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中身は変わっていないはずなのに…

(昨日の話の続きのようなものです)
まずはライトノベル『羽月莉音の帝国』のキャラ、春日恒太の話は以前しました。彼もまた、「成長する/しない」という点から見て興味深い存在でした。
5巻の表紙の中心が恒太です。今月発売の9巻表紙でも主人公みたいに中心にいます。

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(2010/11/18)
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まず、本作の主人公・巳継は(かなり強かったり度胸が据わっていたりと非凡ではありますが)比較的常識的で、成長する主人公です。最初は普通の高校生で、ビジネスも政治経済も知らない彼の「学ぶ」視点から、色々と専門的なことが語られていきます。
気が付けば数多くの修羅場を潜り、一人前のビジネスパーソンにしてカッコ良い主人公に成長しましたね。

対して、恒太はまったく成長しません。
机上の勉強は超優秀だけれど実務に関しては役立たず、仲間のやったことを「ククク…すべて俺の思惑通り」などと言い、しかもオタクで、日常会話では「俺の真眼ギガスが全てを見通すのだ」などと言っている残念なところ…と、何もかも最初から変わりません。
にもかかわらず、彼の立ち位置は劇的に変化し、革命部にとってももっとも重要な存在になります。
実務をやっているのは他のメンバーなわけで、恒太の名声はハッタリによる外見だけ…と分かっているはずの革命部メンバーや読者でさえ、実はつねに揺るがずハッタリをかまし、表看板を張り続けていられる恒太は凄いのではないか……と次第に思わされます。
後から振り返っても、本人の中身は変わっていないのになぜこう印象が変わるのか不思議なくらいですが、実に見事な計算の産物と言う他ありません。

革命部のメンバーで言うと、泉堂柚さんも変わりませんが、彼女はポジションも働き具合もまた変わりません。
日常生活では極端に天然で、ビジネスの内容も仕組みも理解しておらず、ついでに(危険な)珍品ジュースの発掘に異様な熱意を持っていますが(収益上はまったく役に立っていないに等しいのですが)、天才的なプログラマーで革命部の技術開発のエース……と、全て最初から一定しています。

ちなみに、初期にモデルとして革命部のビジネスを支えた折原沙織は、能力的にはそれほど成長することなく、今では一番凡人になってしまっていますが、状況の変化を大きく反映してもいます。何しろ、真面目な優等生だったのが今や学校なんてどうでもいいと言い出すくらいに(実際、世界的なビジネスパーソンとなってしまった今では、学校に在籍しようがいまいが、どうでもいいんですが)。
莉音は最初から超人だったのでもうあまり成長することはなく、むしろ弱い面があるのが次第に知られていくという構成になっていますね。

このように、「成長する/しない」「変化する/しない」を主要メンバー5人の中で計算して使い分けているのがうかがえます。

およそ成長しない恒太は、昨日挙げた定義に従えば、純粋な「キャラ」に限りなく近い存在でしょう。
だから、内面のある人間が外見を繕って演技しているというより、「邪気眼キャラ」――すなわち「キャラを作るキャラ」であって、「すべて俺の思惑通り」とかハッタリを言っているのが全てです。そして、それが恒太の強みです。
語り手である巳継は必然的に内面の悩みや弱さをも読者に露呈し、外向きの態度はあえて繕っているという形になるのに対し、恒太はどんな苦境にあろうが揺らぐことなく、それゆえに表看板としては完璧です。

 (……)ふと俺はあることに思い当たった。革命部グループの危機が表面化しないのは、恒太が常に威風堂々としているからではないか、と。
 俺たちのような苦境に陥った巨大企業の経営者というのは、普通ならマスコミを避けるようになり、逃げ回るものだ。そんな空気にマスコミは敏感に反応し、あることないこと雑誌に書きたてて、粗探しが始まっていく。これだけ人類から注目を浴びている革命部グループだからこそ、この危機に、本来ならマスコミが集まっても不思議はないはずだった。
 しかし恒太が微塵も不安を感じさせないために、世間は革命部の危機など想像すら及ばないのだ。
 恒太は、そこまで読んで行動しているということなのだろうか。まさか……恒太は最初から何も変わっちゃいないはず……。
 それにしてもだ……身内である俺でさえ、恒太には畏敬の念を感じざるを得ないのだった。
 (至道流星『羽月莉音の帝国』8巻、小学館、2011、pp.89-90)


ところで、本作はサブキャラもなかなか強烈ですが、筆頭はやはり日本のフィクサー・海胴総次郎でしょう。
6巻では表紙にも登場していますが…

羽月莉音の帝国 6 (ガガガ文庫)羽月莉音の帝国 6 (ガガガ文庫)
(2011/02/18)
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こんなハゲで悪人面の爺さんがかくも大きく表紙を飾るのは、他所のライトノベルではまずお目にかかれません。
しかもひとたび革命部の味方になってからは「支援させろ」とツンデレな態度を取ってきたりするんだから凄い。
                           (芸術学4年T.Y.)

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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