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変化と喪失

そろそろ、この間から言っていたライトノベル『僕は友達が少ない』7巻の話をします。
重大なものかどうかはともかく、以下ネタバレあり。

僕は友達が少ない7 (MF文庫J)僕は友達が少ない7 (MF文庫J)
(2011/09/21)
平坂読

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隣人部の活動は前巻から引き続き文化祭…の準備です。前巻では出し物の内容が決まらないまま小鳩の誕生パーティーに話が移ってしまったりで、この巻でようやく準備活動に入りますが、まだ本番には至りません。丸2巻に渡って文化祭準備期間です。
内容が「映画」に決まってからも内容を巡って紆余曲折ありますが…しかし、揉めようがひどい脚本が出て来ようが、難色を示していたメンバーも「撮影が進むにつれて傍目からもけっこう楽しそうに演技するようになった」(p.199)という辺りは、ゲームでも仲間割れしているだけで一歩も進まなかった初期を考えると遠いところに来た印象があります。
そう、それこそがポイントで、今巻は冒頭にエピグラフのように一つの台詞が掲げられています。

 「だって理科たちは、もう友達じゃないですか」
  (平坂読『僕は友達が少ない』7巻、メディアファクトリー、2011、p.11)


そして、2つ目のエピソードのサブタイトルが「本当はもう気づいていたこと」なのを見れば明らかですが、皆が事実上「もう友達」でありながら「友達ができた時のため」「いつかリア充になった時のため」と言って活動をしていたことが、ついに問われることになります。
友達というテーマのシリアスな面が、いよいよ浮上してきます。

冒頭に掲げられた志熊理科(しぐま りか)の台詞がクライマックスで再び登場するところは印象的です。小鷹は、風の音で聞こえなかったと言って、「――え? なんだって?」ととぼけるのですが…
彼が(ライトノベル主人公の基本で)極端に鈍感で、ヒロイン達の本音の呟きを「よく聞き取れなかった」と言っていたのも、本当は分かった上でのことだったのですね。

「――寂しがりやのくせに、他人に率直な好意を向けられるのは怖い」

「――気づかないフリをする。聞こえないフリをする」

「――逃げる。茶化す。誤魔化す。拒絶する」

「――自分は好かれてなどいないのだと、自分の心にさえ嘘をつく」
 (同書、p.250)


なぜか。それは変化を恐れているからです。

 それを言葉にしてしまったら、俺は、俺たちはもう……進むしかなくなる
 進むというのは、変化するということだ。
 それは、とても怖いことなんだ。
 光に照らされた暖かい部屋から、何も見えない真っ暗闇の世界に足を踏み出すような、本当に恐ろしいことなんだ。
 俺だけじゃない。
 きっと夜空にとっても、星奈にとっても、幸村にとっても、理科にとっても。
 隣人部の存在そのものを揺るがす、決定的な変化を引き起こしてしまう。
 (同書、p.252、強調は原文では傍点)


少なくとも、かつて幼馴染だった小鷹との別れを経験した夜空にとって、そしておそらくは転校を繰り返してきた小鷹にとっても、深いところで変化は喪失と結び付いています。

「いきなりいなくなってしまうのは、悲しいものだ」

 …………。
 遠い目をして呟く夜空に、俺は、かつてソラの前からいきなりいなくなった俺(タカ)は、何も言うことができなかった。
「悲しい思いをするくらいなら、こうして適度にじゃれ合っているほうがいい。深い絆なんていらない。…………いやあくまでも猫の話な?」
 (同書、p.97)


決定的な喪失を恐れるからこそ、夜空は10年前の想い出だけを大切に生き、小鷹も現状を「楽しい」とは認めつつも、肝心なことは認めようとしません。

とは言え、事情はもう少し複雑なのかも知れません。
今巻では特に、(前巻から出て来ていたことではありますが)「10年前に小鷹と幼馴染だったことにこだわる夜空」と「“過去のことはどうでもいい”と言う星奈」の対照が前面に出て来ましたが(過去と現在のどちらがいいか「選べない」という小鷹はちょうど中間ですね)、その星奈も、「もう友達」だという現状を認識せず、「友達を作れるよう、これからも頑張ろう!」という空虚なスローガンに同意することでは変わりがありません(夜空との関係については肯定的で、小鷹との仲を進展させることにも満更でもなさそうな描写もありますが)。このスローガンで皆が一致する時、部員の中で理科だけが冷めています(pp.25-26)。

前向きでも後ろ向きでも、「あるべきもの」を見据えている時はいいけれど、今起こりつつある変化は、それよりもずっと恐ろしい――そして、我々は普段、そうした変化に気づかないフリをすることで、日常というものを成り立たせているのではないか、と。
                           (芸術学4年T.Y.)

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テーマ : 芸大・美大・その他美術系学校 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

うーん、若いというのは素晴らしいですのー。

その感性が羨ましいです。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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