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山川賢一『成熟という檻 「魔法少女まどか☆マギカ」論』

言い忘れていましたが、昨日フィンランド語の課題(試験の代わり)を提出しました。メールで。
語学の課題をメールで提出するのは珍しいですね
ä や ö のフォントが出せないと困ります。
まあ、これにて前期の課題はほぼ終了。正確には9月に追試がありますが。

 ~~~

はい、読書紹介行きます。

成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論
(2011/08/10)
山川賢一

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帯に「オフィシャル評論」とあります。『魔法少女まどか☆マギカ』の画像が多く掲載されていることを見ても、制作者サイド公認ということでしょうか。まあこれらの画像、本文との関わりが薄いカットが多くて、あまり有効に使われているようには見えませんが
他にも、いささか誤植が目立ったりするのが気になるところです。急ぎの出版で校正が不十分だったのか。

それはそうと、本文の話です。まあ批評なので、当然『魔法少女まどか☆マギカ』本編に関するネタバレが入ります。
本書の構成は、さやかと杏子、まどかとほむらという二組にそれぞれ焦点を当て、「第1章 希望のない檻――さやかと杏子」「第2章 希望の檻――まどかとほむら」の2章に分かれています。

第1章のかなりの部分は、Jホラー(映画『リング』『回路』など)やゾンビ物についての分析を通して、「非人間的な秩序」の恐怖を描いた作品の系譜の内に『魔法少女まどか☆マギカ』を位置付けます。
つまり「人間の理解を超えた怪物」が登場するのではなく、怪物も体系立った秩序に従っており、その秩序が破局をもたらす、という類の話ですね。
この分析の中では、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』H・G・ウェルズの『タイムマシン』『モロー博士の島』といった小説がゾンビ物の系譜とされています。吸血鬼やゾンビがいかに厳密なルールに従っているか、それでいて、そのルールに従いゾンビが増殖して街を埋め尽くすこと自体が恐怖の対象の描かれることを考えれば、この話はよく分かるでしょう。
そして『まどか☆マギカ』における魔法少女の悲劇もまた厳密なルールに従ったものであり、感情のないキュウべえも無機質なシステムの象徴のように描かれています。

この第1章での分析と、第2章でのほむらについての分析を通して解明されるのは「魔法少女の生存条件」です。
脚本家・虚淵玄の『フェイト/ゼロVol.1「第四次聖杯戦争秘話」』のあとがきのおける発言も参照されつつ、世界そのものが「悪に傾いて」おり、それに逆らう希望を持てば絶望で報いられるという「条理」が示され、杏子のように希望を捨てるにせよ、ほむらのように希望に縋り続けるにせよ、非人間的な秩序の「条理」に従うことこそ「生存条件」だというのです。

なお、第2章ではほむらのタイムループやインキュベーター(キュウべえ)についての分析も行われますが、その辺の話は割愛しましょう。

ここから明らかにされるのは、さやかが魔女化して杏子が希望と優しさを取り戻し、さらに杏子の死にほむらが動揺する、という一連の展開は、実のところポジティヴなものではなく、要するに“死亡フラグ”の連鎖――「玉突き事故」(p.158)だということです。
理に適った展開は展開は必ず悲劇に向かう――しかし、最終話でまどかは「理」の強すぎた世界を改変し、いわば「正義」「愛」「理」の「折衝」(これも虚淵自身の言葉に基づきます)を達成します。
このことから、「最終輪のまどかはなぜ、ずっとまどかの契約を防ごうとしてきたほむらを説得しないまま契約したのか」という問いにも答えが出る、と著者は考えます。まどかだけを救おうとする「愛の人」ほむらと「正義の人」まどかは、決して相容れることはないからです。

(……)愛の人ほむらが肩に「理」の象徴であるキュウべえをのせ、正義の人まどかの弓で戦うこの〔ラストの〕シーンは、「理」、「愛」、「正義」の三者が、少なくとも以前よりは理想的な均衡状態に落ち着いたことを示している。
