持つ「消失世界」と「この世界」(SOS団のある世界)の二つの出来事までもが、あくまでも「一つの世界」の中の時間の流れに還元される、ということです

もう一つ、注目しておきましょう。説明の中で古泉は、キョンの動きを追って時間の線を引いています。最初に描かれた左側の円(「消失世界」の時間)がX時点に戻ることは、キョンが時間移動で十八日未明に戻ったことに対応しています。
つまり、この時間はキョンによって「生きられた時間」です

「私」は一人でしかあり得ず、よって私によって生きられた世界は一つである。この生きられた世界の一性が常に世界の複数化に先立つということ、そして「セカイ系」とはまさしくそのことを描くものであるということ――これは今まで主張してきたことです。

この点に関しては、もう一つだけエピソードを挙げておきましょう。
『涼宮ハルヒの暴走』収録の短編「エンドレスエイト」は、夏休み後半の二週間の時間がループする話です。
この話はアニメで8回ほとんど同じ話をループ放送して問題作となったりしましたが、原作は数ある時間ルプ物の一つで割と普通、という印象です。
ただその特徴は、15498回という途方もないループ回数の多さと、登場人物達がほぼ完全に過去のループの記憶を失っている(そうでなければ正気でいられないでしょうが)という徹底性です。
ただ、たまにかすかなデジャヴュが感じられる程度ですね。
つまり、15498の世界は互いにこれ以上ないほど関連を断たれている、と言えます。その内のただ1回、15498回目がたまたまループを脱することに成功しただけ、とも言えるわけです。
それでも、このエピソードの最後では以下のように語られます。

「一万五千四百九十七回、それだけのシークエンスにいた僕たちと、今の僕たちは記憶を共有していません。過去それだけ分の僕たちは、この時間軸においては存在しない。一万五千四百九八回目の僕たちだけが、正しい時間軸に再び立ち戻ることができたわけですから」
 だがヒントは貰った。あの何度もの既視感、特に最後の俺の感じたアレは、以前に同じ立場にいた俺たちからの贈り物だったのかもしれない。以前というのもおかしいか? 以前も何も、時間は虎が溶けてバターになるほどのメリーゴーラウンド状になっていただけらしいからな。
 それでも俺は、今の俺があることを先に二週間を過ごしていたその俺たちのおかげだと思いたい。そうでも思ってやらなければハルヒに無かったことにされている彼らの夏がまるで無駄だったと言わんばかりじゃないか。
 特に自分たちがリセットされることに自覚のあった、八千七百六十九回分の俺たちがさ。
 (谷川流『涼宮ハルヒの暴走』、角川スニーカー文庫、2004、p.84)


ここでは確かに、15498回繰り返した二週間を貫く「一つの世界」が、その行き着く果てにループを脱した「9月1日」に到達したのだ、という信条が語られています。それこそ「す思わなければやっていられない」というレベルの願望であるにしても。


※ 以下の文献は内容的に直接の関係はありません。

生きられる時間〈1〉現象学的・精神病理学的研究生きられる時間〈1〉現象学的・精神病理学的研究
(1972/01/01)
E. ミンコフスキー

商品詳細を見る

                           (芸術学4年T.Y.)

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。