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「オウム真理教」から16年

もしかして若い読者は「オウム真理教」とか「地下鉄サリン事件」と言っても、リアルタイムの記憶がない年代もいることになりますか……
が、とにかく最近、そのオウムに関する著作を読んだので紹介します。

オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義
(2011/03)
大田 俊寛

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オウム事件当時に出た本ではありません。事件から16年を経た今年になって出版された、宗教学者による研究書です。

著者はまず、事件直後に出たオウムに関する著作を「元信者の著作」「ジャーナリストの著作」「学問的著作」の三つに分けた上で、「学問的著作」の多くは視野が狭すぎ、さらに思想的に偏っていたりしたために、客観的な分析をなし得ていなかった、とします(具体的に挙げられているのは中沢新一、宮台真司、大澤真幸、島薗進、島田裕己)。
視野が狭すぎるというのは、七十年代以降の日本社会のみの問題を考えているということです。これに対し、たとえば仏教史全体から考えるのは視野が広すぎる、ということも指摘した上で、著者が提示するのは、「近代」における宗教をめぐる問題という視点であり、具体的には(書名にある通り)「ロマン主義」「全体主義」「原理主義」という三つの潮流がオウムの源流にある、とします。

これらの思想的潮流は古いものでは二百年以上歴史を遡るわけでして、これでもすでに広すぎると思うかどうか、難しいところです。
必ずしもオウムに限らず、「近代においてカルト宗教が力を振るう理由」という問題を扱った書物と見た方がいいのかも知れません。著者もこの点は認めています(最後に「オウムほど活発で過激な行動に出たものはきわめて希」(p.279)と述べ、日本特有の事情も少し考察してはいますが)。

第1章ではまず、著者なりの宗教の定義が行われます。

 このように人は、他者からの保護や教育を受けることによって、初めて生きうる存在となる。そして、人が教育において習得する知識のほとんどすべては、自分が生まれる前に存在した人々によって『作り出され、伝達されてきたものなのである。この意味で言えば、人間の生は実は、その人物が生まれる前からすでに始まっている。人間は常に、自分より前に生きた人間の「続き」を生きてゆかなければならないのである。
 人間は、生まれ、育ち、老い、最後には死を迎える。死によって肉体は潰え、すべては無に帰るかのように見える。しかし、実はそうではない。しかし、実はそうではない。死んだ人間が生きているあいだに作り上げた財産や、彼が伝達してきた知識は、残された生者たちのなかでなおも行き続けるからである。この意味において人間の生は、その死後もなお存続すると言わなければならない。
 (大田俊寛『オウム真理教の精神史―ロマン主義・全体主義・原理主義』、春秋社、2011、p.28、強調は原文では傍点)


こうして「生死を超えた『つながり』」を扱うのが、宗教というわけです。
この定義は特に参考文献も指示されておらず、著者独自のもののようですが、かなり重要なポイントです。

そして16世紀頃から、カトリック教会の権力から独立した国家の「主権」という考えが登場するわけですが(著者はホッブズとルソーを引用します)、この「主権」というのは、教会の至高性をモデルとしながら宗教とは分離されているという、ある種矛盾した性質を持つものでした。それゆえ、国家は時には国民に死を強要しながら(戦争のような場合)、それによる死者を弔うことができません。
こうした矛盾こそ、近代社会において歪んだ宗教が出現する原因である、というのが著者の主張です。

第2章ではロマン主義的な宗教観――個人の神秘的体験に重きを置く――が、第3章では大衆がカリスマ的支配者に自らを委ねる全体主義が、そして第4章では原理主義――本来の意味は、20世紀初頭にアメリカに出現したキリスト教原理主義を指します――が思想史的に論じられ、オウムがそれらすべての特徴を受け継いでいることが示されます。第5章は「オウム真理教の軌跡」です。
理性を絶対視する啓蒙主義への反発としてロマン主義を捉えるあたり、割と教科書的にオーソドックスな記述という印象もありましたが、まあこれ以上細かいことにこだわる必要はここではない、ということでしょうか。

興味深い分析です。
カルト宗教が近代そのものの抱える病理ならば、また第二第三のオウムが出現する可能性もある、ということです。
考え直されるべきは「宗教」のあり方なのか、それとも国家なのか――著者はそこまでは問いませんが、もしかすると転機はすでに迫っているのかも知れません。
                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
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