スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『エヴァゲリヲン新劇場版:破』――補論

昨日の続きになります。
まず、「セカイ系」を、TVシリーズ版『新世紀エヴァンゲリヲン』に影響を受けた一連の動きとしてを位置付けた前島賢氏の論考(詳しくは過去記事にて紹介 → 1 2 3)が、『エヴァンゲリヲン新劇場版』に触れていた箇所を見ましょう。
TV版のリメイクということで、ループものという可能性もあり、とすればセカイ系の「一種の到達点とも言える」ループものが(セカイ系の)本家エヴァにまで及ぶ、というわけで「なかなか興味深い事態であると言える」と言いつつ、前島氏は続けます。

 ただ一方で、『新劇場版』には、本来の意図でのセカイ系、つまり「エヴァっぽさ」や「自意識」から逃れようとする意図が感じられるのも事実である。
 たとえば原作『エヴァ』では碇シンジの父、碇ゲンドウ、あるいは同居人の葛城ミサトなど、主人公にごく近しい人間以外の大人たちが描かれなかった。謎の敵、使徒と戦うために作られた街でありながら、そこでどのような人が暮らしているのかは、ほとんどわからないままだった。
 一方、『新劇場版』では使徒を倒すための作戦を立てる者たちや、あるいは、必要な兵器、機材の設置に励む人々、そしてまた庵野秀明監督の独特の美意識によって描かれる高層ビル街を行き来する人々など、きわめて多くの群衆、群像、風景が描かれ、観客に第3新東京市という街の生活≒社会を感じさせるものとなっている。
 また、何より、主人公シンジの造形も大分、前向きなものとなり、特に、第2作『破』においては、周囲の人間たちと積極的にコミュニケーションをとり、使徒との戦いにおいては、ほとんど熱血主人公のように「違う、綾波は綾波しかいない!」「だから今、助ける!!」と叫び、ヒロイン綾波レイを救おうと懸命にもがく。
 この点をもって(賛否両論だが)多くの論者が、原作からの変化を指摘している。もちろん、第1章で指摘したように、『エヴァ』が急激に自意識の問題へとシフトし、エンターテインメントから逸脱しはじめるのは、後半に至ってのことである。『序』『破』はまだ折り返し地点であり、今後の展開次第だが、楽しみに待ちたい。
 (前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』、ソフトバンク新書、2010、pp.224-225)


ここで、前回言ったことを改めて強調しておきましょう。
『破』においては、TV版にあった「学校のクラスが実は全員ネルフによって集められたエヴァのパイロット候補生だった」という陰謀論的設定はなくなりました(これから出て来ることが絶対にないとは言い切れませんが)。
この設定、流行った……かどうかはともかく、読者・視聴者の側は他の作品を語るに当たって結構引き合いに出していた印象がありました。確かに、主人公の身の回りの人物に超人的な能力の持ち主やヒーロ候補生が揃っている、というありがちな状況を説明するにはそれなりに便利な説明です。
ただ、これは同時に、あまりにも単純明快かつ強力な設定で、大部分の「設定」を無化しかねないのではないか、とも思います。

たとえば、「セカイ系」の代表作の一つ『最終兵器彼女』で、日本が戦争状態になり(今時)空爆を受け、どこと戦争をしているかも分からないという状況なのに相変わらず学校で授業が行われており、これは現代ものの設定としてはあり得ないものだった、ということを思い出してみましょう(そして、そのような「世界設定の欠如」こそ、「セカイ系」の重要な特徴でした)。
こんな状況も、「この戦争の裏で日本も相手国をも操っている組織があり、その組織が情報を断ちつつも、国内の(学校のような)活動は維持されるようコントロールしている」とでも言えば、一応の「説明」は可能です。
と言うより、「世界設定が存在しない」のと、このような「万能の説明を持ち出す」のは、紙一重なのです。

同時に、このような「便利な説明」そのものである「組織」については、十分な説明はなされません(すれば破綻します)。
「この組織とは、日常生活の至るところにその手を伸ばしているところのものである」――説明終わり。
人間は、空気のように当たり前のもののことは普段考えませんからね。

とすれば、前島氏の指摘する「使徒との戦いに関わる大人たしが描かれている」ということと、ネルフ陰謀論がなくなったのは表裏一体のことで、つまりは「ネルフを等身大の、目に見える組織にしようとしている」のではないか、と考えられます。

