オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
非実用フランス語講座
大部分は学術書ですが、それに混じってこんなものも買ってみました。
『涼宮ハルヒの憂鬱』フランス語訳です。
ちなみに、フランスではシリーズ続刊の翻訳はまだ出ていない模様。
紙の質が良くないペーパーバックであるせいか、角川スニーカー文庫の2倍くらい厚みがあります。ページ数はむしろ少ないのに。
巻末にはコミック版(漫画/ツガノガク)の冒頭部20ページ分くらいも収録されています(当然フランス語訳。ちなみに、以前にも触れたことがありますが、、訳す文章が少ないせいか、コミック版の方が翻訳は進んでいます)。
日本の manga は縦書き仕様なので、「後ろから読んでください」という旨の注意書きがあります。
気になるのは文章ですが…まあ独特の言い回しのニュアンスを翻訳するのはなかなか難しいことでしょう。ただ、ほんの少しだけ目を通した印象では、副文を加えて文章を長くするのは西洋語の得意とするところなので、あの途切れずまくし立てるキョンのモノローグには、結構合っている印象もありました。
「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者」が英語でどう訳されているかは大森望氏が引いていましたが、フランス語ではどうなっているかと言うと…
《des extraterrestres, des voyageurs du futur, des habitants d'autres mondes ou des individus ayant super poivoirs》
文字通り「地球外の(もの)」を表す extraterrestre は良いとして、フランス語には英語のエスパー(esper)に当たる単語は無いんでしょうか。文字通り「超能力を持つ個人」なんですね。
異世界人もそのまま「他の世界の住人」です。これは「他の並行宇宙の住人」という解釈をするかどうかの問題なのか…ただ英語の slider が英語圏のTVドラマに由来するとすれば、やはり同じように通用する単語はない可能性が高いでしょう。
voyageur du futur は直訳すれば「未来からの旅人」ですが…ただ、冒頭のキョンのモノローグでは《les visiteurs de futur》(未来からの訪問者)となっていました。どっちでも良さそうなものですが、訳語を統一していない辺り、この訳者がどこまで信用できるのか、よくは分かりません。
(常に統一しなければならないわけではありませんが、文脈的に違う意味で使われているわけでもないのに、変える必要もあたりないような…)
さらにどうでもよくなってくるのですが、プロローグのこの辺り、
(……)宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や悪の組織やそれらと戦うアニメ特撮マンガ的ヒーローたちがこの世に存在しないのだということに気付いたのは相当後になってからだった。
いや、本当は気付いていたのだろう。ただ気付きたくなかっただけなのだ。俺は心の底から宇宙人や未来人や幽霊や超能力や悪の組織が目の前にふらりと出てきてくれることを望んでいたのだ。
(谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』、角川スニーカー文庫、2003、pp.5-6)
どうもここでは「超能力」が《super heros》(スーパーヒーロー)と訳されているらしい。その後の「ヒーローたち」は単に《ceux qui les combattaient》=「それら〔=悪の組織〕と戦う人たち」になっています。
なお、「アニメ特撮マンガ」は《les dessins animés, les séries et les bandes dessinées》でした。
série は英語の series (シリーズ)と同じなので、「フィルムの連続」を表しているんでしょうか。並の仏和辞典では適当な語義は見付かりませんでした。
(おまけ)
ところで、表紙のデザインは英語版もフランス語版も同じのようです。
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(色はこっちの方が現物に近いです。我が家のスキャナーを当てにしてはいけません)
語学の勉強に日本語原文と対照して読んでみるのも一興ですが、多分易しくはないでしょう。
(芸術学4年T.Y.) テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育
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