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デモクラシーについて

昨日の続きです)
今や民主主義とは行き過ぎた平等要求であり、社会を混乱させる…
――こういう「民主主義批判」の意見は、フランスでも(多分、民主主義をある程度達成している各国で?)増えている、と言います。
現代フランスの哲学者ジャック・ランシエールは著作『民主主義への憎悪』において、こうした考えを批判している…とのことですが、その本は私もまだ読んでいないので、同書の邦訳者でもある松葉祥一氏の論を引くことにします。

ランシエールによれば、こうした「デモクラシー(民主主義)批判」は古代ギリシアのプラトン以来のものであり、そしてデモクラシーが自然秩序に反したものであり、社会秩序を混乱させるのは当然である、と反論します。

 では、ランシエールは、なぜ社会を混乱させるにもかかわらずデモクラシーが必要だと言うのか。実は、彼が考えているデモクラシーは、現在の一般的な用法とは異なり、民衆の権力という原義に添ったものである。
 (松葉祥一『哲学的なものと政治的なもの 開かれた現象学のために』、青土社、2010、p.215)


まず、ランシエールの考えるデモクラシーは政治制度ではなく、「普通選挙」「代議制」とかいった制度があれば達成されている、というわけではありません(だから松葉氏はこの論において「民主制」とは訳せない、とします)。
さらに、デモクラシーは政治的理念でもありません(それゆえ、「民主主義」とも訳されないわけです)。

(……)デモクラシーとは、公共の議論から排除された民衆が発言を求めること、そのために政治制度の更新を求める実践そのものなのである。
 (同書、p.221)


選挙で選ばれた議員と言えど、全体の内の「限られた人間」に過ぎないのであり、すっかり議員が支配しているのであれば、それは寡頭制に他なりません。それに対し、今まで排除されていた人々が声を上げるならば混乱は必須であり、にもかかわらず、そうした混乱を伴う実践こそがデモクラシーである、というわけです。

 しかし、この実践が日本では今や忌避されるようになってさえいる。二○○六年三月、フランス政府が策定した雇用「機会均等」法のなかに、二六歳以下の若者を雇用する際、二年いないであれば理由なく解雇できるという初期雇用契約(CPE)制度が含まれていた。これに対して学生と労働者の怒りが爆発し、全国で三○○万人、パリでも七○万人がデモを行い、公共交通機関、郵便局、公立学校、銀行や電力会社など幅広い業種でゼネストが行われた。これに対する日本のマスコミの反応は一貫していた。典型的なのは、朝日新聞パリ支局長、富永格の署名のある記事だった。彼は、「重要政策が街角で揺らぐ風土も健全といえるのか。(……)自由な意思表示は民主国家のあかしだ。同時に、兵舎や宮廷や街角で国が動かないようにする知恵が、議会民主主義ではなかったのか」と述べている。「兵舎や宮廷」と「街角」を同列に置く粗雑さにはあきれるほかないが、日本のマスコミの一般的議論を戯画的に示している。
 ランシエールによれば、このCPEをめぐる闘争で問題になったのは、実はフランス政治制度が、「公共のことがらについて各自が議論し、決定できるシステムとしてデモクラシー」の理念から遠く離れ、「このシステム全体が崩壊にさしかかっている」ことであった。というのも、問題がこれほど大きくなったのは、代議制を絶対視するドヴィルパン首相が、議会を通った法は必ず施行さされなければならないと主張して、法の取り下げを拒否し続けたからである。代議制とは原理上寡頭制であり、すくなくともつねに主権者である民衆による監視と是正がなされなければならない。そのためにデモやストが果たす役割は大きい。
 (同書、pp.223-224)


というわけで、昨日述べたような「システムが安定していればよい」という発想は、こういう日本のマスコミの態度ともよく一致していると同時に、「民衆の権力」というデモクラシーの原義にはまったく反している、ということです。
何より、そういう考え方は、「“全ての民衆の声が反映される”という理想的状況は、すでに達成されている(だからこれ以上変動せず、安定する)」という考えを前提にしています。
それは「排除されている人達」「虐げられている人達」がいるという現実、現実は理想状態とは一致してないという現実から目を背けるものでしかないでしょう。

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                           (芸術学4年T.Y.)

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