 (山川賢一『成熟という檻 「魔法少女まどか☆マギカ」論』、キネマ旬報社、2011、p.170)


この後にタイトルにある「成熟という檻」とヒーローの問題が論じられ、魔法少女(ヒーロー)になることを「成熟」とするならば、タイムループにおいてまどかは「成熟する限り救われない」ことになっていた、ということです(しかしこの辺り、そこまでの流れとの繋がりはいささか希薄な感はあります)。
そしてここで、『新世紀エヴァンゲリオン』(TV版)との興味深い比較も行われます。
『エヴァ』の碇シンジは当初、ゲンドウ達に言われるままエヴァンゲリオンに乗っていましたが、それに対して疑問を突きつけられる展開があり、親友・鈴原トウジの乗るエヴァンゲリオン三号機の破壊命令を受けたことを転機に、一度逃げ出します。しかし仲間のピンチに、自ら戻ってきて戦ったのでした。

 『新世紀エヴァンゲリオン』が破綻した理由については憶測するしかないが、一つ言えるのは、第十九話からの物語をポジティヴなほうへ運ぶには、騙されてエヴァに乗るのと、自発的にエヴァに乗るのとでは大きな差がある、という前提に立たねばならないことだ。この前提が、監督だった庵野秀明には嘘くさく感じられるようになったのではないか。人格的に成長しようとしまいと、シンジにはエヴァに乗るか降りるかしかできない。出来ることが変わらないなら、けっきょく彼はゲンドウの道具という地位から抜け出せない、というのが現実だろう。
 (同書、p.190)


自発的に戦っているか否かが意味を持たないとは、どういうことかと言うと、

 虚淵玄は『まどか☆マギカ』で、悲劇から進化したまったくちがう二つの系譜――「非人間的な秩序」ホラー、ヒーローもの――を、ふたたび、しかし逆転したかたちで接合している。苦しみの運命に耐えることで英雄になる物語を、英雄でありつづけなければ死ぬという運命に苦しむ物語に変形させたのだ。
 そのため『まどか☆マギカ』では、おのれの意志を貫くヒーローと、意志を持たず本能に操られるゾンビという、ほんらいは正反対であるはずのものが一致してしまう。
 (同書、p.184)


これに対し、最終話のまどかは希望を肯定するわけですが、著者はこの解答も「あくまでまどかが出した答えでしかない」ことを強調します。

(……)すでにみたように、この作品のなかでは「理」、「正義」、「愛」という相容れない価値観が互いに争っていて、「理」は死地に赴くヒーローをバカ呼ばわりするし、愛は「あなたを大切に思う人の気持ちも考えて!」と異議申し立てをする。ラストでは一応の均衡状態が描かれるにしても、決定的な結論は出ていない、ととるのが筋だろう。
 (同書、p.192)



本書は『魔法少女まどか☆マギカ』という作品について、著者自身「あとがき」で述べているように、「論者の個性をなるべく抑えて、作品のスタンダードな解釈を築くことを目的と」(p.196)した評論としては、十分なレベルと思われます。
ただ、内容の解釈というよりはニュアンスの問題となりますが、その上でなおも『まどか☆マギカ』の提示する、力強く肯定的な面を見逃したくはない、と思います。

つまり、「正義」「愛」「理」は互いに相容れず、「正義の人」まどかの答えもその三分の一でしかないとしても、そのことは答えの価値を減じはしないのではないか、むしろそうした異なる価値観との間の「友情」こそ、著者も指摘するキュウべえ的な全体主義(人間以外のものに対してそう言って良ければ、の話ですが)に抗するための武器となり得るのではないか――と。

そして、孤独なヒーローたることが強いられた運命であろうと、その運命を享受することこそが意志でありうることが、つまり、もはや必然的な運命と自由な意志が対立しないことがあるのではないか――と。

 まことに、わたしは百の魂、百の揺りかご、百の陣痛を経てきた。わたしはすでに幾度もの決別をした。わたしは胸を引き裂く最後の瞬間を知っている。
 しかし、わたしの創造的意志、わたしの運命がそう欲するのだ。もしくは、もっと率直に言うなら、わたしの意志が欲するのは、まさにそうした運命なのだ。
 (ニーチェ『ツァラトゥストラ』「至福の島々で」)


                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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