このように『新劇場版』が「脱セカイ系」を目指している――という解釈が正しいとすると、今後はどうなるか――具体的な予測はとても力が及びませんが、2点ほど検討してみましょう。

・碇ゲンドウの目的について

ゼーレの言う「死海文書のシナリオ」だとか「人類補完計画」だとかについて今回は説明されるのかと言えば、それは疑問に思っています。
ただ、『破』においては、ゼルエル(このTV版での名前を採用してしまいますが)戦で初号機は天使のような姿になり、ゼルエルに取り込まれた綾波レイを分離させて救い出すという見るからに「奇跡の業」をやってのけます。
その時にゲンドウが「これでまた一歩、我々の目的に近付いた」と言っているのも、この神のごとき力が必要だったという話なら、(具体的に何をするつもりにせよ)話は分かりやすい――少なくとも、筋の通った話にできる余地は十分でしょう。
――使徒を食ってS2機関を取り込んだとかいう展開に比べれば。

そして、その路線で――つまり、あくまでも必要なのは覚醒したエヴァの力という設定で――行くなら、綾波レイが巨大化するとかいう展開も不要でしょう。それが次の点です。

・綾波レイの扱いについて

『序』『破』と、続けてクライマックスでは綾波レイを助ける展開になりました。
レイがシンジの母・碇ユイのクローンであるという設定は変わっていないようで(ゲンドウがレイにユイを重ねるシーンがあり、かなり明瞭)、「私が死んでも代わりはいるから」の台詞も健在でした。
しかしそれに対し、(これも前島氏が上で触れている通り)シンジは「違う、綾波は綾波しかいない!」と叫び、助けます。

この後でレイが自爆して死亡、代わりに「三人目」が出て来る……という(TV版にあった)展開をやれば、かなりの脱力感に襲われることは間違いありません。
「ここまでの話は何だったのか!?」と。
TV版でも、あの辺はストーリーというものが溶けていく決定点だったように思えますし(根はもっと前からあったにせよ)。

ここまでの路線のまま行くなら、それはあるまい、と考えます。
ましてや「グレート・マザー」として巨大化するなど……です。
『新劇場版』における綾波レイは、「ゲンドウの手中に握られた“母”」を脱却して、「綾波レイ」という一人の人間になる方向ではないか――そう読みます。

ただこれに対して、あっさりと散り、予告映像で復活していたアスカの扱いをどう考えるかは、ちょっと判断しかねますが。

さあ当たるか。来年を待て。


そう言えば、映像面のことを言っていませんでした。
『序』では、あの無機質な正八面体の使徒ラミエルが多様に変形して見せることで新趣向を印象付けましたが、それは今回『破』でも相変わらず。

・最初の方でアスカに倒された「水飲み鳥」型使徒

これは『新劇場版』の新キャラですね。
細かいパーツの寄せ集めで、崩れるか…と思うと破壊されたと思われたコアはダミー、映像の逆回しのように戻っていく辺りはCG技術の進歩を感じました。
しかし、次の使徒もそうですが、大きいですね。エヴァの正確なサイズは決まっていないとのころですが、大きく取って200mとすると(実際、それくらいに見える場面の方が多いように思いますが)、5kmは下らないように見えますが…

・大気圏外から落下する使徒(TV版での名称はサハクィエル)

TV版では衛星軌道に滞空、爆弾として破片を落としてきて、最後に本体が落ちてきましたが、今回はいきなり隕石のように突っ込んできます。しかも隕石っぽく丸まっていますが、光をも歪めるATフィールドで姿が見えず、黒い球体に目玉模様が無数にチラついているというこのデザイン、最初にあのサハクィエルだと同定できませんでしたよ。
落ちてきて展開した時の形は概ねTV版と同じですが、やはりCGで描かれたサイケデリックな模様が印象的でした(なんかCGの話ばかりですね)。

・ゼルエル

これはCG率低いようです。
TV版では人型に近いものの関節のない土偶のような形で、リボン状の両腕だけが動いて武器になっていましたが、今回は最初ミイラのような形状で、「包帯」が解けて触手になるということで、やはり大分派手な変形を取り込んでいますね。
しかし、零号機を取り込んで人間の女性の胴体を生やした姿はちょっと悪趣味すぎるものを感じました…
戦闘は力押しのみであまり特殊な芸がないのは、今回も同じ(零号機を取り込んだりはしましたが)。
                           (芸術学4年T.Y.)

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。