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先端のパロディ文学――逢空万太『這いよれ! ニャル子さん』

読んだライトノベルの中には、バカバカし過ぎて紹介するのに困難を感じていた作品もありました。

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)
(2009/04/15)
逢空 万太

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とりあえず内容を説明してみますと…
高校生の八坂真尋(やさか まひろ)はある夜、謎の怪物に襲われて、銀髪の美少女に助けられます。
彼女は、

「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプです」
 (逢空 万太『這いよれ! ニャル子さん』、GA文庫、2009、p.11)


タイトルを見た時点で分かる人にはお分かりと思いますが、クトゥルー神話の邪神、“這い寄る混沌”ニャルラトホテプです。
つまり、この世界ではクトゥルーの邪神達が実在していて、その正体は宇宙人、という設定です。
件の少女はニャルラトホテプ星人で(ちなみに「ニャル子」は通称。本名は地球人には発音できないらしい)、別の邪神=異星人に狙われた真尋を守るため、宇宙連合の惑星保護機構のエージェントとしてやって来たというわけです。

かくして両親が留守の八坂家にニャル子が同棲し、学校にも通いつつ敵を迎え撃つ……というと定番のラブコメ&異能バトルのようですが、本作の特徴は何と言っても、その定型の裏を掻いてをパロディ化しているところです。
真尋はニャル子のラブコメ的アプローチに対してとことん冷たく、フラグを片っ端からへし折り(巻が進むと多少の変化はありますが)、奇行と暴走に対してはフォークを武器に暴力を振るい(強い主人公に非力なヒロインが暴力を振るうのの逆パターンですが、巻が進むとともに真尋のフォーク捌きも超人的になっていきます)、ニャル子はニャル子で弁当に得体の知れない食材を入れてきたりと必ず何かまともでなく、さらには敵を残虐に殺します
そして明らかになる敵の目的……は地球人と変わらない、しょうもないもので、この「がっかりオチ」も毎巻恒例。
さらに言うと、ニャル子たちはあまり捜査などしていません。「仲間から連絡がありました」で敵地判明→乗り込むか、さもなくばほとんど偶然任せの展開だったりします。そうやってストーリーを盛り上げる要素は抑え、バカバカしい掛け合いばかりで1冊話が書けてしまうという筆力、かなり驚くべきことですね。

が、本作のさらなる特徴はその異様なパロディネタの密度でしょうね。
ともすればほとんどパロディの小ネタばかりでページが経過し、決め台詞すらどこかのパクリです。
たとえば…真尋とニャル子の身体が入れ替えられる(定番ネタ)3巻で、真尋がニャル子の身体でどれくらい力を発揮できるか、という場面(もう一人この場にいるのはクトゥグアの「クー子」です)。

「クー子、どうです?」
 ニャルラトホテプが隣のクトゥグアに話しかける。そのクトゥグアはというと、右耳に何やら小さな機械を装着していた。その機械からは眼鏡のレンズのような透明な材質でできたパーツが伸びており、それがクトゥグアの右目にかかるようになっている。単眼鏡、いわゆるモノクルらしきものだろうか。
「……23000」
「……何、その数値」
「戦闘力です。駄目駄目ですね、やはり精神が身体に馴染んでいないようです」
「……数値の基準がさっぱり分からんぞ」
「そうですねぇ……農家の人が猟銃持った情態がです」
「明らかに化け物じゃねえかどんだけ優遇されてんだよこの身体」
「でもいつもの私の戦闘力が530000ですよ」
「インフレもいい加減にしろよこの野郎」
 何だか、『ぼくのかんがえたさいきょううちゅうじん』みたいな様相を呈してきた。中学二年生辺りがRPGを作ると、きっと主人公がこんな感じになるのだろう。バランスも何もあったものではない。
「まあでも、真尋さんが入っているといえ23000はいい数値だと思いますがね」
「全然嬉しくない」
「ですが地球じゃあ二番目です」
「……なら一番は?」
「スティーブン・セガールです」
「猟銃持った農家の四千六百倍強いこの身体より上って何者なんだよセガール」
「いや、マジで強いですよセガール。宇宙にはジョーンズ星人って種族がいるんですが、その中の一個体でとある宇宙犯罪組織に所属していた奴がいましてね、そいつが惑星保護機構の目を盗んで地球に降下して米軍の退役間近の戦艦を乗っ取って核弾頭搭載トマホーク巡航ミサイルで世界を脅迫した事件があったんですけど、たまたまコックをして戦艦に乗っていたセガールに為す術もなくやられてますからね」
「むしろセガールが宇宙人じゃないのか」
「その事件の後に逮捕されたジョーンズ星人は述懐しています。『この星のケーシー・ライバックは……強い』と」
「もうセガールに地球守らせとけよ」
 ツッコミのしすぎで吐き気がしてきた。今日、学校を休んでは駄目だろうか。
 (逢空万太『這いよれ! ニャル子さん』3巻、GA文庫、2009、pp.136-138)


いまさら説明不要とは思いますが、クー子が装着しているのはもちろん『ドラゴンボール』のスカウターです。

ドラゴンボール ラディッツ
 (鳥山明『ドラゴンボール』17巻、集英社、1989、p.40)

ちなみに、真尋はクトゥルーには詳しく、邪神の名前を聞けば「あれか」と分かるのですが、この場合作中世界に元ネタの『ドラゴンボール』はない扱いで、『ドラゴンボール』を知らない人による描写のように淡々とスカウターの形状を描いていますが、これがまた簡潔にして明晰。
そこからドラゴンボールネタをしばらく続けた後、『怪傑ズバット』の決め台詞(「あんた、日本じゃあ二番目だ」)を経て映画『沈黙の戦艦』(主演スティーブン・セガールで役名がケーシー・ライバック)へとネタは移行するのですが、実にこれが自然。
パロディの継ぎ接ぎをなぜかくも空気のように自然に書けるのか、私がこれを語る言葉を持たなかった理由がお分かりでしょうか。

ただやはり、息が短く簡潔な文体が無色の地のように働き、何を嵌め込んでも自然に見せている、というのはあるでしょう。
この簡潔さは感情も排しています。「ツッコミのしすぎで吐き気がしてきた」という箇所にしても、本当に真尋に共感してうんざりしていたら笑っていられないわけでして。
一方で、ニャル子がスティーブン・セガールについて語っている台詞などは読点もなしにかなり長い(ブラウザのスペルチェック機能が文句を言ってきます)。ニャル子の饒舌でウザいキャラを表していて、上手く計算されています。

それから、パロディのネタ元は結構色々ありますが、かなり特撮――特に『仮面ライダー』ネタが多いのも特徴です。
そもそもニャルラトホテプは「無貌の神」で姿を自在に変えることができ、ニャル子の銀髪美少女の姿も地球人に合わせて変身したものという設定。
そして強敵と戦う時には特撮ヒーロー風の重厚な姿に変身します。

ニャル子 フルフォースフォーム
 (『這いよれ! ニャル子さん』3巻、p.283)

実はヒロインが特撮変身ヒーローというのも、結構珍しい設定ですね。
                           (芸術学4年T.Y.)

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